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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
6人目の主人公は神のみぞ知る
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 修学旅行の醍醐味は、『修学』の名目を終えた後に訪れる。『修学』は大抵初日に行われ、2日目以降は自由散策の時間が多く設けられる傾向にある。

 

 今日2日目、晴れた沖縄の街を歩く4つの人影があった。俺と、四宮と、山本と津川だ。

 ねぇ、なんで津川がいんの? お前、自分のグループはどうしたの? 訪ねると、津川以外全員熱を出してダウンしたらしい。用心の為に津川もホテル待機の方がいいと思うが……。

 それにどこか落ち着かない様子だ。急に後ろを振り向いたり、視線を忙しなく動かしたり。まるで何かに警戒しているようだ。

 

「俺は外に出たかっただけだから、気にしないで予定通り進めてくれ」

 

 予定なんて決めていないのだ。本当に、ただ歩くだけ。

 

 『一寸先は闇』という諺がしっくりくる。男子学生4人が宛もなく談笑しながら歩く、なんて『日常』は、もう3歩歩いたところで崩れて消えた。

 

「な、なんだ!?」

 

 声を上げたのは四宮と山本と俺。まるで邪悪を具現化したような『咆哮』が、付近の人間全員を襲った。

 

 悪魔か。

 

 その声でなく、落ち着き払って誰かと通信をとる津川を見て、そう思った。程なくして、銀髪を靡かせながら赤坂緋月は現れた。

 

「いきます」

 

 赤阪は呟く。そしてパン! と手を叩いた。

 

 なに? なにしてんの? 悪魔を呼び寄せてんの?

 

 俺が怪訝な視線を向けると、赤阪は焦ったようにもう一度手を鳴らした。そして津川と顔を見合わせ、首を傾げた。

 

「ど、どうしてこの男には、『催眠拍手』が聞かないのですか?」

 

 あれ? 俺は辺りを見回す。

 四宮も山本も、視界に入るすべての人間が倒れ、すやすやと寝息を立てていた。

 

 あっ、ミスりました……。やり直していいですか?

 

「うーん、デッドブルを飲んで眠くないはずなのに、ネムクナッテキタゾ……」

 

 バタリと倒れる。果たしてこんな大根演技で満足するだろうかと不安だったが、赤坂と津川は一息ついて走り去った。チョロすぎだろ。

 

 しばらくそのまま眠ったフリを続け、起き上がるとリエルを呼んだ。

 

「なんだよこれ。俺が知らない間に『物語』が進行してたのか?」

 

「ええ。『リベレート』はあれから魔界伍柱をすべて倒した……かと思えば、魔王肆親兵まおうよんしんへいなる魔族が現れました。本来沖縄には沖縄の『リベレート』がいるのですが、桁違いの強さを誇る魔王肆親兵を『四次元半』で食い止めることは出来なかったようです」

 

 インフラか。その後には魔界参銃士でも控えているに違いない。

 ……つまり魔族が人間界に侵入した、津川はそいつらの存在を警戒していた訳か。リエルは頷いた。

 

「どうします? あなたが行けば、被害も最小限の内に止めることが出来ますが?」

 

 まるで俺が行く行かないで悩んでるみたいな言い方だな。答えは『行く』だ。俺はいつだって俺のままだが、以前の俺とは異なる部分がある。

 

「守りたい人がいるからな」

 

 なーんて言ってみたかったんだよね! 今がベストチャンスだと思ったもん。

 もちろん行くさ。『四次元半』内で済む戦闘ならともかく、現実世界にまで影響を及ぼす規模でのんびり待っていてどうにかなるほど、この世界は甘くない。死人が出たあとで、俺は果たして『いつも通り』の生活を送れるとは思えなかった。

 

「ちなみに、ここ『四次元半』じゃないけど『マナ』は使えんの?」

 

「使えません。『マスターキー』はあなたが現場世界で『マナ』を使うことを想定してませんから、優先順位は変わらず、です」

 

 リエルは満面の笑みで答えた。あっ……じゃあ僕ここで待ってますね。なんだか眠くなってきたなぁ。

 

 まぁ、走った。『マナ』が使えないんじゃ戦えはしないが、津川を焚き付けるぐらいは出来る。そういえば仮面がないな。仮面を売る露天を見つけ、適当な仮面を取る。これ能面じゃん。ちゃんと値段分の硬貨は置いていったよ? クレームとか怖いし。

 

 また咆哮が聞こえ、声の出本に向かって走った。

 

 

 

 5メートルはある黒く禍々しい魔族が1、『リベレート』らしい人間が5。内訳は津川、赤坂、知らない人たち。

 さて、現場に到着したはいいが、何をしよう。『リベレート』のようにヒュンヒュンと空中を飛ぶことも出来ないし、なんなら出番もなく終わりそうだ。いくらあの魔族が強くても、5人がかりではどうにもならないようだ。まさに数の暴力。

 

 しかし妙だ。隙をついては魔族の体に傷を入れているのに、目を離したときにはもう治っている。腕を切り落とそうと、すぐに生えてくるのだ。

 

 直後に、男の悲鳴。魔族のその鋭い爪が……津川! また貫かれてますよ!

