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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
6人目の主人公は神のみぞ知る
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 ミケの1件が解決した日のことだ。

 夕日の射す教室に、俺と委員長はいた。18時のチャイムが鳴る。1日で最後のチャイムだ。委員長はおずおずと尋ねた。

 

「それで……、話って、なに?」

 

 思えば、俺はずっと委員長のことを考えていた。ミケと猫井を対面させようと奮闘しているときも、対面のその最中も。

 きっとここで話さないと後悔する。そう思った。

 

「委員長」

 

「は、はいっ!」

 

 委員長はピシッと姿勢を正し、じっと俺の言葉を待った。ぽつりぽつりと、途切れながら俺は言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 委員長は嘘をついている。俺と同じタイミングでミケが見えなくなる、という嘘だ。その嘘は結果として、委員長に猫井と全く同じ行動を取らせていた。見えないはずのミケを待ち、聞こえないはずの声と会話をした。

 正確には、もともとミケが『見える』委員長なら、この2つにはいくらでも言い訳が効く。問題なのは、猫井の『見てないフリ』とまったく同じ行動を、猫井よりも前に俺に見せていたことだ。まるで全てを予言していたかのように、委員長は猫井の行動を先取りしていた。

 

 それだけじゃない。俺は『四次元半』のことを隠して、「見えないがある」と説明した。あくまで突発的なもので、条件などないと暗に示した。しかし委員長の提案は「他の教室でも試そう」という、まるで『扉を使った場所』が条件だと言い当てているようなものだった。

 

 更に委員長はどれだけ早く教室に着いても、俺に扉を開けさせた。しかし最後の教室、猫井がいた扉は自分で開けた。それは『四次元半』の性質、移動条件を理解し、かつ猫井があの教室にいると知っていての行動だったと考えると、納得がいく。最後の教室も俺が『右手』で開けていれば、猫井と出会うことはなかった。

 

 1つ1つは俺の勘違いで見過ごしてしまうほど小さな違和感だったが、こうも多く見つけてしまうと、果たして偶然だとは思えなかった。

 

「委員長、あんた……、誰なんだ?」

 

 視線が合う。どちらも目を逸らさない。委員長は小さく笑い、口を開いた。

 

「おめでとう。僕は神だよ」

 

 

 

 委員長は神を名乗り、考えを見透かすように笑みを浮かべた。

 

「僕は6人目の『主人公』。本来ならこれからもっと、矛盾した行動を重ねて重ねて、君に気付いてもらうつもりだったけど、君は随分賢いね。まさか動き出してものの数回で僕に気付くとは」

 

 委員長の声は夕暮れ時の閑散とした校内を裂くようだった。


 委員長という人間は存在している、神さまの供述によると、必要な時のみ神さまが委員長の体を借りて活動するらしい。

 

 俺はこのとき、大して驚いてはいなかった。委員長のとった異常ともいえる行動が、神さまのいたずら心だったと分かってむしろ安心した。

 

「それで、本当にお前が6人目の『主人公』なのか?」

 

「ああ、それは僕が保証しよう」

 

 神さまは2つ返事で頷いた。

 

 6つ目の物語に与えられた『マスターキー』は、いわゆる『観測者権限』。つまりは1人だけ感性が違う、デメリットしかないうえに基本常時発動している忌まわしい能力だ。銀色の髪を見て、おかしい。無理やりなシチュエーションに、おかしい。俺にとってはおかしいそれらも、世界の常識で見ると何らおかしくはない。おかしいのは俺の方だ。1人だけ常識の流れに無理やり逆らわされる、卑劣で残酷な能力だった。

 

 委員長はケタケタと笑った。

 

「ああ、そうだ。6人目の『主人公』の名前を出すのは5人目までが終わってからにしよう。ちなみに、僕の名前はこの体の子の名前でいいよ。神に名前なんてないからね」

 

 それから、夕暮れの中に1人取り残された。別段ショックは受けていなかった。ただ、言い様のない焦燥が俺の体を焦がした。

 

 

 

 

 

 俺とリエルが出会ったあの瞬間をA地点。

 俺が今いる瞬間をB地点と考えたとき、俺が6人目の主人公を特定した暁には、これまでの記憶、経験、交友を持ったまま、『観測者』としての資格を失ってB地点からの再開だとばかり思っていた。むしろ、その条件だからこそ俺は早沢に想いを告げたし、早沢の想いを受け入れない覚悟をしたのだ。全てはB地点から、1からやり直す日のために。

 

 だがリエルの口から出た言葉は、俺の予想を砕いた。

 記憶も、経験も、交友も、全てを失った上でA地点から、0からの再開だったのだ。

 それも、時間遡行や平行世界への移動とは異なるものだ。

 

「今のこの世界は、『偽り』の世界なんです」

 

 俺がリエルと出会った瞬間から、神さまは本当の世界に被せるように、『偽り』の世界を造り出した。それはあくまで、俺という1人の人間の人生を、観測のために壊さないようにという神さまの気遣いに過ぎない。いつでもやり直せるように、インスタントな世界を創造していたのだ。神さまはそもそも、俺が死んだ時点で観測を取り止め、A地点からの再開を実行するつもりだった。

 

 リエルは『ペンの線』と『鉛筆の線』を例に出した。消すことの出来ない『ペンの線』は一旦、A地点で途切れた。その続きを引き継いだのが、いつでも消すことの出来る『鉛筆の線』=『偽り』の世界。

 タイムスリップでもパラレルワールドでもなく、世界は元々の線へと戻る、それだけのことだ。

 

 

 

 俺は6人目の『主人公』の名前を口にすることができなかった。A地点から始めるということは、全てを失いそれらを取り戻す術もない、ということになる。

 俺が『マスターキー』の能力を借りて早沢との関係を進展させていたのなら、俺は元の世界で早沢と親しくなることすらないだろう。むしろ、今抱いている早沢への感情も、さっぱり忘れてしまっているのか。元の世界の俺は、全てを失ったにも関わらず、それさえも忘れるのだ。

 

 悲しすぎる仕打ちだ。

 

 

 駄目だ。言えない。言えるはずがない。言ってはいけない。言ったら後悔する。言わないほうがいい。言うな。言わなければ全てが今のまま。幸せな時間がいつまでも続くのだ。

 

 俺は言わなかった。リエルは何とも言えない表情で、静かに姿を消した。しばらくその場に立ち尽くした。何もない。何も出来ない。俺は『偽り』を選んだ。このまま『マスターキー』の力を借りた、お遊戯の人生を選んだ。俺は俺以外の全てを犠牲にして、俺にとって都合がいい世界を選んだ。明日の朝起きて、俺はこの選択に納得しているだろうか。出来るはずがない。俺は死ぬまで、この選択の是非に苛まれ続けるのだ。それを了承した上で、俺は『鉛筆の線』を選んだ。

 

 憂鬱だ。

 

 けれども、嬉々とした俺がいる。大きな壁を越えたに等しい。もっとも、壁の横をズルして通り抜けたにすぎないが。

 頭に巣食った靄に立ちくらみを起こしながら、明日からの予定を立てる俺が死ぬほど嫌いだった。

 

 いっそこのまま、死んでしまえばいいのに。

 

 

 

 

 

 

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