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5日とんで今日、5月の第1日曜日。
なにもしなかった土曜日の動きをそっくりそのままコピー&ペーストしたように、俺は自堕落な朝を送っていた。
午前8時。1度目が覚め、「まだ日曜か」と安心して二度寝に移る至福の瞬間を、やはり幼馴染コンビが奪いやがった。大体なんでお前ら部屋に入ってるわけ? 昨日鍵閉めて寝たはずなのに。訝しむ視線を送ると、星倉はさっと背中に針金のようなものを隠した。常習犯か。
この2人が来たのは他でもない。四宮、星倉の父を中心に結成された『商店街シューティングスターズ』なる弱小野球チームが、あろうことか1回戦を勝ち進んでしまい、本日開催の野球大会2回戦に臨むためだ。人数はギリギリの11人。1人でも欠けてしまえば不戦勝。
だがルールによると、『成人男性8人以上』つまり俺でなく星倉がベンチに入ってもよいわけだ。
しかし星倉は首を振った。
「もしわたしが怪我したら、お父さん卒倒しちゃうもん」
星宮もうんうん頷く。
「あぁ、あの時は大変だったな。あれは中学3年生の冬。両家でスキーに行ったときのことだった――(回想)」
はいそこ回想入らない。
それからしばらく、口から出任せに行かない言い訳を乱射したが、そのすべてを星倉はかわしきり、結局こうしてエナメルバッグを片手に自転車を走らせるのだった。
対戦チーム『農業ファーマーズ』は、前大会優勝の実力派チームらしい。中でも一番大きな畑を持つピッチャーの田吾作与次郎選手(56)は、最速152キロ、握力78、5つの変化球を自在に操り、延長15回までを投げ切るスタミナを持つスーパーおじいちゃんだ。
これで『汗まみれ』なら主人公で確定だが、どれだけ激しい動きをしても汗をかかないことからサイボーグ疑惑をかけられた、かわいそうなおじいちゃんだった。
例によって、俺と四宮はベンチスタート。さすがに相手が相手だ。これはもう負けるだろう。負けろ。
もっぱら俺は四宮父の動向に意識を集中させていた。四宮父は7番ショート。守備でも打撃でもそれほど目立った活躍はしておらず、『主人公らしさ』は微塵もない。また時間限定、条件次第で覚醒するタイプでは、見逃すわけにはいかない。それはもう、じっと見ていた。俺には四宮父しか見えていない。四宮父に夢中なのだ。
ti・ti・ni・mu・chu
きっとこれは神さまのいたずらか、幸運の過多に違いない。スコアボードには3と6の数字。6が弱小『商店街シューティングスターズ』。ヒット数でもエラー数でもない。田吾作与次郎投手の豪速球を、ものの見事に捉えているのだ。長打こそ出ないものの、シングルヒットと盗塁、バントを絡めた戦法で、ランナー1人の帰還率は中々高かった。
そして最終回。またまた安全圏で俺と四宮の起用。
四宮は速球により打ち取られ、敢えなく凡退。俺は背中にデッドボール。痛いです。
ちなみに守備位置は、俺がファーストで四宮はライト。よりによって何故俺がファーストなのだろう。右打者の引っ張り強打を取れる気はしないし、セカンドセンターの左右に忙しなく動く守備も出来ないけど。
最後のバッターをキャッチャーフライに打ち取り、ゲームセット。強豪チームを倒してしまい、もうこうなったら優勝して1万円を手にするしかなくなった。
平日を迎えた。
それからまた『主人公』探しに精を出すわけだが……。金曜日を迎えた時点で、リエルと出会って1ヶ月が経ってしまった。
ということで、これまで出会ってきた中で、主人公である可能性がある奴をまとめてみよう。
まずは赤坂……と言いたいところだが、俺が出した『繋がらない三角形』に当てはめると、既に津川が1つ目の物語の『主人公』であることが判明しているので、あいつは除外だ。
次に四宮。俺の友人兼情報屋ポジション。限りなく普通の皮を被りながら、同い年の幼馴染を持つという羨ましい生い立ちであることが分かった。裏切り者。俺も次のクリスマスプレゼントには是非、幼馴染をお願いしよう。
しかし今回の『汗まみれ』が四宮父だとすると、その息子である四宮は除外されることになる。その逆も然り。ボードゲームのように、理詰めで『主人公』を割り出していける。
文芸部の面々は全員対象だったが、3つ目の物語終了後、猫井凛子を候補から外した。また、『ポニーテール』という特徴を持つのは星倉ただ1人だが、なにもすぐ答え合わせを行う必要はない。4つ目の物語『汗まみれ』を特定できれば、次の物語で最後になるのだ。どちらが先でも変わりはない。1回のミスも許されない以上、答え合わせの順番にも気を使わねばなるまい。
最後に、四宮父。『汗まみれ』という点で見れば、彼がそうだとすぐにでも言えるのだが、いかんせん『主人公らしさ』がない。唯一、弱小チームのキャプテンという点が、主人公ぽいっちゃ主人公っぽい。
家に帰り自室でまったりしていると、珍しく父が声を掛けてきた。
「よう、最近どうだ」
「元気だよ! 神に選ばれて天使に会って悪魔に襲われて異世界に行って仮面を着けて汗まみれのおっさんと野球するくらい元気だよ!」とは言えず、適当に相槌を打って会話を進める。
「そういや、お前最近彼女が出来たらしいじゃねえか」
頬を緩めて何を言ってるんだ。誰からの垂れ込みだ? お調子者の山本か? なんやかんやで山本と俺は中学時代からの仲でもある。
「駅前でな、お前が……、くふっ、仮面を着けて女の子2人とデートしてるところを見たんだ。どっちが本命なんだ?」
その場面を見てしまったのか、千々寺も赤坂も性格に難がありすぎて俺は苦手だ。それに千々寺は……、これ以上はよそう。
とにかくそんな訳ないと首を振った。あれがデートと呼べるなら、俺の人生初デートをあの異常者どもに奪われたことになる。
「お前は昔から変わらんな。まぁなんにせよ、不貞行為はやめておけ。トラブって俺らの世話になんなよ」
へいへいと頷く。
なんにせよ、早いところ残る『主人公』3人を特定して、『観測者』という肩書きから脱しないといけない。父が見た一幕こそ、俺が忌み嫌う非日常そのものだからだ。
ところ変わって現在、俺は今ファーストベースの前方で、縦長のミットを手に、春の陽気な日差しにさらされている。
どうしてこうなった?
日曜、野球大会3回戦。
2番ファースト俺。
プレイボール!




