第2章 1-6 騎竜訓練開始
「はい。先ほどはすみません」
「いいえ……」
ちらりとクロタルを見る。クロタルは、力強くうなずいた。
「では、最初からやりましょう! なに、体……じゃなくって、心が覚えてますよ。いちどは乗れるようになったのですから!」
(おぼえてねーんだよー)
笑顔でうなずき、心中ひきつる。
イェフカのドラゴンが部屋から出され、職員が声をかけながら外へ連れ出す。手綱も無いのに、サイみたいな大動物をよく誘導できるなと桜葉は心底驚いた。また、正面から見るだけではなく、実際に歩いているのを間近で見ると思ったよりデカイ。いまは四足だが、立ち上がったらキリンほどになるだろう。尾が長いので、余計大きく見えるのかもしれない。
そのまま外の教練場へ出て、練習用の簡素に組まれた木の台のところまで行く。よく訓練されており、その台の前でガズンドラゴンはピタリと止まった。
分かった。競技場でアークタたちがそうやっていたのを思い出す。台からドラゴンの背に乗り移るのだ。
桜葉が梯子階段を登ろうとすると、ふと、ガズンドラゴンが小首を向け、こちらをジッと見ていることに気がついた。
(ヤベ……ぜったい怪しんでる。もしくはバレてる)
どうしようもない。そのまま登りきって、台の上に立つ。やはり鞍も無いし、どこへ跨がるのかも分からないし、跨がってどうするのかも分からない。何かを掴むのだろうか。羽毛のどれかか。掴まないと上空から落ちる気がするが、あんな羽根なんか掴んでもすぐ抜ける気もする。とにかく、
(こんなんで、ランスチャージとかどうするんだよ!?)
ひきつってしまった。ドラゴンの近くで心配そうにこちらを見ているクロタルと目が合う。
気がつくと、後ろに職員が立っていた。
「え、ええと……」
「翼の前の、首の付け根に跨がります。ドラゴン特有の肩の骨の窪みがありますから、どんな品種のドラゴンもそこへ跨がると落ちません」
「へえ……」
「そして、その窪みへ挟んだ脚で、ドラゴンを操作します。慣れると簡単です。両手が自由に使えますから、武器を持ちます」
なるほど、脚力だけで自分を支えるのか。理に適っていると桜葉は思った。たしかモンゴル人も、手綱も鞍も鐙も無い裸馬へ脚だけで乗る。
(この世界の連中、すげえな……ナントカキス以外だったら、普通の人間もこれに乗るんだろ……?)
そう思った瞬間、ガズンドラゴンが胴をふるわせてグオウォッ! グオウッ! と鳴いたので、びっくりして腰が抜けそうになる。
「ほら、急かしてますよ、早く乗れって」
「ええっ!?」
まじめにか。桜葉は戸惑いながらも、ちょうど良い高さに調整してある台からおそるおそるドラゴンの背中へ乗り移る。完全にへっぴり腰だ。
職員がクロタルを見て苦笑した。クロタルも、すこし顔がほころんでいる。
「記憶を失っても、身体は正直ですね。イェフカへ移る前のスティーラさんと、同じ格好ですよ」
それどころではなく、桜葉は聴いていなかった。
思い切って脚を上げ、一気に背中へ跨がると、スポンと両脚が固くて大きな背骨と肩の骨の合間にはさまって、筋肉と腱によって驚くほど固定された。
(……なるほど、こりゃあ……)
と、思った瞬間、ガズンドラゴンがノシノシと歩きだした。
「おっ……おい、まだ何も……」
揺れと共に、特に前脚の動きがダイレクトに桜葉の脚へ伝わってくる。振り返って台上の職員を見た。
「行きたい方向に脚を押しつけて!! 飛びたいときは両脚を持ち上げるように!! 降りたいときはその逆!!」
「はあ!?」
バランスを崩して両脚が抜けそうになり、思わずギュッと挟んだ。




