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竜と居合と中身のおっさん  作者: たぷから
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第3章 5-5 首取り

 袈裟切りをぎりぎりで避けた瞬間を狙って桜葉が踏みこみ抜刀! 割れた鞘から切っ先が出てきた感触が左の掌にあったが、ドラムなので手を切ることはない。これが生身だったら、バッサリと自分の手を切るところだ。


 イェフカ刀が空気を裂いて、ユズミの左面へ鋭角に斬りこんだ。


 その瞬間、ユズミめ、顔面に攻撃を食らうのを覚悟で袈裟に切った剣先を強引に上げて下段から桜葉の胴へ突き刺した! グバア! 爆裂が響き、ユズミが一割ほど、桜葉はカウンターで二割半ほどのダメージ! 衝撃で強引に間合いが開く。


 「……ックッソァあ!」


 ここは攻めだ! 桜葉はそう判断し、サッと刀を右八相(みぎはっそう)へとってから一足一刀の間合いで左袈裟に斬りつける! ユズミが下がりつつそれを避け、再び身体を回転して遠心力で剣を桜葉へ叩きつけた。


 桜葉、それを義経めいて跳びあがってかわす。あまりに速い展開に観客は固唾をのんで見守っていたが、さすがにどよめきが起こった。ドラムの身体能力ならではの藝当だ。そうでなくては、こんな剣豪小説のような動きは難しい。


 が! その空中の桜葉めがけ、ユズミがセパタクローかテコンドーもびっくりの空中ジャンプ回し蹴り! ズガッ! さらにイェフカのゲージが一割ほど減り、爆発でふっとび地面へ叩きつけられてカスダメ、気がつけばユズミとほとんど変わらないダメージだ!!


 (な、なんだ、コイツ!)


 ユズミが大股で間合いを詰め、剣を突き立ててきたが、桜葉は下がらず、攻め続けた。ギャウッ! 横たわった姿勢から迫る剣先めがけて何度も刀を突き上げ、執拗なユズミの下段突きを受けながらかわす。キィン! ギン! ガッ、ガチッ! ギャッツ! バツッ!! 互いに、ハイセナキスの攻撃魔法のかかった鋼と鋼がかじりあう。火花が飛び、刃こぼれというレベルではなく切っ先が欠けて行く。


 「……クッソ!! このぉ!!」

 と、桜葉の視界に、ユズミの足が入った。

 桜葉め、咄嗟に身を捻って蹴りを出……いや、ユズミの足を蟹挟みにした。


 そのまま、思い切り転がって捻ると、そんな攻撃を食らったことのないユズミ、意表をつかれて豪快に倒れた。


 チャンス!! いまだ!!

 「うぉああああ!!」


 桜葉が柔術の真似事でユズミへ馬乗りに乗りかかった! そんな組み伏せも経験のないユズミが、流石にパニックとなる。あわてて剣を振り上げたが、桜葉が完全に密着の間合いに入ったので空を切るばかりだ。これはもうナイフや短刀の間合いだった。冷静であれば柄当てや膝蹴りもあるが、そんな余裕も無くユズミは空しく剣で虚空を切った。


 片や桜葉、無我夢中で刀の峰へ左手を添え、ユズミの首……喉元へ刀の中ほどを当てると武者の首取の要領で、顎の下へ刀を滑らせるように突き上げつつ鋸引きに左右へ振った。ゴバッ、ゴリッ、ガバアッ! 引き切るごとにゲージが見る間に減って行き……最後の押切で、一気にファンファーレが鳴った……!


 「…………!」

 荒く息をつきながら、桜葉が……イェフカが馬乗りのままユズミの顔を見つめた。

 ユズミも、肩の力を落として、仰向けにイェフカの顔を見つめている。

 「負けたわ」


 清々したという声で、ユズミが云った。桜葉、静かにユズミから腰を浮かし、立ち上がると思いきやそのまま後ろへよろめいて、ドッと尻もちをついた。


 大歓声の中、ユズミが立ち、右で剣を持ったまま、桜葉へ左手を出した。


 桜葉も、刀を持ったまま左手を出す。この世界に握手という習慣はないが、ユズミが桜葉を立たせた、


 そのまま、桜葉の肩をポンと叩き、ユズミは颯爽と出入口へ戻っていった。

 続けざま、決勝戦である。

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