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2日目(後)



「兄さん、早く行きましょう」

「分かってるよ」


 家を出ること1時間半。

 到着したのは午前11時前。昼前に到着できたのはいいタイミングだろう。昼ごはんをモールのフードコートで食べることが出来るのだし、門限までたっぷりと時間がある。

 早く行こうと急かす妹を追いかけるように、僕たちは○▲モールに入った。


「さて、まずどこから行ったもんかな」

「兄さんは行きたいところあるんですか」

「んー、雑貨屋とゲーセンくらいかな。だから先に琴乃の行きたいところから回って行こうぜ」

「わかりました。ではお言葉に甘えて」


 琴乃はある程度先に行きたいところを決めていたようで、言い終わるや否やすぐに目的地に向かって歩き出した。やれやれ。


「まてよ、琴乃」

「なんですか」


 うちの中途半端な町とは違い、○▲モールは都市部に近い。よって、必然的に利用する人は多い。夏休みということもあり、学生が多いのか○▲モールの中は人でごった返している。

 そんな中を、可愛い妹を先行させて歩かせるのはあまりにも心配だ。なので。


「手をつなごう」

「嫌です」


 ですよね。


「どこの世界に兄と手を繋ぐ妹がいるんですか」

「いや、それは普通にいるだろ!?」

「少なくとも私は兄さんと手を繋ぎたいとは思いません」


 辛辣だ。完全なる否定である。嫌いというのは嘘と言ってくれたが、それが好きという意味ではないと暗に示されているのかもしれない。心が折れてしまいそうだ。

 それはさておき、はぐれないように琴乃についていく。

 ○▲モールは本当にでかい。地下一階から四階まで色んな種類のお店が並んでいる。

 はっきりいうと、僕は服とかバッグとか、ブランド物とかそういうのには疎い。質より量派なのだ。服は着れりゃ良いし、物は使えりゃ良い。以前それを琴乃に言った時「分相応のもの使えば良いんです」と返され、僕のお気に入りだったブックカバーをもらって行った。

 あのブックカバーは僕には分不相応だったのだろうか。


「まずは私の好きな服屋さんに行きます」

「おっけ、案内してくれ」


 妹のファッションショーが見れるかもしれない。ちょっとボーイッシュなパンツスタイルとか、はたまたフリフリしたロリスタイルか、考えるだけでも鼻血が出そうだ。

 いかんいかん、また想像税を取られてしまう。


「先に言っておきます」

「ん?」

「試着した姿は見せません」

「ジーザス!!」


 無慈悲すぎる。


「いいじゃねえかよ! お前の可愛いファッションショーを見せてくれよ!」

「なにがファッションショーですか。見世物じゃないですよ」

「頼むよ! まじで!」

「ちょっと声が大きいです……!」


 嫌だね。絶対に嫌だね。認めない。そんなことは認めない。僕は琴乃の試着を見るんだ!


「わかりました。わかりましたから静かにしてください」

「ふ、やっと分かってくれたか妹よ」

「兄さんのウザさが身に染みて分かりました」

「いらないものまで伝わってしまったか」


 何かを得るには何かを失わなければならないのだ。

 琴乃の許可をいただいた僕は、さっきより些か肩が下がっている琴乃の後をウキウキとついていく。どうした妹よ。元気がないぞ。まぁ、僕のせいだろうけど。

 しばらく人を避けながら歩いていくと、琴乃が「あっ」と声を出し立ち止まってしまった。そんなとこで止まると危ないぞ。ほら、さっさと歩く……。


「琴乃ちゃん!」

「奇遇ですね」


 琴乃の背中を押そうとした僕は、固まってしまった。どうやら琴乃に声をかけてきた女の子がいるようだ。琴乃はその声の主に気がついて立ち止まったのか。

 手を振りながら琴乃に近づいてくる女の子。長い黒髪をポニーテールにしたつなぎ姿の女の子だ。


「琴乃ちゃんもこっちにきてたんだね!」

「はい」

「え、と、お兄さん?」

「はい、恥ずかしながら」


 なんで恥ずかしいんだよ!


「私の学校の友達です」


 琴乃からの紹介だ。ビシッと挨拶を決めてやるか!


「え、あ、そうなのか、えっと、よ、よろしく……」

「はい! よろしくお願いします!」


 見たか! 余裕だぜ!

 なんだ琴乃。その信じられないものを見たかのような目は。まるでUFOを見たかのような顔をしているぞ。


「琴乃ちゃんもお買い物?」

「はい」

「さっき★☆で新作出てたよ!」

「本当ですか!?」

「うんうん! きっと琴乃ちゃん気にいると思うよ!」

「是非確認したいと思います」


 琴乃がイキイキと友達と話している。普段から静かでジト目な妹ではあるが、友達の前だとそんな笑顔になるんだな。

 小さい頃は本当によく笑う子だったのに最近はもう笑顔なんて見なくなってしまった。思春期による反抗心か何かかもしれないが、その笑顔をもう一度僕に向けてもらいたい。


「じゃあまたねー!」

「はい、また」


 別れる2人。なんともまぁ、新鮮なものが見れた。


「兄さん」

「なんだ?」

「さっきの挨拶はなんですか」

「なに、って、ビシッと決めてやったじゃねぇか」

「論外です」


 はぁ、と大きなため息。


「妹の友達への挨拶くらいしっかりしてください」

「だからしたじゃねえか」

「童貞拗らせてますね」

「ちょっと!? なにを言いだしちゃってるの!?」


 妹からまさかそのような言葉が! 先ほどのファックといい、いつの間に妹はそんな言葉を覚えてしまったんだ。


「中学一年生の女の子と話すときにどもる男子高校生っておかしいと思いませんか」

「どもってなかっただろ」

「どもってましたよ」


 そんなことなかったと思うんだけどなあ。


「自分では分からないんですか。頭に生えてるのは髪ではなくてラフレシアですか?」

「こんな綺麗なラフレシアがあってたまるか!」

「何が綺麗ですか。見てて毒々しいです」

「よっぽどお前の方が毒吐いてるよ!!」


 結論、兄妹デートは楽しい。



☆  ★  ☆



 すっかり陽も落ちてきた。綺麗な夕焼けを見ながら僕らは帰りの電車に乗っている。

 僕の膝の上には、一つ大きな紙袋。琴乃の膝の上にも二つ大きな紙袋が鎮座している。どちらとも○▲モールで購入した服やら雑貨やらだ。

 欲しいものが買えたらしく、琴乃の機嫌はすこぶる良い。僕の財布も機嫌が良いらしく、あっという間に軽くなってしまった。


「こういう風景をマジックアワーっていうらしいぞ」


 窓の外の夕焼けを指差しながら琴乃に教えてやる。


「そうなんですか。どういう語源なんですか」

「しらん。魔法みたいに綺麗とかそんなんじゃねぇの」

「なるほど。確かに魔法のようです」


 ほんの十数分しか見れない綺麗な夕焼け。ある意味では魔法なのかもしれない。


「今日は」


 琴乃が小さく言った。顔は膝の紙袋に埋めているため見えない。

 僕は優しく返事をしてやることにする。


「ん?」

「楽しかったです」


 そうだな。



この兄妹のこんな会話を読みたいとかあれば、感想まで

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