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風衝都市の暮らし  作者: りょうこ
1/6

ヒソク篇1

--10時50分--

ツツジ市 市民治安維持センターにて


ヒソクは、サクラサト県ツツジ市に住む10代の女性であり、

優しい目つきの整った顔立ちによく似合う黒髪のショートカットは

彼女の耳元の下方を通った先でカールしている。


ヒーローS級ライセンス取得を目指す彼女は、

学科の講義が始まる30分前には既に席についていた。


講義室の前部の扉からレモンが入ってきた。

ヒソクは彼女の顔立ちがとても整っていることに気づくと

空きを見つけては彼女の体中をじっと見つめていた。


レモンも、ヒソクの顔が相当に質が高いということが分かったので

彼女も気づかれないようにヒソクの体中を見回していた。

そこにワラビとヤグラがやってきたので、ヒソクとレモンは冷静を取り繕って

教科書を開き始めた。


--11時28分--


「平均値の定理とロルの定理についての関係を……」


教官が5分以上の間テイラー展開についての説明を続けている。


レモンは今朝、兄につい言ってしまった言葉が気がかりで、上の空であった。


(朝、なんでお兄ちゃんにあんなこと言っちゃったんだろう。)


「では、問1の問題文にあるとおり、指数関数のパデ近似を求めてみましょう。」


(説明聞いてなかったし、朝のことばっかり思い出すせいで、ガスが……。)


ブウゥ・・・。


講義室のほとんどは音で、席の周囲にいた人々はその臭いで

そしてなによりも表情で、レモンが放屁したことに気づいた。


彼女の顔は真っ赤に染まり、今にも泣き出しそうだった。

ワラビは急いでそれを嗅ぎ取ると硫黄とアンモニアの混ざった臭いがした。


(私が助けなきゃ。羞恥心なんて、あの子のために捨てることだってきっと……。)


