第1章 3-5 ランツーマの問いかけ
三人はその見たこともない笑みにどん引きし、不気味がって再び目を背けたのだった。
(なんだ、チキショウ……ふざけんな)
桜葉は憤慨し、ふてくされてまたやけ食いモードに入る。そのとき、先ほどの給仕が、見たこともないワッサワサに膨れ上がった観葉植物のような、食虫植物のような、赤と黄色と緑と黒の斑に光った見たこともない植木をそのまま切ってきたような物を皿へ乗せてやってきた。
「ブーッ!」
見ると、アークタがまた噴き出して笑っている。
「……やめなよ」
ランツーマがアークタの袖を引っ張っていた。
(サラダって概念がねえのかよ!!)
これは桜葉が悪い。ただ野菜を生で食いたいと云っただけで、何も指示をしていない。
(食える野菜があればって云ったじゃんか! 食えんのかよ、これ!!)
頭に来て、ナイフでザクザクに切り刻み、
「塩と、オイルと、香辛料をなにかください!」
「は、はい」
給仕が急いで皿へ盛った粗塩、小さな陶器の卓上ポットへ入れたよく分からない植物系の食用オイル、そして木の入れ物に入った赤い粉を持ってきた。てっきり唐辛子かと思った。匂いをかぐと、ペッパーとカルダモンのような、不思議な香りがした。
それらを適当に振りかけ、フォークで刺して馬が飼い葉へかぶりつくように口へ放りこむ。
「…………!!」
この世のものとは思えぬほどに、ウルトラスーパー苦くて酸っぱかった。
「ギャアーーッハハハハハアーッハハア!!」
アークタが腹をかかえて笑い転げ、テーブルを叩いてつっぷし、笑いすぎて椅子から落ちた。
「ばかじゃないの、あなた! いい加減にしてよね!」
ユズミが眼をつり上げて怒鳴り散らし、一人で食堂を出て行ってしまった。
ランツーマが困ったようにおろおろと、周囲を見渡している。
「クッソが! クッソクッソ!! なんだ! ありゃあ! あんなものが生で食えるわけねえだろが! なんで酢漬けにしただけで食えるようになるんだよ、あんなもの!! ドボゲ!!」
部屋へ戻り、桜葉は一人で久しぶりに怒りをぶちまけた。
意味不明のことを喚きながら床や壁を蹴っていたら、
「イェフカ、ちょっといい?」
「わぉああ!!」
いきなりドアを開けてランツーマが入ってきたので、ひっくり返るくらい魂消て胸をおさえる。しかし動悸はない。心臓が無いのだから。脳? が感情から錯覚しているだけだった。
「す、すみません……ドアを開けるとき、叩くとか合図をしてほしいのですが」
「合図? どうして?」
「なんでもありません」
「イェフカ……新しい武器を作ろうとしているのは、本当なの?」
「えっ?」
もう知れ渡っているのか。桜葉は驚いた。
「ええ、まあ……だめなんですか?」
「だめじゃないけど。イェフカ……いいえ、スティーラ、貴女は、そんな戦闘術なんかに秀でていたわけではないでしょう?」
「……!!」
また息が止まる。眼を見開き、ガクガクと膝が笑って、思わず壁へ尻をついて寄りかかった。壁が無くては、腰が抜けて尻餅をついていた。
「いったいどういうつもり……? まさか……」
「……う……」
「貴女……自分は特別な戦闘術の達人だと……思いこんでいるのでは……?」
「へ?」
「やはりそのドラムは……零零参型は……早すぎた……スヴャトヴィト博士は焦った……だから、そんな精神的な障害が出ている……」
桜葉、片方の頬を引きつらせたまま、何も云えぬ。
そんな桜葉……イェフカを見て、ランツーマは深く息を吐いた。
「ごめんなさい……もう、済んでしまったことに、色々と云ってしまって……」
「い……いいえ……」




