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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
4人目の主人公は汗まみれらしい
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「3人目の主人公って、ミケだろ」

 

 俺はリエルを呼び出すと、答え合わせを申し出た。

 遡ること金曜日の夜。大倉井の送迎を受け、帰宅した後のことだった。

 

 

 

 俺はこれまでに多くの『登場人物』に出会った。しかしその中から『主人公』として特定するに至ったのは、『戦闘狂』こと津川千尋ただ1人だった。

 なぜ俺の主人公探しが難航しているか、その原因は2人目の主人公にある。

 2人目の主人公の特徴は、『ポニーテール』。俺が知るなかでポニーテールと言えば、自慢の青髪を結わえた星倉七美だけだが、現段階で判断を下すのは早すぎると考え、全候補が出揃う1ヶ月を待つことにした。しかしそうなると、その間は次なる『主人公』の特徴を聞き出すことが出来なくなる。津川の時もそうだが『主人公』がその特徴をあらわにするのは、限られた時間、限られた空間、限られた条件である可能性がある。

 

 津川はその内の全てに当てはまった。

 『四次元半』という空間で、悪魔との戦闘中、命の危機に瀕するという3要素が重なった結果、津川千尋は『戦闘狂』という特徴を俺に見せた。

 更にその一幕を見て確かめないといけない、そう考えると、『特徴ヒント』はなるだけ早い段階で貰った方が対処も対応もしやすいはずだ。

 

「……なぜ、ミケさんが主人公だと?」

 

 ミケは俺たちの中心にいた。俺と、猫井と、委員長。3人全てがミケの為に動き、ミケとの繋がりを持っていた。委員長はともかく、俺と猫井はあくまで、『ミケを通して』の関係。更にその延長線上に千々寺舞も姿を現すが、彼女と俺は『猫井、ミケを通して』の関係だった。


 それに――。

 

「同じフィールドにはいないと思った」

 

「と、言いますと?」

 

 もし猫井、星倉が主人公だった場合、『文芸部』というカテゴリの中に2人の主人公が存在することになる。

 

 『四次元半に移動できる』効果と、『幽霊が見える』効果は同時に発揮されない。同じように『文芸部に対して発揮される何らかの効果』と『幽霊が見える効果』も同時には発揮されない。

 

 2つ、3つ目の物語の主人公を星倉とミケだと仮定して、津川も入れた3人の関係性を見てみると、『繋がりのない三角形』を成している。

 しかしこの三角形の1辺、ミケを猫井に変えた途端、三角形は破綻する。

 もちろん、同じ高校の生徒、だとか、同性なんて繋がりは考慮していない。

 

 『共有』はあっても『共存』はない。

 

 今回の場合、主人公が猫井でも『マスターキー』に対して大した影響はないが、他の『物語』でそうだとは限らない。

 

 『マスターキー』の効果を最大限発揮するためには、それぞれの物語の『主人公』同士は干渉しない位置にいることが絶対条件なのだ。

 でなければ、神さまはこんな欠点のある能力を『観測者』に授けたりはしないだろう。

 

 リエルは頷いて答えた。


「正解です。今回の主人公はミケさん。一匹のの物語でした」


 

 

 

 

 所変わってグラウンド。春の日差しは穏やかなものだが、絶えず動き続ける者たちにとってはそうはいかない。

 試合は中盤まで進み、勝ち越してはいるものの油断しないぞと円陣を組む。四宮父の掛け声の元、一斉に声を出す。解散後、俺は俺の右手を見た。

 

 ビチャビチャだ……、俺の手。

 

 3人目の主人公を的中させたことにより、ルール通り次の主人公の特徴を教えてもらった。

 

『ずばり、汗まみれです』

 

 始めは何を言っているのか分からなかった。あぁ、また引っ掛けヒントか。どうせ『サウナに入って汗まみれ』てオチだろ? なんて全くあてにはしていなかったが……。

 

 四宮父は、現在『汗まみれ』だった。

 

 

 

 結局出番もないままで試合は着々と進行し、俺と四宮は最後の最後に代打で起用された。結果は三振と三振。

 俺の『マスターキー』はどうも、直接的に野球の技術には結び付いてくれないらしい。




 実は『商店街シューティングスターズ』、万年1回戦敗退の弱小チームだったそうだ。

 

「50万を投じて機材を新調した甲斐があった!」

 

 星倉父はそう言った。長い目で見て黒字になる前に故障しなければいいが……。

 

 俺としては1回戦で早速負ける、という展開を期待していた。さすがに一介の高校生を、コミュニケーション目的の練習試合には参加させないだろう。だが捉え方によってはこうも考えられる。優勝すれば楽をして1万円にありつけると。

 

 さて、俺には試合結果よりも重要な思案事項がある。もちろん、『4人目の主人公』のことだ。

 もし主人公が四宮父だったもしても、『繋がりのない三角形』はちゃんと成り立つ。だが、さすがにこの段階での判断は難しい。歯痒いくらいに『汗まみれ』だが、更なる『汗まみれ』が出てこないとも限らない。

 おまけに四宮父は、津川のように悪魔との戦闘を生業としておらず、もちろん霊ではない。今のところ、主人公らしさが全く見えない。俺が知る主人公に『凡人キャラ』はいくらでもいるが、本当の意味で最後まで凡人だった主人公はごく僅かだ。きっと四宮父も、試合中何らかのスーパーパワーを発揮してチームを勝利に導くに違いない。今はその時を待とう。

 しかしそうなってくると、一試合でも多く勝ち続けなけらばならない、というジレンマに直面する。

 

 俺は一刻も早く、この物語における『マスターキー』の効果を把握し、試合展開を有利に運ぶ必要がある。

 

 まあそもそも、4つ目の物語がこの野球チームを中心に進んでる保証はないけどね。しかし四宮父は、驚くほど『汗まみれ』だった。

 

 


 

 

 何もしていないのに、体の節々が痛い。腕の疲労がメガホンを振り回したこと、というのは分かるが、どうして俺の体は外で過ごして日光を浴びるだけで悲鳴を上げるのか……。

 

 インフルエンザの疑いがあるな。熱を計れば平熱、咳もなし頭痛もなし。むしろ適度に運動したあとの睡眠で、いつもよりも寝起きがいい。これも野球のお陰だ。やっぱり野球は素晴らしい!

 

 

 

 

 

 あっという間に放課後。先週はミケの件でバタバタしてたから、久し振りに早く帰れるぞと四宮に声をかけた。

 四宮は寂しかったと泣きべそをかく真似をした。こいつはなんとなく、リエルに似ているな。

 それから教室を出て、階段を下りて、下駄箱へ向かって……。

 『登場人物』たちと出会いさえしなければなんら変わらない日常だな、としみじみ思いつつ、俺は下駄箱を開けた。

 

 なんてデジャヴ?

 

 俺の汚い下駄箱には、やはり存在感を放つ手紙があった。

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