第3章 6-3 強敵、鎖鎌
アークタが正面から吶喊! 桜葉が急いでヴェルラの退路を封じようと後ろへ回った。そして、気がついた。
(あいつ、剣も槍も持ってないぞ……あれ? 前は普通の剣を遣ってたような?)
さらに、背中へ回していた武器を取り、アークタめがけて構えたそれは……。
右手に大きな片手持ちの戦闘鎌、そしてその柄の先から伸びる鎖分銅。鎖の長さは、少なくとも竜上槍のそれを超えるだろう。竜翼の運動の邪魔にならないよう、器用に分銅を高速で回していた。
桜葉が驚愕する。
(く……! さ……! り……! が……! ま……! だ、と……ッ……!?)
アークタを見た。アークタは気づいているのだろうが、もう吶喊を止められない!
一瞬であった。
アークタの槍がヴェルラをとらえるぎりぎりの間合いで、ジャヴュゥ!! 先に分銅がアークタの額をとらえた。生身だったら、大口径の銃で撃たれたかのごとく頭蓋が爆発していたであろう。ズヴォガアァ!! 効果音とエフェクトが炸裂し、衝撃でアークタが真後ろにぶっ飛んだ。衝突しそうになった桜葉が急旋回でその横を成す術なく通り過ぎる。急所カウンターでアークタのゲージが一気に四割以上も減った。
しかも……。
観客のどよめきで桜葉が視線をゲージから両者へ戻す。なんと、ヴェルラが瞬時の技ですれ違いざまに鎖をアークタの首へぐるりとひっかけ、首吊りに宙へぶら下げて引きずっている!
ガ、ガッ、ガガッ! 細かくアークタのゲージが減り続ける。まさかこのままゼロまで引っ張るか!? 興業的にそんな試合がありかどうかは知らないが、桜葉の出番である!
「……うっしゃあ!」
発奮し、ガズ子を飛ばす。そっちがその気ならこっちにも考えがある。桜葉は槍を捨て、赤城へ急接近した。ヴェルラがその気配に振り返ったときには、桜葉はなんと、ガズ子の背中から大ジャンプで赤城の上……ヴェルラめがけて跳びかかった!!
「……なんと……!」
これにはヴェルラも驚愕! しかし、その場で赤城の首元から跨る片脚を外し、ぎりぎり振り返ったのは流石だった。だが桜葉のほうが速い! ドスン! 赤城の上へ片膝に着地し、ヴェルラがピンと張った鎖で桜葉をひっかけようとした瞬間に両手を添えた刀でその「人中」へ正確に柄当て!!
人中とは鼻の下と唇の上の狭い歯茎の部分で、ここを強打されると人間骨格の構造上ちょうどよく首が前に折れ、延髄に衝撃が直接伝わり、当たり所が悪ければ延髄が折れて即死するという恐るべき急所である。その構造はドラムも同じ!
ガグィ! 小爆発と共にヴェルラの首が前のめりになり、一気にダメージが四割近く減る。観客は何が起こっているのかまったく分からなかったが、とにかく大歓声だけが競技場を揺るがした。
さらに桜葉、柄当ての姿勢から瞬時に鞘引き、抜刀してパッと刀を返すや、切りつけるのではなく相手の右肩口からひっかけるように柄元部分を押し当て、峰に手を当ててドラゴンから落ちるのもかまわず横へ引き倒した。
ズガガッ! さらにヴェルラのダメージが増えつつ、三者共倒れでまっすぐ落下し、ドオッ、地面へと跳ね返って一割づつほどダメージを食らった。
観客の全員が上方のゲージを見やる。アークタが六割強、ヴェルラがほぼ五割、イェフカ……桜葉が一割ちょっと減っている。
「すげえぜ、イェフカ、あたいを助けるのとあいつを引きずり下ろすのと、同時にやっちまうなんてなあ!!」




