第3章 2-1 ハイセナキス全帝国選手権予選兼七選帝侯国代表選手権
それでも、例えばコロージェン村のような辺境からこのグロッカまでただハイセナキス見物に来るのは大変だ。そのため、各領主は村々や地区ごとの代表へ実況中継のためのマジックカードを貸し出している。あの、クロタルが持っていて色々と使っている、あれだ。
「さあー、今年もこの季節がやって参りました。ハイセナキス全帝国選手権予選を兼ねました、七選帝侯国代表選手権。今年はそれぞれ選帝侯国を代表いたしまして、四人が出場いたします。注目はなんといっても新型のスヴャトヴィト式零零参型『イェフカ』でございます。カウラさん、スヴャトヴィト博士の最新型ということですが……」
「そうですねー。色々と噂ばかりが先立ち、実態の見えないドラムです」
「なんでも、工房で自分専用の新しい武器を造ったとか」
「そのようですねー」
「それに、我々の常識を覆す戦闘法に習熟しているという情報も……」
「クロタルさん、すみませんがそのラジオ……じゃない、なんて云うんですか、放送というか、実況を消してくれませんか」
「わ、わかりました」
控室で、カード実況を聴いていたクロタル、あわててカードを指でなぞり、音を消した。
桜葉は、いきなり第一試合でアークタと当たっていた。
流石に緊張する。
四人で総当たり戦を行い、全部で六試合行なわれる。午前と午後に一回ずつ行なわれ、三日間続く。勝敗の星が同じだった場合、特別に三日目の夜、決勝戦が行なわれる。
一日目の今日は午前に第一試合、アークタ対イェフカ。午後はランツーマ対ユズミだ。
二日目が、午前にランツーマ対イェフカ。午後にアークタ対ユズミ。
三日目、午前がアークタ対ランツーマ。午後にイェフカ対ユズミであった。
三戦全勝なら文句無しに優勝だが、二勝一敗の場合、決勝戦が行なわれる可能性がある。一勝二敗や三戦全敗は、健闘虚しくまた来年……だ。
「…………」
見るからにガチガチの桜葉に、クロタルはそっとその手を握った。
「ご自分をお信じください。イェフカに選ばれた自分と、イェフカを」
クロタルの、出会ったころとはうって変わった優しい笑顔に、魔力炉がドキンと変な回転をした気がした。
しかし、あたりまえだがクロタルは桜葉をスティーラだと思っているし、そもそもドラムだし、ドラムは女性型だ。
「ままならねー」
思わず天井を仰ぐ。
「どうしました?」
「い、いや、なんでも……ありません」
「そろそろ時間です」
クロタルが例のカードを見つめてそう云う。
(ちょっと待て。あれ、時計なのかよ!)
桜葉はここに来て、そっちに驚いた。
(おれも一枚ほしいなあ)
それはそうと。
こっちの世界に来てから三か月ほど。未だに、正直なにがなんだかわけがわからない。ただ、おそらくこれは現実で、自分は流れとはいえ大きな仕事をやろうとしている。元の世界ではとうていできない仕事だ。
控え室を出て、通路を進む。途中でまず刀を渡される。両手で目の高さへ掲げて刀礼し、ハイセナキス装束の上から巻いた木綿に似た繊維で紡がれた晒し布へ刀を差した。結局、バストーラへ相談し栗型っぽい突起を鞘へ着けてもらっている。




