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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
3人目の主人公は人間ではないらしい
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 霊と対峙したリエルは、おやおやと苦笑を浮かべた。霊も霊でリエルの周りを興味深そうにぐるぐると回る。


「驚きましたね……。まさか霊族を手なずけてくるとは……」


 手なずけたわけではない。現に俺の言うことを聞かずに今も部屋を縦横無尽に飛び回って、鬱陶しいにも程がある。時刻は2時を回った。お前たちの人外談合が耳に入って眠れないんだが。


 霊は都合よく名前は覚えていた。といっても、苗字だけだが。


『ミケって呼ばれてたのは覚えてるんですけど……』


 三家? 御家? あまりなじみのない姓なので、とりあえずカタカナで思い浮かべた。 


 やがてリエルがドロンと消えると、部屋には俺とミケの2人が残った。


『2人きりに、なりましたね……』


 そう言うと、ミケは頬を赤くした。血が通っているのか、はたまた霊パワーで色彩を操っているのか。

 それを無視して電気を消す。アラームを5つセットし、目を閉じる。冷たい……、まるで氷を近くに置いているかのような冷え具合に目を開けると、ミケが俺の顔に息を吹きかけていた。何がしたいんだ? こいつは。


 眠気も吹き飛び、再び電気をつける。うれしそうに飛び回るミケを見て、俺は連れ帰ったことを心底後悔した。


「……それで、聞いてなかったけど、もしかして俺を探してたのか?」


 話疲れりゃ寝てくれるだろうと、俺は会話を切り出した。ミケと教室で対面したとき、こいつは確かに『見つけた』と呟いた。もしかして霊界では俺、有名人だったりしますか? もしくは指名手配犯か。

 ミケは飛び回るのをやめると、床に正座した。


『はい! 初めて見たときからあなたは特別な人間だと思ってました! だってあんな異世界にだって行けるのですから!』


 目を輝かせて語る彼女に、開いた口が塞がらなかった。『異世界』ですと? 俺が行ける異世界とはつまり『四次元半』のことだが、俺がその空間に行けることを知る者はリエルだけだ。早沢は夢オチで納得させたし、『四次元半』で赤坂とは会っていない。津川には大倉井の名を騙り、大倉井には本郷剛太郎を名乗った。

 俺はミケに尋ねた。


『えっと、実はわたし、少し前まであの空間に閉じ込められてて出ることが出来なかったんです。きっかけは男の子の魔法みたいな光に巻き込まれたことなんですけど……』


 津川か。駄目じゃないか、関係ない霊を巻き込んじゃ!


『それで元の世界に帰る方法を探していたとき……』


「俺を見つけた、と」


『あの空間で車が動いていたので、もしやと思いまして。それから後をつけたのですが、教室の掃除用具入れに入ったかと思えば、忽然と姿を消されたので……』

 

 文芸部員の前で羞恥を晒したあの瞬間が鮮明に浮かぶ。出来れば消し去りたい過去だな……。

 ふと、あの日の放課後に感じた視線を思い出す。


「もしかして、次に俺が入ってきたときもずっと俺の後を着いて来てた?」


 ミケは頷いて答えた。


『はい! 消えるトリックを探るべく、じっと見つめてました!』


 俺はため息をついた。あの視線は大倉井のものだと思っていたが、まさか見えざるストーカーのものだったとは。本当、こいつが怨霊じゃなくてよかった……。


『でも結局トリックは分からないままで、別の時に銀色の髪の女の子が作ってくれた光と一緒にこの世界に戻ってきたのです!』


 それは赤坂のことか。ちゃんとお礼を言っておいた方がいいぞ。何につけ込まれるか分からないからな。


 元気に言い終えると、ミケは一息ついてまた話し出す。

 元の世界に戻るとさっそく、俺と津川、赤坂に接触を試みたそうだ。だが津川赤坂の両名は霊が見えず、触れられず、声も聞こえない。改めて俺を探している途中、なんと意外な人物と接触できたらしい。


『ピンクの髪の女の子が、あなたを教えてくれたんです!』


 おいおい委員長、まさか君にはこの霊が見えるとでも言うのかね。ピンク髪のモブはいないと踏んでいたが、まさか今関わっている物語の主人公、委員長じゃないだろうな。霊感探偵的なタイトルで。


 ミケは言う。ピンクの人は霊感が強いらしく、水晶玉を用いてミケの尋ね人を言い当てた、と。

 もし俺が普通ならきっと委員長と距離をとるだろうが、残念なことに俺も世界も普通じゃない。だとすると委員長は隠れオカルトマニアキャラだったということか。もはやマニアではない、その道で飯を食っていける。


 それなら、ミケの未練探し、委員長に押し付けてもいいんちょ? 


