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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
5人目の主人公は強さの象徴らしい
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 修学旅行といってもそう狂ったようにテンションがぶち上がる訳でもなく、機内ではしゃぐ四宮と山本を尻目に俺は窓の外を流れる変わり映えしない空を眺めていた。

 沖縄には何度か行ったことがあるし、その旅に飛行機にも乗っている。非日常なことと言えば、それらをクラスメイトと共に行っていることか。

 

 学校に集合、空港で搭乗待ちの間に、早沢との会話はなかった。1度声を掛けようと近付くと、逃げるように人混みに紛れて行った。

 

 沖縄に着き、あれこれしている内に夜になった。ホテルの室内に籠り、ずっとボーッとしていた。四宮と山本は女風呂を覗こうと計画していたが、敢えなく失敗。教師に見つかりこってり絞られている。

 窓から見える沖縄の夜景……あいにくの雨だ。それはそれで情緒があっていいとは思うが、これでは明日予定されているシュノーケリングやカヌー体験も実施が危ぶまれる。俺は行かないけど。

 

 することもなく、したいこともない。それなのに、しないといけないことはしないまま残る。

 

 


 どれぐらい経ったろうか。時計を見ると20時前。程よい頃か。俺は携帯電話の電話帳を漁った。その中から1人に電話をかける。こうして連絡を取るのは初めての人物だ。ワンコールで受話器が取られた。




 しばらく待つと、部屋の扉がノックされた。扉を開く。


 普段着に着替えた委員長は、俺を見透かすような笑みを浮かべた。


「嬉しいね。君が僕を頼ってくれるなんて」

 

 俺は委員長を連れ立って部屋を出た。ホテルを出、しばらく歩く。雨は止んでいた。間違ってもこれから行う会話は、他の誰かに聞かれてはならない。部屋で2人きりという状況も、四宮たちに見られるのはあまりよろしくない。

 

 ホテル前にある砂浜へ着いた。さすが沖縄だ。都会のごみごみした海よりも澄んでいて、浜辺も足元に気を付ける心配はなさそうだ。

 

 まず口を開いたのは俺だった。

 

「聞かせてくれ。2つ目の物語に対して俺に与えられた『マスターキー』は、他人の心に干渉できる力を持っているのか?」

 

 委員長はゆっくりと頷いた。

 

「そうだね。発揮される効果は君の意思とは関係なく、他人の心を自分の都合のいいように動かす。それが2つ目……、星倉七美を中心とした物語の『マスターキー』さ」

 

 予想も覚悟もしていた。落ち込んでいないと言うと嘘になる。だがそれ以上に、0か1かで悩んでいた事柄がどちらかはっきりとしたことで、気持ちが割りきれたと思う。心なしかスッキリしていた。

 

「……そもそも、前提から間違っているんだよ」

 

 委員長はそう呟いた。それは俺に向けて放った言葉ではなく、捨てるように吐いた音だった。その意味を問う前に、委員長は立ち上がった。

 

「明日は晴れる。シュノーケリングもカヌー体験も滞りなく進行する。おっと、君は首里城見学だったね。どちらにせよ、明日ほど整った舞台はないだろう」

 

 砂浜に足跡も残さず、委員長は立ち去った。ポツンと1人残された俺は、またしばらく思いにふけった。

 

 

 

 例えばハーレムものの漫画や小説で、主人公に出会った瞬間に行為を抱く登場人物がいると、どうしてもその感情に行き着くまでの経緯を辿りたくなる。

 何にときめいたのか。何が優れていたのか。

 顔か、体か、声か、行動か、短い時間の間に心を動かす強力な印象があったのだろう。

 

 俺には『マスターキー』がある。『マスターキー』以外にも持ち合わせていて、誰かがその部分に好意を抱いてくれたとしても、俺にはその判断のしようがない。果たして俺の生まれ持った部分に対するものか、『マスターキー』で装飾された部分に対するものか、それは神さまにだって分からないだろう。

 

 俺は明日、早沢にこの想いを伝える。

 

 それで全てが楽になると思った。

 

 早沢の感情が本物か『偽り』か分からない以上、俺は早沢の気持ちに応えることは出来ない。

 だが、俺のこの気持ちは紛れもなく本物だ。

 だから気持ちを伝えて、それでおしまい。俺たちは溝を飛び越え、けれども先には進まない。少なくとも、『観測者』としてある以上は進んではいけないと思う。

 

