第3章 6-1 ヴェルラ
桜葉の言葉が分かるのかどうか。返事をするようにガフゥン、グフゥンとガズ子が鳴く。
乗降台へ上り、ガズ子の首元へ乗り移る。台が外され、正面の扉が開く。ドォッ……! 歓声が既に沸いていた。
ゆっくりとガズ子を歩かせる。桜葉はまだこの世界の季節をよく知らないが、かなり明るい。決勝戦に相応しい雰囲気だ。
会場へ出ると、既にアークタを乗せたドラゴンが真っ向から歩いて向かってきていた。会場のヴォルテージは、これまでにないほど昂ぶっている。桜葉の心臓が口から出そうなほど、鼓動を打った。(何度も記すが、実際には打っていない。)
互いに頃合いの場所で止まる。さすがにアークタ、桜葉・ユズミ戦を観戦して、視線を桜葉から離さない。桜葉もアークタを含めて視界へ映る競技場全体を見ていた。既に無意識で行う、居合の遠山の目付だ。アークタへ集中しつつ、アークタ以外の敵がもし不意に出現しても対処する……ということになっている。本当に対処できるのかどうかは、桜葉次第だが。
ファーーートアトタトターーーー! ピィアアーーーー!! ヴァアーーーー! ヴァアアアアアア!! 桜葉にとって騒音にしか聴こえないファンファーレが鳴り、ゲージが出現。両者が一気に宙へ舞った。大きく弧を描きながら上昇し、互いに位置を取り合う。螺旋の軌道が次第に円錐形となり、両者の距離が縮まる。いつ、どちらからチャージに入るか。ランス戦は同等の実力にして同じ戦法なので、タイミングの取り合いが勝負の決めどころだ。
と、アークタがごく自然にすっ……と軌道をずらし斜め下方へ流れた。誘いかと思ったが、もう体が反射的に動く。桜葉のチャージ! 急降下する!
瞬間、アークタもドラゴンをひねって急上昇! 早速激しいチャージ戦が!!
……と、思われたその時。
両者の合間に、真っ赤な稲妻めいた光線が降り注ぎ、空中で炸裂した。
「なんだあ!?」
桜葉が急いでガズ子を旋回させ、炸裂から逃れる。アークタも空中で横転して急旋回、いったん失速して下降し、ゆっくりと桜葉の後を追って上昇した。
二人が、当然のごとく上方を見やる。
ガズンドラゴンより一回り大きな、深い臙脂色の羽毛をもった大型のドラゴンと、それへ乗る一体のドラムの姿があった。王者のように堂々と旋回するその一頭と一体を見て、桜葉が声を発する。
「あいつ……!!」
クン=バリン王国の、例の褐色肌のドラムであった。
6
会場のざわめきが桜葉やアークタにも伝わった。いまのは、あの赤いドラゴンの「カプラ」か? ふざけた話だが、今の行為がルール違反なのかどうかも判断がつかぬ。しかしこのざわめきからすると、想定外の出来事っぽいが……。
と、褐色肌のドラムがマジックカードを取り出し、口元へあてた。
「テツルギン侯ならび御臨席の方々、そして選帝侯国の御観客へ一言申し上げる」
なんと、場外スピーカー? から、大音声。桜葉は思わず後ろを飛ぶアークタを見やったが、これまでで最も憎々し気で忌々し気、そして怒りの表情で「あいつ」を見上げていた。
「我らはクン=バリン王国ハイセナキス連盟所属の『赤城』並びにロパルツン式三型乙ドュラーンム『ヴェルラ』である。以後お見知りおきを」
ざわめきがさらに大きくなる。会場の連中は、あいつを知っているのか? 桜葉はテツルギン侯を探したが、すぐには分からなかった。
「さて、突然のことで驚きかつ憤慨されている方々もおられましょうが、全テューブラー帝国ハイセナキス連盟規約第六条並びに付属規則第十七但し書きにより、このたび正式に指導へ参ったものであります!」




