第3章 4-4 猛攻、二剣流
(だけど、十のダメージも十回食らえば百になる! 地味だけど、そういうハイセナキスもありだろうね! 人気は出なさそうだけど)
格闘ゲームで、小パンチや小キックをひたすら当てていって勝つタイプの猛者がいる。カスダメの帝王とでも云うべきか。ギャラリーからするとクソも面白くないが、勝ちは勝ちだ。生活がかかっているのなら尚更だ。
桜葉が目を細め、二人の一挙手一投足を凝視する。
アークタが一気に下降し、地上すれすれで左右に蛇行してランツーマの中距離ミサイルめいた攻撃魔法をかわす。そこから一気に上昇したが、その際、先日桜葉が使用した技……不可視の観客防護壁を利用し、ドラゴンを垂直の透明の魔力壁へ空中で踏ん張らせ、一気に蹴り上げてランツーマめがけて飛びかかった!
ランツーマもそれを予測していたかのように特大の攻撃を放ったが、その場で一回転に横宙返り! 攻撃をかわし、そままドリルのようにランツーマへ突き刺さる!
まともに上半身へランスチャージをくらい、大爆発と共にランツーマは後ろへぶっ飛んだ。ダメージが四割ほどの大クリティカル! 一気に半分以下となって地面へ落ちる。落下対策をする間もなく、落ちた衝撃でカスダメ。
(カスダメだけど、あれがでけえんだ)
数字で云えば、多くて十、少なくともヒトケタのダメージなのだが、格闘ゲームではそのヒトケタの差で勝負が決まる場合もある。
アークタもすかさず下降し、飛び降りて槍を持ったまま走った。起き上がったランツーマが得意の近距離マジックミサイル五連発! アークタが何と、その内の三発を槍で薙ぎ払った。ババ、バン! 小爆発と共に反動で槍がアークタの手から放れ飛んだが、その衝撃で残り二発も外れたうえ、アークタは無傷でランツーマへ肉薄した。
(えええ、あんなのありかよ!)
桜葉が感心する。また一つ、勉強した。自分ができるかどうかは分からないが。
「そうらああっ!」
槍を捨てショートソードを両手で抜き払い、文字どおり躍りかかる。よく転身し、くるくると本当に踊っているようだ。小剣も細かに手首を返してクルッと回して攻撃する。それを素早く腕も動かすので、まるでヌンチャク剣だ!
(ううん……ストリートファイト系だと思ってたけど、意外に型っぽいな……東南アジアの大型ナイフ術に、あんなのがあったような!?)
桜葉は、いつぞや見たネット動画を思い出した。ナイフ術(短刀術)は、接近戦だと滅法強い。一定の距離内では、銃より速いくらいだ。至近距離から手首、喉、頸動脈、内肘、内腿、脇、そして心臓……ありとあらゆる人体急所を狙ってくる。
(ショートソードだと、むしろ長いくらいなんだけどなあ。器用に遣ってるわ)
それを受けるランツーマは、魔力楯で防戦一方だ。桜葉の居合のように挙動が大きくないため、対処が間に合わない。
(アークタのやつ、おれとの戦いからヒントを得て、手数攻めをやってんのか!?)
また桜葉は心の中で唸った。順応力高すぎ。
(それにしたって、あの魔力の楯はすげえ反動があるはずなんだけどなあ……!?)
自分がランツーマとやった時を思い出す。不思議でたまらない。だが、動きが早すぎて一般客の眼にはよく分からないだろうが、ドラムの眼でよくよく見ると、アークタが攻撃を防がれた瞬間に上体を開いて、剣を後ろへ流しているように見える。
(まさか、反動を相殺してんのかよ!?)




