第3章 1-3 武道の何か
アークタ達がそれを意識してやっているのか、無意識でやっているのかはわからない。たぶん、最初は意識して行い、その上のレベルとして無意識で行なえるようになるのではないか。桜葉は直感でそう思った。
(たいてい、そんなもんだ)
というのが、理由だった。
(先の先なんて、本当は居合の奥義だろ……まったく、お株をすっかり奪われとる)
あの廃屋で襲われたとき……体内で魔力炉が「ぶぅん」と回るのを確かに感じた。あの感覚をつかめたら。意識して「先に回す」ことが可能だとしたら。
とにかく桜葉は、もしかして生まれて初めてかもしれぬほどに「真剣に」なってその感覚をつかもうとした。
その夜の食事、そろそろみんなピリピリし始め、四人がそれぞれ別に座って食べていた。特にユズミは、まだイェフカにわだかまりをもっているようだ。
「明日の私との申し合い、なに突然中止にしてるの?」
「お、思うところありまして」
「勝手なことしないで。もう、いまさらなにを特訓しても大して変わらないわよ」
「う……」
その迫力に押されそうになるが、
「いいじゃねえか。みんな、勝つために必死なんだよ。勝つためには、なんでもやるんだ」
アークタが振り返って、凄い眼光で二人をにらむ。その眼光に、さしものユズミもたじろぐほどだ。
めいめい食事を終え、勝手に食堂を出て行く。桜葉だけ、まだ食べていた。アークタが帰りしな桜葉へ近よって、
「あたいは、あんたの努力は認めてる。新しい武器を造ったり、侯の命令とはいえ、帰りたくもねえだろう故郷に帰ったり……だから、あたいも本気だから。この二日でなにを特訓するのか知らないけど……きっと、考えがあるんだろ?」
「え、ええ……まあ、はい」
「あんたはその新型ドラムに……イェフカに選ばれたんだ。イェフカを信じなよ」
信じる……桜葉は、その観点が抜けていたことに気づいた。乗るドラゴンであるガズ子を信じろというのは分かるが、自分の身体を信じろとは。
「は、はい。有難う……ございます」
アークタが、右手をあげて行ってしまう。
(自分を信じて……自分と戦え……ってか。なんてこった。居合と同じだな)
武道とはいえ一人で行い、仮想敵と戦う居合は、自分との戦いであるとよく云われる。単なる精神修養であって、武道ではないという批判もあるだろう。だが、ストリートファイトや地下闘技場で賞金を得ている人間でもあるまいし(そんな人間が現代日本に本当にいるのかどうかは知らないが)武道などすべからく身体鍛練と精神修養、そして自己満足の世界である。あたりまえだ。たとえ強盗に襲われようと、武道有段者が実戦で武器を使ったら、使ったほうがお縄なのだから。
(それが、まさか本当に仕事になるなんてなあ)
それも、異世界で。
桜葉は邪念とも云えるそんなことをグダグダ考えながら、食事の後も薄暗いランタンのみの控室で刀を抜き続けた。どうせ眠くならないのだから、徹夜稽古だ。前に一回だけ、年末年始の夜通し稽古会へ参加したことがある。良い体験にはなったが、個人的にあまり意義を見いだせなかったのでそれっきりで参加するのをやめた。
(きっと、みんな自分の中の何かが何かとつながるのを目指してやってたんだろうな)
今更、そんな事を感じた。
ドラムの身体は、いくらやっても疲れもしないし汗もかかない。いきなりエネルギーが切れるだけだ。筋肉もつかない。ただ、反復訓練が反射を良くするのは分かった。
(反射速度なんかいくら速くなったって限界があるはず……それより魔力だ……魔力の流れと意識が一致すれば……きっと自分にもあんなクリティカル攻撃ができるはず……現に……)




