第3章 1-4 魔力炉発動
あの、隣国のナントカ王国のドラムへ攻撃したときは、それが発動していたはずだ。そうでなくば、攻撃の反動で自分があんなにふっ飛ばないし、蹴りだけで相手もあんなにふっ飛ばないはずだ。
そんなことを考え、ひたすら刀を抜き、振り続ける。バストーラに調達してもらった椿油に似た植物油を刀剣油として使い、ナントカドラゴンの鞣革布で刀を拭って、水を飲んで休憩しつつまた抜き始める。
そうして、一晩中やって何百回抜いたことだろう。生身であったら肉体が疲れることも然ることながら、同じ動作をひたすら繰り返しているとやはり精神が疲れてくる。飽きるというか、だれてくる。そこを無我の境地になることで「動く禅」とも云えてくる。合気道なども、そうらしいが。
ドラムの肉体は疲れないが、明け方ともなると流石に自分は何をやってるんだろうという想いが強く沸いてきた。こんなことに、何か意味があるのだろうか。時間の無駄ではないのか。
ここで、自分に負けてはいけないのだ。
「ふう……」
朝日を眺めながら大きく息をつき、また技の一本目から抜き始める。人間だったら気が循環するのだろう。ドラムは、気の代わりに魔力が回っているはずなのだ。
窓越しに、建物の屋根の上から差しこむ朝日が目に刺さる。視界が、真っ白になった。頭も……思考も真っ白となる。
ひゅうぅん……
胸の奥で、敵がいもしないのに何かが回転する。
「!!」
きた。来た!! キタアアアアア!! これだ! これ!! 桜葉は胸へ手を当てた。魔力炉が回っていた。魔力回路が作動し、ハイセナキスで攻撃や防御を開始する直前の状態になっているのが分かった。
「そう……か……あいつらは、やる前からこの状態を維持してたんだ……」
つかんだ。つかんだぞ。やりゃあできる。やらなきゃできねー。あとは、これをどうやって維持するか……だった。気を抜くと止まってしまいそうで、止まったらまた回るのにいちいちこんな事をするのではたまらない。
それから、またその状態を意識してゆっくりと一本目から抜き始めた。朝食は時間をずらして三人と会わないようにした。別に気づかれたくないとかではなく、余計な会話をして集中力を途切らせたくなかったのだ。せっかく常時に動いた魔力炉の回転が止まってしまいそうで。
朝食の後、そっとクロタルが覗きに来た。
「調子は……どうで……すか?」
「クロタルさん……まだまだですが……なんとか……」
見た雰囲気的にも何かがちがうのだろうか。クロタルは眼を見張り、桜葉を眺めた。
「すごい……たった一晩で……さすがです。今日一日で、さらに調子は上がるでしょう。ふつうは半年も一年もかかるのに……」
「ふだんから魔力炉を回すのに?」
「魔力炉を? いえ、私はドラムに入っているわけではないので、どうなっているのかは分かりませんが、魔力がドラムの隅々まで行き渡っているのが分かります。測定器で計ってみましょうか?」
「測定器」
クロタルがいつものカードを出す。
(なんでもできるんだな、これ。マジでスマホだ。測定器のアプリ……もとい魔法でも入れてあるってことなんだろうな)
桜葉が感心していると、クロタルはそれを桜葉の身体へかざし始めた。足元から手の先まで、カードの紋様の色が深い青から黄色へ変わる。
「すごい……凄い出力です」
「そうなんですか?」