 早沢からのメッセージは来ない。この夜ほどメッセージを待ちわびた日はない。

 

 沖縄の星は鬱陶しいくらいに綺麗だった。あの日、あの砂浜で見た星空と重なり、俺はホテルに戻った。

 

 

 

 

 

 室内には四宮と山本がトランプに興じていた。見たところババ抜きのようだ。2人でやるババ抜きのどこが楽しいのか。

 

「おっ! 帰って来たな! 混ざれ混ざれ、神経衰弱だ!」

 

 山本はそう言うと、俺を手招いた。机の上にトランプをばらまき、手でかき混ぜる。適当な椅子に腰を下ろし、3人で机を囲った。

 

「で? お前は何を悩んでんだ?」

 

 1組揃え、2組目を探りながら、山本は唐突に口を開いた。視線はトランプの海だが、それが俺に対する質問だとなぜか分かった。

 

 隣で四宮もうんうん頷く。

 

「まぁ、俺は見てて何となく分かるけど」

 

  俺の番だ。適当に角のトランプをとる。『ハートの7』。次いで真ん中辺り、2枚重なった内の下にあるカードをとる。『クローバーのクイーン』。四宮がカードを選び始めた。

 

「……明日の首里城巡り、しばらく1人にしてくれないか」

 

 四宮と山本は目を合わせ、フフンと鼻を鳴らした。

 

「今夜は寝かせないぜ? 俺の告白までのエピソードを全編ノーカットでお届けするからよ」

 

 むしろいい子守唄だ。お礼と言わんばかりに、俺は3組連続でカードを揃えた。

 

 

 

 

 

 しかし負けた。最終的にはに2人に10組以上の差をつけられ惨敗した。ほら、明日のシミュレーションで一杯一杯だったんだって!

 

 という訳で、罰ゲームとしてホテル近くのコンビニまで買い出しに行っている訳だが……。

 

 また雨か……。ホテルに備え付けの傘を借りて、コンビニへ向かった。近くのコンビニといっても、ホテルから500メートルはある。雨足は激しいわけではないが、かといって傘無し歩くのは無謀と言える。

 果たして明日は本当に晴れるのか? 雨が降ったときのシミュレーションも行いながら、コンビニへ着く。

 

 はぁ。

 これも偶然ではないのだろう。

 コンビニの軒先に立つ早沢は、俺を見るなりサッと顔を伏せた。さすがにこの雨の中、逃げ帰ることはしないようだ。もしかして、それで誤魔化したつもりなのか。俺は1億人からでも見つける自信があるぞ。それは盛りすぎか。

 

 しかし迷った。俺のシミュレーションに、この日の夜早沢と接触する段取りは組まれていない。……今この場所で言ってしまおうか。そうでないならオレも気付かないフリをした方が……。

 

 まぁ、そうは出来なかった。早沢に無言で畳んだ傘を渡し、店内に入る。この時傘は、コンビニと早沢を結ぶ錠の役割をしていた。何となく、俺が店内に入った途端に、早沢は雨の中を走って帰りそうな気がした。もしそうするにしても、せめて傘はさしていてほしかった。早沢がずぶ濡れで帰るより、俺がそうなった方がマシだ。もっとも、早沢の性格上、俺を待つことは分かっていたが。

 

 頼まれていた物品を買い、コンビニから出る。早沢はそこにいて、無言で傘を差し出した。それを受け取り、雨空に向けて広げる。

 

「ほら」

 

 そう言うと、早沢を見やった。「ありがとう」と小さく呟き、早沢は傘に入った。

 

 この傘は大きい。2人入っても窮屈には感じない。だが、早沢と俺は体を寄せ合っていた。早沢が俺の上着の裾を掴んでいるのだ。自然と距離は0になる。

 信号待ちの道路は、雨に濡れて幻想的だった。横断歩道の白線と、赤信号の光が混ざりあってアスファルトを照らしている。

 

「なあ」

 

 コンビニからホテルまで、立ち止まるタイミングはこの信号だけだ。俺は体の向きを変え、早沢に向き直った。

 

「避けないでほしい」

 

 気まずいと思われたくなかった。気を使わせたくなかった。溝を埋めるための、基礎工事のようなものだ。早沢が俺に遠慮している限り、俺と早沢は永遠に交わらない。

 

 早沢が何か言う前に、歩行者信号が青になった。水の溜まった横断歩道を、俺と早沢は渡った。

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