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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
1人目の主人公は戦闘狂らしい
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 これといってイベントもない、ごくごく普通の朝が来た。なんて平和でいつもどおりの朝だ、と俺は天(井)を仰ぎ、神に祈る。どうか今日もなんてことない日々を過ごせますように。


 主人公およびその関係者が誰か、の把握こそ、現状で一番優先するべきことだと考えた俺は、とりあえずそれっぽい人物を洗い出してみることにした。が、そもそも登場した人物が少なすぎることに気が付いた。


 まず赤坂緋月。彼女が普通の人間ではないことは確定しているのだが、果たして主人公なのか、準主人公なのか、大穴で『俺』のヒロインという線もあるが、出来ればそれはご遠慮願いたい。俺がもっとも嫌いなジャンルのひとつに『暴力系ヒロイン』がある。見る分にいても多少なりの嫌悪感を抱いていたのに、暴力を振るわれる側に立った今、彼女の存在は俺の全てが否定している。それに『観測者』である『俺』にヒロインなるものが存在しているのかさえ怪しい。願わくば存在していてほしいが、詳しくは次にリエルが出てきたときに聞いてみることにしよう。


 次に委員長。彼女を候補として選んだのは、単純に髪がピンクだから。そもそも、髪がピンクのモブキャラを見たことがない。加えて、クラスで非現実的な髪色なのは赤坂と委員長だけなのだ。必ず何かしらのポジションにあるに違いない。


 一応四宮も候補の隅のほうに入ってはいるが、多分ないな。むしろあってはならない。四宮は俺の平穏のために普通でなくてはならないのだ。実は女の子でした、なんてオチが待っていた日には、四宮の顎にちょろりと生えた髭を一本一本毟り取ってやろう。


 さて、実は昨日、主人公は誰か、という直球な質問をリエルにしてみた。しかし返ってきた答えというのが、


「禁則事項です」


 そのセリフと微笑みは犯罪級の可愛さがあってこそ成立するものであり、男のお前が言うと鳥肌製造装置でしかない。


 ちなみに、果たして主人公たちは俺の近くにいるものなのか、という質問もしてみた。

 もし社会の悪と戦うサラリーマンが主人公だったなら、もしアラブで豪遊する石油王の老人が主人公だったなら、もし異世界に飛ばされて四苦八苦する少女が主人公だったなら、俺と彼ら彼女らの世界が交わることはまずないだろう。住む世界が違う奴がいるし。

 これに対する返答はいたってシンプル。


「6人とも一ヶ月もすればいずれどこかですれ違う。その程度の距離です」


 近すぎず遠すぎず。まるで儚い恋物語のようだ。

 もし本当に、一ヶ月で6人の主人公たちとすれ違うのなら、その内ひとつぐらいは、非日常的なイベントを伴っていると考えておいたほうがいいだろう。もしかすると変化は髪の色に留まらない恐れがある。それこそ、亜人や獣人の類が何の説明もなしにクラスメイトの中に紛れ込んでいるかもしれない。もちろん、それらを見て驚くのは俺だけだろうから、常に心構えはしておくべきだ。それに、そのイベントが今日起こらないとも限らない。一日にひとつずつとも限らない。

 イベントの匂いがしたなら、すぐに逃げる。これさえ心掛けておけば、日常を望む俺の元にこれ以上の非日常が舞い込むことはなくなるはずだ。気を引き締めねば。


 登校の用意を済ませると、玄関へ向かう。どうか今日もつまらない一日でありますように、と重ね重ね神に祈ると、玄関のドアを開けた、その直後だ。


 地響き、数秒後には吹き付ける暴風。


 慌てて外に飛び出すと、なんということでしょう。目の前に広がる住宅地は遥か先まで瓦礫と化していた。これには匠も苦笑い。


 あ、なるほど。強制イベントってやつか。


 実は俺がもっとも嫌いなイベントのひとつでもある。負け確定バトルとか、選択肢はあるもののどれも結局同じゴールとか。


 瓦礫の中心に二つの影が見えた。一つは遠目から見てもわかるが、明らかに人間ではない。まずデカイ。三メートルはある。そして羽が生えている。例えるなら悪魔とか、デーモンとかその類だ。


