表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
2人目の主人公はポニーテールらしい
9/43

 男子生徒の名前は津川千尋というらしい。スキャンダル好きのクラスメイトが『赤坂の彼氏』という体でそう話していた。きっと赤坂が耳にしたら『四次元半』に連れ込まれて八つ裂きにされかねないぞ、とクラスメイトの身を案じつつ、午後の授業に取り組んだ。




 そもそもノーヒントで主人公を見分けることがほぼ不可能だと気付いた俺は、授業の合間にまたしても屋上へと足を運び、リエルを呼び出した。例えば赤坂と津川のどちらかが主人公だったとして、果たして2人のうち1人に絞ることが出来るだろうか。今のところ、津川のほうがより主人公らしいと感じてはいる。転校生である赤坂と一悶着起こし、『傷の治りが早い』なる特異な能力まで持っている。しかし俺は主人公探しにおいて一度のミスも許されない身なのだ。はやまって早々にチャンスをふいにするわけにはいかない。


 ということで、俺はリエルに主人公についてのヒントを貰おうと考えたのだ。別にいいじゃないか、ヒント位くれたって。なにせこっちは、目隠しをされた状態で校庭にばら撒かれた石の中から指定された形の石を探しているようなものだ。一ヶ月もすればすれ違う、という言葉を信じるなら流石に全員日本在住だとは思うが、それでも日本の総人口の中から主人公6人を見つけ出すのがいかに困難であるか、想像に難くない。加えて、主人公関係者、という紛らわしい存在もある。果たして神さまはこの難易度を理解した上で、条件を出してきたに違いない。


 しばらくリエルは神さまと連絡を取っていた。どうやら神さまもそうとう渋っているらしい。リエルが弱々しい顔をこちらに向けるたびに、俺は険しい表情を作る。ややあって、リエルが肩を竦めると、神さまとの通信を終えた。


「神も納得されました。ということで1人目の主人公の特徴をお教えしましょう。ずばり、『戦闘狂』です」


 戦闘狂とは読んで字の如く、バトルジャンルの物語において、純粋に戦闘や殺し合いを楽しむ狂人のことである。大抵の戦闘狂は強キャラとして描かれ、弱者を嫌い、強者との手合わせを渇望し、時として仲間にさえ手をかける困り者でもある。更に言えば、『敵としても味方としても主人公の成長に手を貸し、そのさまを自身の戦闘以外の生き甲斐として捉える』展開が多い。後者の場合、主人公に己のすべてを託して死ぬ。結果、主人公はとても強くなる。(あくまで個人の感想です)

 しかし『主人公=戦闘狂』という構図の物語はそう多くはない。ポップなバトルストーリーなのに、主人公が敵味方見境なく殺戮を繰り返す主人公では読者層も偏ってしまうだろう。


 俺は驚いていた。まさか主人公が戦闘狂ときた日には、流石に一目でわかると思ったからだ。前述の通り、戦闘狂が戦闘狂であるためにはそれに見合った戦闘力を持ち合わせていないといけない。最初の町でスライム相手に無双する冒険者を戦闘狂とは称さないように、魔族相手に連携が取れていなかったとはいえ2人掛かりで苦戦し、挙句逃げ出すようでは、赤坂と津川は戦闘狂とはいえない。つまりあの2人は主人公ではない。


 ではいかにして1人目の主人公を見つけ出し、特定するかだが、結局のところ、魔族と戦っている姿を実際にこの目で見て判断するしかないだろう。いっそのこと三、四体ぐらい一気に攻めてきてはくれないだろうか。その全てをバッタバッタと切り捨てる人物こそ、1人目の主人公である。不本意ではあるが、しばらく気が向いたときに『四次元半』へと足を運んで魔族とリベレータの戦闘を遠くから眺めることにしよう。




 ホームルームが終わると、赤坂はすぐに通学バッグを引っ提げて教室を出ていってしまった。まあ、赤坂についてはもう気にかけることもない。なぜなら彼女は主人公ではないからだ。一つの物語に対してまだ2人の『登場人物』しか出ていないことから、もうしばらく待てば、本命である戦闘狂の主人公か、主人公と親しい関係者あたりがイベントと同時に現れてくれることだろう。それに、そろそろ別の物語の『登場人物』が出て来てもおかしくはない頃合いだ。

 俺は教室を出た。四宮に適当な理由をでっち上げて、1人で帰宅することにした。しばらくは『登場人物』探しに集中することにしよう。




 考え事に夢中になりすぎていたらしい。廊下の角を曲がった直後、腹部に鈍い痛みが走った。ふと視線を落とすと、大量のプリントに混じって女子生徒が尻餅をついているではないか。


 電灯の光を受けて、栗色の長いストレートヘアは鮮やかな色を放つ。同じく栗色の瞳と長い睫毛を涙に濡らしながら、女子生徒は憤りをあらわにした。


「痛いわね! どこ見て歩いてんのよ!」


 肌は透き通るように白く、目鼻立ちの整った少女だった。散らばったプリントをせっせと集めながら、「手伝え」と視線で訴えてくる。


 俺は彼女に背を向ける。背中に叩きつけられる罵詈雑言をものともせず、颯爽とその場を立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