表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と居合と中身のおっさん  作者: たぷから
87/97

第3章 5-6 型武道の真理


 「イェフカ、よくやりました、素晴らしいです!」


 クロタルが涙目で桜葉へ抱きついて、濃厚なキスをかました。勝利のおまじないとでも思っているものか。


 その嬉しさも、放心のあまり桜葉は何とも思わなかった。


 とにかく、気抜けている場合ではない。暗くなる前に決勝戦である。いつにもまして、大量の料理が控え室へ運ばれてくる。


 桜葉はスイッチが入り、猛烈に食事を始めた。

 その最中に、バストーラが入ってくる。手には、予備の刀を持っていた。

 「おい、さっきのやつ、見せろ!」


 鞘も割れ、どちらにせよひん曲がって納刀もできないまま、刀は食事とは違う机の上に乗せてあった。


 桜葉が答える間もなくバストーラが大股で近寄り、予備を置いて刀を手にした。そしてじっくりと観察し、


 「……こらすげえ。ユズミがすげえんだ。あいつの剣は、ボーンガウレから持ってきたもんだが、かなりの出来なんだ。それで打ち払われたら、歪みもするし、傷もつく。この擦り傷を見ろ! まったく、ハイセナキスの魔法がかかっているってえのに……」


 バストーラが共に来た弟子へ刀を見せた。鋼鉄の刀に、削ったような傷がいくつもある。刃も豪快に欠けてノコギリ刀だ。


 「直りますか」

 口の中の物を急いで飲みこみ、桜葉が尋ねる。

 「作り直したほうが早いよ。これは、おれが研究のために持ってっていいかな」

 「ど、どうぞ……」


 「あれからまた二振り打ったんだ。決勝が終わったら見てくれないか。おれは、あんたが優勝すると信じてる。全国大会へ向けて……最高傑作を造ってやるからよ!」


 云うが、バストーラが桜葉を見もせずに出て行ってしまった。

 「は、はい、ありがとうございま……す」

 桜葉が茫然とそれを見送る。


 「良かったですね、イェフカ」

 「え、ええ、まあ」


 新しい刀をチェックしたかったが、腹が減っているほうが先だ。魔力炉の消費が激しい。それだけ、ユズミとの戦いが激しかったのだ。


 (考えてみりゃ、はじめてあんなチャンバラやったかもな)


 剣道も剣術もやっていないのだから、生兵法(なまびょうほう)とはいえよくやったんもんだと自分で感心した。それに、まだハイセナキスは魔力で武器も一定強度守られている。実際に戦えば、日本刀などあっとい間に刃こぼれ、湾曲だろう。一対一の勝負ならまだしも、特に乱戦では。時代劇とは異なる。昔の人がどうやって刀で乱戦をしていたのか、よく分かっていない。


 (すげえ経験してるよ……)


 死ぬ前にあった、巨大な歯車に押しつぶされ、磨り潰されそうな「ぼんやりとした不安」など、完全にどこかへ行ってしまった。少なくとも、戦う意味があった。たとえそれが、ルールや仕組みがよく分からぬ異世界のゲームだとしても。今のところ、充実している。


 (それより、居合がそれなりに実戦で遣えるのを証明できてるのがうれしいね。もちろん、純粋に居合の技だけじゃないけど……)


 それが、武道ではなく武術ってもんだと思う。術の術たる所以(ゆえん)は、心理戦や裏ワザも含む。眼潰しだって金的(股間攻撃)だって立派な業だ。


 型が形となり融通(ゆうづう)無碍(むげ)。型武道の真理だ。

 (まだまだ、そんな剣聖みたいな境地じゃないけどな)

 苦笑する。苦笑しつつも、半分はにやけた自賛(じさん)の笑みだった。


 「イェフカ、どうしましたか。笑みなど浮かべて」

 「い、いえ、次のアークタ戦のことを考えてました」

 「アークタは実戦派ですが、どこかで少し戦闘法を習っていたようですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