 そしてもう一つの影、うーん、なんだろう。見覚えがある。

 デーモンっぽい何かと比べて半分ほどの背丈しかないが、特徴といえば見覚えのある銀髪に見覚えのある制服。手に持っているのはこの距離だと物干し竿にも見えるが、つい最近眉間ギリギリに向けられた刃物のようにも見える。

 というか、あれは赤坂だ。瓦礫の中心で赤坂緋月はデーモンっぽい何かとフィクションのように超人的な動きで互いを斬り、打ち、殴り合っていた。


 こいつらがこの瓦礫アートの作者なのか? 幸いここまで被害は届いてはいないが、そういう問題じゃない。バトル系か? バトル系なのか?

 デーモンっぽい何かが大きく吠えると、先ほどと同じように地響きと爆風が辺りを駆け巡った。


 ふと疑問に思ったのが、これだけの被害なのに街に人の気配が全くないこと。悲鳴だったり叫び声が聞こえてもおかしくないはずだが、それらが耳に届く様子はない。


「魔界伍柱の1人、アルヴァディーンですね。もう一人はご存知、赤坂緋月さんですよ」


「もうお前の登場の仕方にはいちいち驚かない」


 ぬっと現れたリエルは、どこからかゴロゴロとホワイトボードを転がしてきて、説明口調で言った。


「この場所……、彼らは『四次元半』と読んでいる場所で、魔族と選ばれた人間だけしか入れない場所です。背景としては、人間界侵略をたくらむ魔族と、それらを食い止めるために命を賭ける組織『リベレート』の争い。しかし魔界と人間界では空気中の成分から温度湿度、地面の硬さまで全く異なる。そこで魔王神ゼダンが超魔力によって作り出したのがこの『四次元半』というわけです」


「『四次元半』?」


「人間界と魔界を中和したような環境状態。魔族たちはまずこの『四次元半』にて人間界の状態に対応し、侵略を始める。『リベレート』は被害の心配のないこの場所で魔族を迎撃する。いわば戦場ですね」


「ちょっと待って」


 俺は手をばたつかせながらリエルの話を遮った。気になる点は沢山あった。しかしその中から一つだけを選ぶ。


「あのさ……、お前の話を聞いていてふと思ったんだが、だとすると赤坂や魔族は……、いや、委員会も他の主人公もその登場人物たちも、お前ら神さま連中が楽しむために作った架空の存在なのか?」


 人造人間ならぬ神造人間。そう考えざるを得ないのだ。

 なぜならこの世界はノンフィクションであり、『四次元半』なる異空間もアルヴァディーンなる暴れん坊悪魔も存在しない。それはつまり、『リベレート』やら赤坂やらの存在そのものの否定でもある。

 しかし今、住民もいない世界を、ゲームなら中ボスほどの強さがありそうな見た目の生物の存在を、こうして目の当たりにしている。

 存在することがありえない存在が、存在しているということ。

 だとすると、赤坂たちは俺が『観測者』に選ばれた瞬間に作られた存在、あるいは実在する人間が、それぞれ辻褄が合うよう記憶を捏造された存在、と考えると一応納得は出来る。

 世界はいつだって普通でなくてはならないのだ。世界が普通でなくなったのは、俺が普通でなくなったからなのだということで腑に落としたい。


 しかしリエルは首を横に振る。


「そうですね……、バタフライ効果をご存じですか?」


 勿論。そういう中二心をくすぐる単語はすぐさま調べて、辞書に蛍光ペンで線を引きページに付箋を貼るようにしている。いつかぴったりと使うタイミングが来たときの為に。


「蝶の羽ばたき一つで遠くの国の天気が変わるあれだろ?」


「ええ、そのとおり」


 リエルはどこからか黒マジックを取り出すと、ホワイトボードに絵を描き出す。

 悔しいが上手い。さっと描いたのに左のそれが猿、右のそれがヒト(人ではなく)だとすぐに分かった。


「神の目的は人間の自然で人間らしい行動を観察すること。確かに悪魔だ異世界だなんて非現実的だと思うでしょうが、それらに関して神は一切手を加えていません。つまりそれらは、あなたが『観測者』に選ばれる前から存在していたのです」


