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風衝都市の暮らし  作者: りょうこ
2/6

レモン篇1

--8時30分--


サクラサト県ナワシロ市


庭付き一戸建ての住宅に家族と住む10代の女性であるレモンは、

東コンソメ大学に通う大学生であり、ヒーローA級ライセンスの所持者であり、

S級ライセンス取得を目指して治安維持センターで教習を受けている。

彼女は今、リビングのソファに寝そべって解析概論を読んでいる。


地毛の金髪のポニーテイルは、おぼろげに

レモンアイスに似た香りを漂わせている。

8:2分けをして下ろされた前髪は額をかすかに隠し、彼女の少しだけ悪い目つきはその整った顔立ちを引き立てていた。


手前にいる兄はパジャマのままカーペットに座り込んで、

女性のヒーローが活躍するアニメを見ている。


「そういえば、レモンちゃんもオナラで悪人倒したりしてるんだよな。」


バッと起き上がったかと思うと、彼女は耳まで赤くなって、否定を始めた。


「なにいってるの。そんなことする訳ないでしょ。」


兄は意外そうな表情で再び尋ねた。

「えっ。じゃあ、戦っている時とか、敵を倒した後に出てるあれはなんなんだ。」


「あれは水素ガスなの。やだ、もう……。恥ずかしいから聞かないでよ。」


「えっ……。レモンちゃんはお尻から水素ガス出してたのか。

体に悪影響はないのか。」


ギュルギュルグゴゴ・・・・


レモンの腹鳴が部屋に響いた。

繰り返される兄の質問に、レモンは緊張してガスが溜まってしまったのだ。


「私の体質知ってるのに。なんで……そんなことばかり聞くの。」


彼女は涙目になって自室へ駆け込んだ。


扉を閉めた直後


ブウッ・・ブウゥーッ・・・


彼女は自分の中から大きな音と共に立ち昇る臭いに

気持ちが落ち込み、大きくため息を付いた。



--10時29分--

ツツジ市 市民治安維持センターにて


(講義中にオナラ出ちゃったらどうしよう……。)


レモンはロビーで教本を読みながら、近い未来のことを考え不安になっていた。


--11時29分--


不安は顕現化した。彼女は大きな音で放屁をしてしまった。

しかし、その約10秒後にヒソクがさらに大きな音で放屁した。


レモンはヒソクに対して、月の力に引かれる潮の、その流れに曳かれる

小舟のように身を任せたい気持ちが芽生えた。


--12時28分--

治安維持センターからパーラー「ライプナッツ」までの道中


レモンはヒソクの、ヒソクはレモンのオナラを

もっと聴きたい、嗅ぎたい、恥じらう姿をみたいという欲求が生じていた。

これは、自分の恥を人の恥で癒やしたいという思いだけでなく、性的な感情も

含んでいたので、2人は胸を痛め合った、


--12時50分--


お互いの体が微かに触れ合う距離で、相手のオナラの音に耳を澄ませる行為に

気持ちよさを見出してしまった2人は、

一線を超えてしまった様な感覚を覚えて息が早くなった。


--14時20分--


ワラビを要人役に据えて、ヒソクと同様の教習をした。


--17時32分--


レモンはヒソクと電子端末「エビラ」で音声通話をしている。

彼女の腸内にはタコスが分解されて生じたガスが溜まり始めていた。


グルウォコポポッ・・・


「やだ……鳴っちゃった。」


エビラ越しにレモンのガス混ざりの腹鳴を聴いたヒソクは嬉しそうに

軽く笑いながら唆した。


「我慢してるの?出しちゃえ出しちゃえ。マイクに向かって。」


「えっ……あっ、うーん。」


レモンは一瞬驚いた後、尾骨の出っ張り部分と

大殿筋を取り巻くように蓄えられた脂肪の間を越えて掛かる

タンパク質が造り出したY字型の凹みのあたりにエビラあてがうと、

慌てた様子でお腹に力を入れた。


ブウゥゥオォー・・・


「うぉぉ……今のがオナラ?すごい音……私興奮してきちゃった。」


彼女のオナラの音に驚きと魅了されたことを隠せないヒソクの声が

自分の臀部の辺りから聞こえてきたので、レモンは我に返ったが

自分の出した臭いに気づいて。再び動揺した。


ニンニクの硫黄と牛肉のアンモニアの残り香に包まれたエビラを

慌てて手で扇いだり、マイクの辺りを手で払ったりしながら

恥ずかしさのあまり声にならない声を上げ続けている。


「あぁっ、あーっ……。」


それから40秒程すると、ヒソクが突然放屁した。


プユゥッ・・・ブッ・・ボペッ


マイクに向けて放屁したのか、音量が大きく解像度の高い音がした。

やはり彼女からも、声にならない声が発せられた。


「あっ、あぁー……。」


さらに6秒後、2人は恥ずかしさのあまりケタケタと笑い始めた。


「いやぁー。男の子に引かれちゃうー。」


ヒソクが素っ頓狂な声で言った。


「女の子にも引かれちゃうよー。」


レモンも素っ頓狂な声で返した。


「私は引かないよ。」


ふいにヒソクが優しい声で彼女に言った。先程までの溌剌とした流れは絶えた。


「私も。」


レモンは、自分のことを彼女が守ってくれるのではないかと、

安寧に満ちた期待に包まれた。


暮れゆく街の帳と共に。


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