第1章 3-3 アナタ、本当に
ひょいと雑多な物影より出したものに、桜葉は驚いた。丸まっていたが、手にとって広げてみる。まさに刀の柄に巻く鮫革……鮫といいつつそれはエイの革なのだが……であった。
「あっ、これ……これです! ちょっと違うけど」
「なんですか? これは」
クロタルも興味深げにその革を見た。
「レルバドラゴンの、喉の革だよ。こちらの方の云う通り、これを武器に巻く地方があって、その武器を使う人のために在庫を常に持っているんだ」
「そうですね、これを柄に巻いて、その上に軟らかい鞣革を紐状にしたものをこう、グルグルって巻いて……ほんとは編むんですけど……巻くだけでもいいです。で、刀の茎に穴をあけて、それへ柄ごと丸く細く削った固い木を通して止めにしてください。それから大事なのは鞘です。鞘は柔らかめの木から削りだして、こう、刀身に合わせて両側から何か接着剤で貼ってください。それへ、樹液か何かの塗料を塗ってください。柄頭は……」
桜葉は必死になって、手持ち黒板へ図を書きながら説明した。クロタルはほとほと感心して、そんなイェフカをジッと見つめ続けた。
「よし分かった」
ひとしきり桜葉の説明を聴いた後、バストーラがうなずいた。
「ここの施設で再現できそうだ。いんや……ここでなくちゃ、無理だろう」
「ほんとですか!!」
桜葉がホッとする。
「でも、コロージェン村には、それを作っている職人がいるのでしょう?」
突然のクロタルの指摘に、桜葉がしゃっくりのような声をだす。
「まあ待て。こんな武器、聴いたことも見たこともない。あったとしても、おそらく名も知れねえ天才的な職人がかつて生み出したんだろう。それも、既に亡くなって、作られなくなって久しい……違うか」
「え……ええー、そうなんですよ!」
桜葉のひきつった笑顔に、バストーラは満足げにうなずいた。クロタルは、半信半疑の色を遠慮なく浮かべている。
「ええと……まあその、その、祖父の知り合いの友人の知人のツテで……村からさらに奥の山の中に、その戦闘術と刀剣の作り方を引き継いでいた職人が……おりまして……もう、何年も前にいなくなってしまい……その……そういうわけなんです、ハハハ」
手振り身振りを大げさに行い、最後は乾いた笑いをだすのが精一杯だった。しかし、バストーラは腕を組んでうむうむとうなずき、
「たいしたもんだなあ。やれるだけやってみるから、あんたも協力してくれ」
「もちろんですとも!!」
桜葉が、さらに熱心に解説し、バストーラも違う黒板へ図を書いて質問する。
「……ベルトへ吊るす固定具はどこへ?」
「あ、固定具はいりません。腰に……布を巻いて、そこへ差します」
「ええ?」
「こんな感じで……」
さらに身振りをそえて説明を続ける桜葉を、クロタルはついに猜疑心の眼で見つめ始めた。
「とにかく、明日からさっそく試作してみる。おれ専用の工房は、ここの奥だ。作業のついでに呼ぶから、来てほしい」
「分かりました」
バストーラと別れ、ちょうど夕刻になったので桜葉は食堂へ向かった。
(……よしよし、なんとかなるかもしれない……良かった……)
なにとはなしに、上機嫌だった。珍しく桜葉の後ろを歩くクロタルの、次の言葉を聞くまでは。
「ねえ、アナタ」
「え?」
「本当にスティーラなの?」