 なるほど分からない。


「全てを説明するとなると、一度あなたを天界へ招き数万の書物を読んでいただかなくてはならないのです。ですので簡潔に、この世界には太古より、天使も悪魔も幽霊も妖怪も超能力者もおそらく人間が今まで目撃してきたその全てが存在し、当然それらを追う組織、匿う集団も人の目のつかない所で活動を続けているのです」


 俺は肩を竦めた。呆れを演出したつもりだった。


「すると何か?俺は今までそいつらがドンパチやってたのを知らないまま過ごしてたってのか?そんなこと……」


 あるわけがない。その言葉をリエルは遮る。


「ではあなたは、わたしの存在を他の方に証明できますか?」


 俺はすっかり黙ってしまった。それは無理だ。もし俺が見えない設定の天使の存在を証明される立場なら、そいつに頭がおかしい奴の烙印を押して隔離施設にぶち込むだろう。


 見える人は見え、見えない人は見えないモノ。

 知る人は知り、知らない人は知らないセカイ。 

 理解しろといわれてすぐに理解できるような規模の話ではないが、なんとなく、尻尾ぐらいは捕らえた気がする。


 リエルは沈黙を納得と捉えたのか、黒マジックの蓋をポンとはずすと、ホワイトボードに描かれた猿から人間に向かって矢印を引いた。


「話を戻しましょう。先ほどわたしは『神はそれらに一切手を加えていない』と説明しました。確かにその説明に誤りはありません。神が手を加えたのはそれらが生まれる前なのですから」


 なるほど分からない。


「例えるなら畑です。種を植える前の苗床に肥料を混ぜた畑と混ぜなかった畑。それ以外の条件を遺伝子レベルで全く同じにしても、同じ作物が出来ることはない。小さくても何ミリ、何グラムかの違いは出るでしょう。神は地球上に生命が誕生するよりも前に、天界の砂を一粒地球のどこかに落としました。それから雨に打たれ風に吹かれ、文明が生まれては滅び、踏まれ食われて幾億の時を経て現在、神が望む絶好の舞台が整いました。それはまさしくバタフライ効果。つまり神が『砂を落とした』ことで『偶然』今のような世界が出来上がったのです。神が落とした砂の着地地点が僅かでもずれていたら、神が砂を落としていなければ、悪魔は生まれず『リベレート』という組織は存在せず……、今とは全く違う現在になっていたでしょう。それどころか、地球上にニンゲンという知的生命体が存在していない可能性さえあります」


 半分寝ていた、というのは勿論冗談。流石にこの状況で欲求に素直になれるほど肝が座ってはいない。それに自室のベッドでなければなかなか寝付けないたちなのだ。


「まあこれ、考え方によっては彼ら彼女らも神に作られた存在といえなくもないですが」


 言いえて妙だな。神の落とした砂一粒が影響しているのなら、リエルの言う6人の主人公とその取り巻きたちは神が作り出した存在だと考えることも出来る。だが話を聞くに、赤坂や『リベレート』に限った話ではない。俺含む全ての人間や動植物、というより地球そのものが、天界の砂を落とした神によって作られた存在といえるのではないか。


「加えて言いますと、これからあなたが出会う『登場人物』の中にはまるで漫画やドラマのように信じがたい才能、能力、運を持ち合わせている者もいます。その全てがこのバタフライ効果の影響によるもので、出生や成長に関して、神を含む他者の手が関与していない事はこのわたしが保障します。つまりそれは、この世界の全てがノンフィクションであることの証明となります」


 バタフライ効果、か。神の投げ入れた砂(蝶の羽ばたき)が果てしない時間を経て現在に影響を与えている。同時に、ピタゴラスイッチとか、わらしべ長者を思い浮かべてしまう。


 とにかく、分かった。天界で数万の書物を読むわけにもいかないから、今はこう考えて納得しておこう。


 全ては神様のいたずらなのだ、と。

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