ヒソクは巨大な恥ずかしさと決意が入れ混じった表情で、若干腹部に力を入れた。


ブウゥスッ・・・プー・・・


講義室のほとんどは音で、席の周囲にいた人々はその臭いで

そしてなによりも表情で、ヒソクが放屁したことに気がついた。

彼女の顔も真赤に染まり、やはりすぐにでも泣き出してしまいそうだ。

ヤグラは慌ててそれを嗅ぎ取ると、やはり硫黄とアンモニアの臭いがした。


また、容姿端麗な彼女らが大きな音で放屁したことに対して

興奮や同情をする人が続出した。

そのため、指数関数のパデ近似を求める問題の、講義室全体での正答率はとても低いものとなってしまった。

レモンとヒソクを含む数名は自習をしていたので、

緊張した状態でも問題文を読んで正答することが出来た。


--12時24分--


「あの、先程はありがとうございました。」


レモンはヒソクに声をかけた。

ヒソクは、ほっとした笑みを浮かべた後、恥ずかしそうに返事をした。


「実は、私も緊張するとでちゃうんだ……。」


キュウゥルル・・・・


レモンは照れて耳まで赤くなった。


「ごめんなさい。お腹まで鳴っちゃった……。」


グウゥー・・・


ヒソクは恥ずかしさから顔を赤くした。


「私も。」


--12時30分--

パーラー「ライプナッツ」にて


「このお店。美味しいタコスがあるの。」


ヒソクは嬉しそうに、そして少しだけ恥ずかしそうにレモンに向かって話した。

レモンは肉が好きでよく食べているので、料理への期待が高まった。


自動ドアが開くと、待合室に案内された。

2人で寄り添ってメニューをみていると、

使用しているリンスの違い等によって生じる体臭の違いが心地よく、

彼女らはついこっそりと、お互いの首元を嗅ぎ合ってしまっていた。


ふとレモンが、店名の由来にもなっているライプナッツが

放屁を誘発することについての注意書きに気づいた。


「ねぇ、これって……。」


驚く彼女に対して、ヒソクは、後悔と自責が混ざった様子で答えた。


「私は、その……こういう体質だからどうせならって思ってよく食べにきてるの。

もちろん、ライプナッツ抜きの注文も出来るから。」


「そのライプナッツが美味しいのよね。だから、あなたと一緒の

メニューを食べて確かめてみたいな。」


レモンは彼女とライプナッツ入りの食事をとることに、

むずむずとしたリビドーを感じていた。


--12時37分--


レモンはどこか遠慮するようにもそもそとタコスを食べている。

ヒソクはそんな彼女を眺めつつタコスを口に運んでいた。


「美味しい?」


ヒソクはレモンに聞いた。


レモンは、彼女の吐息から淡くニンニクの臭いがすることに気づいて

気づかれないようにその臭いを嗜んでいた。


「タコスはライプナッツそんなに入ってないから、

遠慮しないで食べて大丈夫よ。」


レモンはバクバクと食べ始めた。


彼女がタコスを食べる勢いが、最初に受けた彼女への印象と大分異なることや

その吐息から漂ってくるニンニクの臭いに、ヒソクはリビドーを感じた。


「レモンさんの吐息、とっても好きなにおい。」


彼女が魅せられた様な表情でその言葉を口にしたので、

レモンは顔を真赤にして両手で口を覆った。


--12時49分--



2人は等間隔に備え付けられたガス吸引装置に

臀部を押し当てながら会計待ちをしていた。


ブゥッ・・・ブシュゥー・・。


「あっ、あはは……しちゃった。ごめんなさい……。」


ヒソクは照れ笑いをしたあと、恥ずかしさで火照った顔を手で扇いでいる。


プウゥ・・・ブピピッ・・・


「あぁ……やだ……。」


レモンはヒソクを含め大勢の客に自分のオナラを聴かれてしまったので、

恥ずかしさから真っ赤になって俯いてしまった。


--14時20分--


技能教習が始まった。

ヒソクは右手首に腕時計型デバイスである「強化服着用装置」(以下 WPD)を

つけた後、胸の位置に右肘を構え左腕を地表に対して45度の方向に向けた。


さらに右腕を地面と平行な方向に向けると、右肘を160度近く曲げて、右掌が

心臓の位置にくるようにした位置で一瞬止めた後、右肘を約5cm引いて最後に

右手を頭上に向かって伸ばした。


すると、彼女の衣服に後付されたICデバイスの受信機部分が

WPDからの信号を受信して、制御部がそれを命令として解釈して処理をしたので

可動部である留め金が開いた。


衣服が床に落ちて下着だけになった。


WPDが彼女の体内を含む全身にミソッカス分子※1を付着させると

WPDの遺伝子キャッシュ領域から読み込まれたデータを元に、

黒色ミソッカス繊維を噴射して覆う領域をマッピングして、

パワードスーツのベースとなるタイツを構成してゆく。


注釈1:結晶がクッションを形成する分子であり、

耐衝撃性と衝撃吸収性に優れている。

ミソッカス繊維はこの分子が重合して繊維となったもので、

こちらもクッションを形成する。


タイツの上にさらに、タイツとほぼ同じ工程を経て、

丈の少し短いスカート一体のTシャツ型装甲を装着することで、

腸内ガスと水素ガスの混合ガスを排出して稼働するパワードスーツが完成する。


この間約0.3秒。


装着が終わると教官が説明を始めた。


「この時間は要人の救出について教習します。」


ヒソクの眼前には、ビル街の屋上群を模した

面積300m^2のフィールドが広がっていた。

要所要所に武装したサーボボットが配置されており、

それらを無力化するか隠密行動をしてやり過ごす等をして、

要人役のヤグラの元へたどり着き救出するという目標が設定されていた。


--14時32分--


ヒソクは教習の開始地点から最も近い

ビルの屋上を巡回するサーボボットを撃った。

ガスが少し溜まった。


--14時34分--


彼女は開始地点からやや近いビルの屋上で見張るサーボボットを撃った。

ガスがさらに溜まった。


--14時37分--


3分前と似たようなことをした。


--14時42分--


ヒソクはヤグラの元へたどり着いた。


「要救助者確保しました。」


ヒソクは教官へ任務の完了を報告した。


グルルゥロロォ


彼女の我慢の限界を腹鳴が知らせたのだった。


彼女はガスを放出することに決めた。


ブブブウゥー


ヤグラが急いで鼻で吸うと、濃いアンモニアと硫黄の臭いがした。


ヒソクの瞳には涙が浮かんでいた。


--17時40分--


ヒソクとレモンは音声通話で今日のことを話し合っている。


「本当に恥ずかしかった……。けど、あなたに出会えたから今日は最高の日。」


それはレモンのヒソクに対する感謝、性的な思い、

友情が入り混じって紡ぎ出された言葉だった。


「私も。」


ヒソクはレモンに対して、友情だけではなく性的な感情も抱いていたのだが、

言葉にすることが恐ろしく、素っ気ない返事に留めてしまった。


やがて人工衛星が夜の帳から2人を見下ろす。



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