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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
5人目の主人公は強さの象徴らしい
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 3度目ともなると、俺は従順な忠犬のようにすっかり用意を済ませて、幼馴染コンビを家の前で待っていた。

 例によってエナメルバッグを肩に掛け、自転車を走らせる。

 

 どうせ今日も補欠なのだ。特に練習も気構えもなしにグラウンドへと向かった俺を出迎えたのは、四宮父の驚愕のオーダーだった。

 

 2番ファースト俺。

 

 なぜだ? なぜそうなる。

 

 人数を数えると、『商店街シューティングスターズ』の正一塁手、八百屋の尾寺おじさんの姿がない。

 なんでも、3歳になる息子が風邪を引き、その看病にあたるそうだ。

 

 それは仕方ないな。責めようがない。


 しかしこれでは10人だ。1チームに必要な人数に1人足りなくなる。

 

 すると四宮父は、グラウンドの端でキャッチボールをしている、既に敗退済みの『農業ファーマーズ』の面々へ声を掛けた。

 

「おーい、誰かベンチに入ってくれ!」

 

 それはありなのか? なら俺は始めから要らなかったんじゃないか?

 

 田吾作投手がベンチイン。試合には出さないという条件のもと、相手チームも審判団も黙認した。意外と緩いのね。

 

 

 

 

 相手チーム『県庁前ウォリアーズ』も我々『商店街シューティングスターズ』と同様、謎の力で勝ち上がってきた元弱小チーム。打線は右バッターのみで形成され、取り合えず、こちらに強い打球が飛んでくる可能性は少ないだろう。

 

 俺は野球初心者だが、ファーストとしての捕球くらいは出来る。一方『県庁前ウォリアーズ』も打って稼ぐチームではないらしく、打ち上げたフライやボテボテのゴロで初回の攻撃を3者凡退で終えた。

 

 

 さて問題の攻撃だが、あのピッチャーには見覚えがある。

 

 身長は180センチほど。黒髪をツンツンに立たせ、切れ長の眼。イ、イケメンめ……。

 

 確か彼の名前は野呂のろ茂郎しげろう。左投げ右打ち。あぶねぇなぁ。

 3年生なので直接の関わりはないが、校内で彼を知らない人はいない。野球部のエースでキャプテン、4番で監督で応援団の団長まで務める、まさに野球部の顔だ。おまけに県庁職員の息子ときた。もしかして野呂先輩こそこの『物語』の主人公ではないか? 後ろのポケットからは青いハンカチが顔を覗かせている。

 

 そんな彼が、『県庁前ウォリアーズ』に入れば、そりゃあ勝ち抜いてもくるだろう。

 

 球速はMAX157キロ。パ○プロかよと突っ込みたくもなるが、目の前で見せられては声も出ない。

 

 1番バッター文房具店の定規ていぎさんは三球三振。どうやらストレートオンリーのようだ。

 

 ネクストバッター俺。振る気なし。ピッチャー投げた! はえぇぇぇ! あっさり三振。当たる気もしない。恐らくジャイロボールだ。ボールがジャイロ回転している。キャッチャーも「ナイスジャイロー」って言ってたし。これは勝てんな。

 

 結局『商店街シューティングスターズ』も 三者凡退。試合は膠着状態のまま進むかに思えた。きっとどこかのタイミングで、ほんの僅かな油断の隙に、あっさり均衡が破れるものだと思っていた。

 

 なーんにも起きなかった。

 

 いつ点が入ったのかも見ていなかった。それだけ山のない試合だった。果たしてテレビ中継されていればクレームが届きそうなほどの、凡打凡退の連続。

 はっと気が付けば試合は終わっており、0対1の辛勝にて3回戦は幕を閉じた。

 いいのか? これで。

 

 

 

 

 来週からテスト期間に入る。

 進級早々行われるそれは、ある種の自己顕示会だと俺は考える。『去年の総復習』という題目を掲げ、その裏でクラスメイトたちが互いに、『出来る奴』と『出来ない奴』を見極めるのだ。そして俺は漏れなく『出来ない奴』に入る。