 それにしても、どうして俺は『四次元半』でミケの存在に気が付かなかったのだろうか。俺は自室の扉を『右手』で開くと、ミケを連れて部屋の廊下に出た。

 ……いない。

 確かについてきたはずのミケの姿を確認することは出来なかった。一旦現実世界の自室に戻ると、自室から『四次元半』側の廊下を見る。


『む、無視しないでください!』


 頬を丸くして、ミケはプンスカ怒っていた。この違い、現実世界ではミケの姿や声を確認することは出来るが、『四次元半』ではその全てが不可能だった。しかし、なんとなくどこにいるという感覚はあった。

 果たして、今度は俺とミケの位置関係を入れ替えてみた。『四次元半』側の廊下から、現実世界の自室にいるミケはこれまた見えなかった。『四次元半』にはまだ、俺の知らないルールがあるようだ。


 ということで、ルールを仮で追加してみた。


仮⑦『四次元半』では幽霊は見えない。


仮⑧『四次元半』側から現実世界にいる幽霊は見えない。


仮⑨現実世界側から『四次元半』にいる幽霊は見える。


 疑問が1つ減り、1つ増えた。だが適度に体と脳を動かしたおかげで、俺の強靭な睡魔は霊の妨害活動をものともせず、僅か後に意識の底へ沈んだ。






 俺の強靭な睡魔は5つのアラームをものともしなかったらしい。9時を示す時計を見て、あの霊に塩をぶちかけようと、そう強く誓った。






 成仏させる過程か、成仏させた後か、あるいはこの霊の生前か。

 とにかく、ミケを成仏させることこそ3つ目の物語の鍵だと考えた俺は、霊勘を持つという委員長の手を借りることにした。俺を紹介したということは、俺がこの霊を見ることが出来る、ということも織り込み済みだろうから、特に説明も必要なかろう。あくまで『わたしも霊が見えるんです~』というスタンスで行く。『マスターキー』のことを話すつもりはない。話したところで信じてはもらえないだろうし。


 それともう1つ、やはり昨日生まれた『四次元半』で霊が見えなくなるという疑問、『物語』との関係性は薄いだろうが、喉につっかえた魚の骨のように、解決しないと気持ちが悪い。

 何をするかというと、委員長を『四次元半』へと誘い入れ、霊を見てもらうのだ。委員長にも見えなければ、『四次元半』の問題。委員長には見えたなら、俺自身の問題ということになる。もちろん『四次元半』の説明はしない。人気のない部室棟あたりの教室で、ひっそりこっそりと行うつもりだ。




 さて、今日の目標を決めながら電車に揺られているわけだが、寝坊してしまうとはなさけない! しかしもう遅刻は確定なので、最悪2時限目の始まりまでに学校に着けばいいや、とそれほど慌てもしなかった。自宅から駅、駅から学校までのいずれも早歩きで対応すれば、それも可能だった。


 


 電車から降りてせっせと足を動かす。時間内には着きそうだ、と角を曲がり、立ち止まった。

 マスク装備に咳、うっすらと出来たクマと、明らかに体調の悪そうな女子生徒がいた。早退したのか、学校とは逆方向、つまりこちらへと歩いてくる。しかし女子生徒は俺の姿を確認すると、気まずそうに表情を陰らせ、回れ右。再び学校方向へと歩き出した。


「ちょっと待てよ、早沢」

 

 早沢夕は立ち止まり、振り向く。

 何も体調が悪いときにまで避ける必要はないだろう。病人は一刻も早く家に帰って布団でぬくぬく眠るべきだ。病人にはその権利がある。

 やがて、早沢と合流した。


「早退か? 迎え、呼ばなかったのか?」


 早沢はしばらく俺を見つめると、咳を1つしてから答えた。


「親の勤務場所、どっちも遠いから……、心配かけたくないし……」


 しかし病人に対してこんなことを思うのもどうかと思うが、弱々しくしおらしい早沢はなんというか、どうにも俺の庇護欲を掻き立てるらしい。そもそも始めに彼女を見て『暴力系』に分類したのが間違っていたと気付く。早沢から小さい暴力も受けたことはなく、彼女のこれまでの行動や言動を振り返るに、『天邪鬼系』がぴったりくる。


 何度か言葉のキャッチボールをして、俺と早沢は別れた。そろそろ時間にも余裕がなくなってきたし、確か早沢の家はここからそう遠くない。歩いて3分程度か。心配はいらないだろう、そう考え数歩歩いたところで、ドサッと何かが倒れる音がした。


 ……願わくば2時限目が奇跡的に自習になりますように。

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