表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と居合と中身のおっさん  作者: たぷから
19/97

第1章 2-10 イェフカ

 やはり、何もかも知らないふりをしてしばらく過ごすしかない。

 (じっさい、しらねーしな)

 こんな大きい施設なので食堂もさぞや広いと思ったら、意外と狭くて驚いた。


 「さ、どうぞ」

 「あ、はい」

 「どうしました?」

 「いえ、あんがい、狭いんだなって」


 ああ、と職員が声を出す。記憶などが失われているということが、知れ渡っているようだ。


 「こちらはドラム専用ですので、落ち着いて食事ができますよ」

 「ドラム専用」


 なるほど。それならば、四人で食べるには広い。二十人はゆったりと食事ができるレストランに見えた。


 「じゃ、遠慮なく……」


 遠慮して隅のほうの席へ着くと、係員がさっそく大きな皿に盛られた山盛りのパンや肉、シチューのような煮込み料理を出してくる。水も大きな水差しが用意された。しばし、ナイフとフォークに似た食器で遠慮くなくバクバク食べていると、練習が終わったのか三人のドラムたちが入ってきた。三人とも談笑していたが、桜葉……いやイフカを見やって立ち止まった。


 「……これは新型さん、今日からこっちへ?」


 ニヤッと口元を曲げて最初にそう云い放ったのは、背の一番高いアークタだ。唐突だったので、桜葉はどう挨拶をしようか一瞬、迷った。営業時代ならばペコペコ頭を下げて名刺を渡すだけだが。


 その、食べかけの姿勢で硬直した姿を見て、三人は少し困惑したような表情をうかべる。


 「本当に、私たちを忘れてしまったの?」

 眉をひそめたのはランツーマだ。と、いうことは、少しでも知り合いだったらしい。


 「しょせん、不安定な試作機だわ。いくら性能が段違いといっても、稼働が不安定では使い物にならない。ちがう?」


 背は真ん中だが、やけにグラマー体系が云う。誰だっけ。桜葉はクロタルの言葉を思い出そうとした。名前が出てこない。


 「そう云うなや、ユズミ。侯が決めたことだ」

 そうだユズミだ。

 「そもそも、それが気に食わないの」

 「気に食うとか食わないとかの問題ではないよ」

 ランツーマが眉をひそめて早口をきいた。


 「いいこと、イェフカ」

 ユズミが前に出る。桜葉はまだきょとんとしていたが、自分のことだと分かって、

 「な、なんでしょう」


 「博士が選んだのかどうか知らないけど、私たちのこの体には、七選帝侯国の税金が使われているんですからね。ど素人とはいえ、はやく馴染んで、まじめにやってもらわないと。クロタルや他の候補も、泣くに泣けないのよ」


 「はあ……」

 「何、その気の抜けた返事!」

 まあまあ、とアークタがユズミをおさえる。


 「移植の副作用で記憶がおかしくなってるみたいだから……少しずつ思い出すさ。なあ」


 「あ、はい」

 「フン……!」


 ユズミがアークタの手を払いのけ、離れた席へついた。残った二人も、やや戸惑っていたが……同じ席へそろってついた。


 (イェフカ……イフカかと思ったら、やっぱりイェフカなんだな)

 口の形を見て、桜葉は漠然とそう思った。


 (そして、こっちでも(・・・・・)一人飯……っと。ああ、一人で食う飯は気楽でうまいねえ)


 ものすごく面白くなかった。ヤケ飯でさらに食い続け、三人が席を立ってもまだ食べていた。


 「食うねえ」

 部屋を出るアークタが感心してつぶやく。

 「魔力炉がそれだけ、高出力なんだよ」

 「フン! ……せいぜい、大飯ぐらいのナントヤラで終わらないようにしてね」


 三人が出て行ってしまい、桜葉はさらにむかついて今食べていたビーフシチューのような煮込みをお代わりしようと思ったが、ぴたり(・・・)と食欲がなくなった。


 「ごちそうさま」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