 では果たして、何らかの勉強を行ってきたかと言えば、俺は首を横に振る。別にいいもん。赤点取ったからって、1週間後の再テストで頑張れば補習もないし。

 

 それに俺には言い訳がある。

 悪魔の襲撃から世界を救ったり、幽霊を成仏させたり、挙げ句の果てには自分の地域でないチームで、草野球大会に参加させられたり……。

 

 まあ、そのどれもがなかったとして、俺は結局勉強のべの字もしないのだ。毎度毎度ギリギリ通過が日常的。赤点を取ってから、取った科目だけをピックアップして一夜漬け。赤点というバーをすれすれで飛び越え、再テストを突破する。これが俺の『日常』だった。

 

 しかし……。

 そう、担任の原崎は違うのだ。圧倒的体育会系……っっ! 彼は言った。

 

「1人でも赤点なら、連帯責任で全員居残り勉強だ」

 

 ふざけやがって……っ! 原崎の言葉を聞いて、俺の1年時の成績を知る数名の生徒は俺を見る。やめろ! 他の奴にバレる!

 ここで俺が赤点を取れば、俺は悪い意味で時の人になってしまう。そうなると、これからの学生生活に暗雲が立ち込めるだろう。

 

「よぉ、俺たちのために頑張ってくれよな」

 

 ホームルームが終わると、四宮は嫌みをたっぷり込めた笑顔を向けた。

 

「うるさい。俺には何でお前の成績がいいのか分からん。お前の顔はそんな顔じゃないだろ」


 明らかにアポ顔。お調子者の山本よりお調子者の顔をしている。

 

「失礼だな! ……まぁ、中学ん時から、星倉のスパルタ教育受けてたからな」

 

 くそぅ! くそぅ! 羨ましい!

 幼馴染とのイベントを逃すことなく堪能しやがってからに!

 

「そういや今日、文芸部の奴らと勉強会するっつってたぜ?」

 

 うむ。仲良きことは良いことだ。では俺は、頭のよろしい四宮にご教授をお願いしようか。

 

「それなら俺たちも放課後、文芸部室に行こうぜ。人数が多いに越したことはないって」

 

 い、いや、それはやめた方が……。

 何故なら文芸部には『黒幕』がいるからだ……。彼女は男嫌いかつ俺嫌い。俺が文芸部室に入った瞬間、黒服の襲撃を受けるやもしれん。

 俺の青ざめた顔を見て、四宮は親指を立てた。


「大丈夫だって! 千々寺? だっけ? 最近赤坂と仲いいって星倉が言ってたぜ? 今日も2人で勉強会するって」

 

 俺は右斜め前の席で、せっせと英語の課題をする赤坂を見た。君たち……。やっぱり変人同士惹かれ合うんだね……ほろり。


「だから星倉が言った『文芸部の奴ら』は……、ほら、お前と仲いい……、さ、早沢だっけ。それと1年の子のことだろ?」

 

 そういや四宮が、星倉以外の面々と話してるところは見たことがない。比べて俺は、あの4人それぞれと何らかの関わりがある。

 星倉は『主人公』候補。

 猫井は3つ目の物語で重要なポジションだった。

 千々寺は宿敵? 仲がよくないという仲。

 そもそも、俺はいつからあいつらと関わりだしたんだ? 俺が掃除用具入れからこんにちはした時からか?

 

 まあいい。千々寺がいないのなら、俺も星倉に勉強を教えてもらうことにしよう。確か早沢も成績は上の方だった気がするし。猫井も……、いや、さすがに現役1年生に教えてもらうのは羞恥心で死んでしまうな。

 四宮に適当な返事を返し、放課後の約束を取り付けた。

 

 

 

 

 

 文芸部室の扉をノックした。今日はあいにく日直で、四宮には先に部室へ行ってもらっていて、部室前に立っているのは俺1人だ。返事の後に扉を開ける。

 

 ……んん? んんん?!

 

 早沢と、猫井と、千々寺と赤坂の瞳が俺を迎えた。

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