第3章 3-3 ヤケ食い
ガアン!! ランツーマはしかし、魔力を溜めて丸くて分厚い楯のように形成し、それを掲げて桜葉の真横からの初太刀を完全に受け止めた!!
そのために桜葉を迎撃しなかったのだ!
とんでもない反動が返って来て、桜葉は跳ね返された。この、ヒットしようが防がれようが、いちいち反動が来るのがまだ慣れない。居合はこんな反動を想定しない。
「……ッ!」
体勢が崩れたが、ランツーマもよろめいていた。桜葉は遮二無二振りかぶって、一足の間合いからまたも大上段の真っ向に斬りかかった。
それも、ランツーマが頭上へ魔力楯を掲げて防ぐ。桜葉の攻撃にも魔力がこめられているはずだ。本当なら、魔力の楯を貫いて真っ二つにできなくてはならない!
グアんッ! それも弾き返され、桜葉はたまらずよろけ気味に数歩も下がって、刀を右の脇構えっぽい構えにとるといったん相手を見た。とうぜん、ランツーマはあのビームサーベルもどきで切りかかってくると思ったが……やおら、肩から桜葉へその分厚い魔力の丸楯をぶつけるように猛ダッシュで体当たりをかましてきた。シールドアタック!!
(……しま……!!)
ドッグァアアアッ!! 二度目の超クリティカル!! 凄まじい衝撃がして、桜葉はくの字にひしゃげて十メートルほどもぶっ飛ばされ、爆発と白煙にまかれて地面へ転がった。刀を手放さなかったのは、褒めてもいいだろう。
誰もがランツーマの勝ちと思った。しかし、まだファンファーレが鳴っていない。かろうじて、数字でいえば一桁ほど、桜庭のゲージが残っている!
「……こんちくしょうがああ!!」
桜葉は目眩がしつつも根性で体を起こし、止めを刺しにつっこんできたであろうランツーマのどこでもいいから刀が当たれと横凪に振った。が、刀は空を切った。
ランツーマは、つっこんでこなかった。
桜葉めがけて、容赦なくマジックミサイルが降り注いだ。
「…………!!」
五連弾が炸裂し、こんどこそ桜葉のゲージは真っ赤に染まった。
桜葉が……イェフカが、ばったりとその場に倒れた。
負けた。
「イェフカ、大丈夫ですか!?」
クロタルが控え室へ転がりこんできた。
「イェフカ!!」
桜葉が死んだように惚けて椅子へ座ってうなだれていたので、クロタルが両手で肩を揺する。
「しっかりしてください、イェフカ……」
桜葉は機能停止したように、息もせずに義眼もどこを見ているのかわからず、完全に人形と化していた。
「とにかく食事を!」
クロタルが目の色を変えて指示する。元よりハイセナキス選手用に、既にランツーマと桜葉の分は用意済みだ。いまは、続けて午後からのアークタとユズミの分の調理に入っている。
桜葉がいくら放心しようが、料理が並ぶと嫌でも魔力炉がそれを欲する。ふと気づくと、またクロタルが料理をかんでいたのであわてて桜葉め、
「じ、じっ、自分で食べられます、大丈夫です!」
もう、自棄食いだ。生身だったら泣きながら食っていただろう。大小のパン、いつもの煮込み、焼き物、めずらしく蒸し物もあった。味はあまり変わり映えしなかったが。今まで出てきたことのない、パスタ類のような料理も。聴けば、各選帝侯国のお偉いさんが一部料理人を連れてきており、協力してくれているのだという。そしてなんと、ついに魚が出てきた。もっとも、刺身や焼き魚ではなく、干したタラみたいなものを戻して炊いたものだ。関西にこんな料理があった気がした。味は全然違うが。
(こうなるとエビカニや貝が食いたいね)
川はあるようだから、落ち着いたらガズ子の飛行訓練と称して川へ魚取りに行こうかな、そんなことも考えた。