 魔族は津川をポイと投げ捨てる。ナイスコントロール。津川は俺が隠れている建物の角に、弧を描きながら転がり込んできた。 魔族たちからは見えない位置であることを確認し、津川を揺さぶる。腹に空いた傷はみるみる内に治っていた。

 

「ん、うぅ……。いっ……だ、誰、ですか?」

 

 気が付くなり、津川は座ったまま後ずさり、懐疑の目を向けた。寝起きで目の前に能面がいたら、誰でもそうなる。

 

 私の名は大倉井重近。趣味は仮面の模様替えだ。

 言おうとして、慌てて口を抑えた。音を立て転がってきたのは赤坂だった。魔族に飛ばされたのだろう。暴投だ! 暴投。赤坂に対したダメージはないようで、すぐに立ち上がり、すぐにこちらに気付いた。

 

 さすがに赤坂の前で大倉井の名を騙るのはリスキーだ。また適当に偽名でも出しておくか、と名前を考えている暇を赤坂は与えてはくれなかった。

 

「あなた……、どうしてここに?」

 

 バレてる? んなわけない。声も顔も出していないし、仮面だって初めての能面だ。バレる要素がない。

 

 俺は赤坂を無視して、作った低い声で津川に尋ねた。

 

「あの魔族と戦ってて気付いたことはあるかね?」

 

「そ、そう言えば、いくら切りつけてもそのそばから治癒が始まってキリがないと感じました」

 

 言葉を継ぐように、赤坂も頷いた。

 

「……心当たりがあります。前に対峙した魔族は、安全な別の場所に別の魔族を配置して、常に自分の傷を回復させていました」

 

 つまりどこかに魔族がいると。津川は首を傾げる。

 

「でも、魔族の反応はあの1体だけ……」

 

 考えが煮詰まったらしい。2人して頭を抱え、小さく唸っていた。

 

 うーん、『四次元半』じゃないの?

 

 きっと『リベレート』では、魔族=『四次元半』の方程式が頭に固着して錆び付いているのだ。556使え、もっと潤滑にいこう。

 

 俺がさりげなくその可能性を示唆すると、2人は目から鱗と言わんばかりの表情で俺を見た。しかしすぐに首を振る。

 

「『四次元半』の管理は地区毎に行っています。私たちが入るとなると、この地区の担当者に承認を貰わないといけません。許可が降りるまで早くて10分……。あの魔族からの猛攻に耐えうる時間では……」

 

 あ、僕すぐに入る方法知ってますよ? むしろその方法しか知りません。

 

 すぐ近くにあった電話ボックスの元へと2人を招き、扉を開く。揃って驚き、俺に不信感を込めた視線を送るが、それは無視。「離れるなよ」と喚起し、目を閉じる。一瞬だ。赤坂の言葉から、『四次元半』のどこかにあの悪魔の協力者がいると考えた。そいつを探す必要なんてない。『四次元半』において俺の『マナ』捌きの技術は世界一ィィィィーーーーッ!

 

 赤坂と津川は呆然と、瓦礫に変わった沖縄の街を見た。半径3キロ。『マスターキー』による俺の今の限界だ。だが、隠れた協力者を消し飛ばすのに十分な距離だろう。俺たちは急いで現実世界へ戻る。ちょうど、残りの『リベレート』が魔族を討ち倒したところだった。

 

 

 

 

 

 修学旅行の行程も、残るは飛行機で帰るまでになった。楽しかったなあ。もっと写真を撮っておけばよかった。あー、本当……、帰りたくない。

 クラス毎にまとまって、飛行機に搭乗する。席は教師陣で勝手に決めているらしい。

 

 えーと、G13……G13……。あった、誰のとなりか赤坂さん! Oh……。

 

 よっと赤坂を越え、窓際の席につく。座り次第狸寝入りを決め込んだ俺の耳に、赤坂は生暖かい息と言葉を吐いた。

 

「あなたは何者ですか?」

 

 うん、駄目だ。きっと赤坂さんは確信を得たうえで、俺にカマをかけている。だってあのとき、顔こそ仮面で隠れてたけど普通に制服だったし。

 それならば沈黙をもって是としよう。ということで狸寝入り継続。

 

「……答えなくてもいい。ただ、改めてお礼はさせてください。ありがとうございました」

 

 赤坂の髪と制服の擦れる音。本当に頭を下げいるのか? あの赤坂が!?

 ただ感謝されて悪い気はしない。それから飛行機が離陸、着陸するまでの間、俺は泥のように眠った。(言ってみたかった)

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