第1章 3-2 作刀への挑戦の開始
「ねえ……クロタルさん」
「なんですか」
「あたし専用の武器を作ってもらうわけには……いきませんか」
「専用の武器ですか!?」
クロタルの顔が驚愕に固まった。まずいことを云ったかと思ったが、
「すごい……どのような武器ですか? 博士に相談したら、きっと協会へ口をきいて作ってくれると思いますよ。ですが、先ほど云った通り、選手権まで時間がありません。あまり製造に時間を要する武器では、難しいかもしれません」
いきなり饒舌となり、桜葉が焦る。しかし、行けそうだったので乗り気になった。
「槍は、どれでもいいです。後で適当に選びます。問題は剣です。接近戦で、あたしが密かに訓練していた居あ……戦闘法がありまして……田舎の秘伝の戦闘法なんですけど……誰も知らないと思います。その専用の剣が……ほしいです」
「秘伝の戦闘法!?」
クロタルが仰天する。
「……アナタ、そんなものを習得していたなんて、一言も……やはり、博士の選択は正しかったのかもしれませんね」
初めて、ニヤッと笑って、クロタルの目が、少しだけイェフカを認めたような光を放つ。
「でも、実家にその専用の剣は無いのですか?」
しまった。そうきたか。当然の発想だ。桜葉は焦った。
「あー、あ、あ、あ、あー~りますけど、その~ま、その、実家にはちょっと……」
「ああ……」
クロタルの顔がまた少しだけ同情と憐憫に陰る。
「そういうことは、忘れられないようですね」
「え、ええ、ま……その……それに、その、こちらの鍛冶技術のほうが……」
「ああ……確かに」
クロタルがさっそく例のマジックカードを取り出し、なんと耳へつけて何か云うと、
「……スヴャトヴィト博士でしょうか? クロタルです」
桜葉は目を丸くし、驚きに口をひん曲げた。電話してんじゃねえか。マジにスマホだ。
「ええ、イェフカが専用の武器がほしいと……驚きました……博士がちゃんと、そのような人物を選択していたなんて……」
バカ、余計なこと云うなと思ったがもう遅い。しかし、どうも博士は普通に話を合わせたようで、
「話を通してくれるそうです」
桜葉は、思わず手を叩いた。
クロタルに案内されて向かったのは、この競技場の武器製造保守責任者という壮年の人物だった。整えた濃い黒ヒゲや黒髪に白いものが混じっているので五十代ほどと思ったが、後で分かったがなんと桜庭と同じ四十歳だという。
「博士から伺っております。いったい、どのような剣をお望みですか」
見た目も渋いが、声も渋かった。低いだけではなく、苦みがある。いかにも職人という感じだった。名を、バストーラという。
(クソ……やり甲斐ありそうな人生送ってんだろうな。結婚して子供もいてよ)
変なところで嫉妬し、桜葉は内心むかむかした。
だが、そんな事を思っている場合ではない。
「イェフカ……説明してください」
「あ、ああ……はい」
桜葉は部屋にあった黒板と白墨を手にし、
「長さは……(単位が分からねえや)……あたしの右腕くらいで……片刃で反りがこうあって……鍛造でお願いします。鋼は、たたら製鉄……っても分からないか……砂鉄を比較的低温で鞴を使って抽出した鉄があれば望ましいのですが、無ければ普通の鉄でいいです。それを折り返し鍛造で鋼にしてください。柄は木で作って、鮫革……なんてあるわけねえか……ええと、ゴツゴツした小さな粒のついた動物の革のようなものがあればそれで……」
「こんなのか?」




