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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
2人目の主人公はポニーテールらしい
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 視線を右に動かすと、足の動きと連動して青いポニーテールとふくよかな胸が揺れていた。星倉七美は相変らず屈託のない笑顔で、肩を並べて歩いていた。端から見れば、登校時間を合わせて仲睦まじく歩くカップルに見えるだろう。もしくはそれだけ心を許し合う、歴の長い友人か。驚くことに、俺と星倉七美は今日まで一言の会話も交わしたことのない、紛れもなく赤の他人だったのだ。


 こんなはずではなかった、と俺は考える。あと1分でも家を出るのが遅いか早いかしていたら、彼女とこうして一緒に登校などしてはいなかっただろう。星倉七美は『登場人物』の1人、青い髪を見てすぐにそう判断した。俺の中の『普通』コンテンツに青い髪をカウントするわけにはいかないからだ。本当なら接触するつもりなどなかったのだが、あちら側からの接触は予想していなかった。


 だがそう悲観することもないだろう。過ぎてしまったことを後悔しても仕方がない。幸い、文芸部の4人の中でも星倉は一番主人公の可能性が低いと考えていたからだ。というより、男子生徒の存在を除けばあの部活で一番主人公らしい生徒は、金髪でツインテールの千々寺舞だろう。

 まず金髪とツインテールという組み合わせが、俺にそう考えさせていた。ダメ押しに資産家の令嬢ときたもんだ。これで主人公もしくはヒロインでないなら、無駄に練りこまれた設定の無駄遣いだ。

 仮に千々寺が主人公だとして、それならば他の女子生徒への接触は情報収集のためと捉えると、この状況も決して悪手ではない。むしろ千々寺に干渉しないで他の『登場人物』に接触することが出来てラッキーだとさえ思える。4人は部活動を共にしている。内、千々寺を含む3人は学年が一緒。こうして文芸部の1人と1対1で話すことが出来るのは、俺から動かない限りそうそう実現しないだろう。


「どうしたの?」


 星倉は俺の顔を覗き込んだ。そんなに不審な動きをしていただろうか。実際、昨日の段階での俺は、誰がどうみても制服を着た不審人物なのだが……。俺は至って冷静に返す。


「いや、どうして俺に声を掛けたんだろう、と思ってさ」


「ああ、昨日の件でわたしたちの間ではちょっとした有名人なんだよ? まさか掃除用具入れの中に入っているなんて思わなかったから」


「はは……」


 きっと耳まで赤くなっているだろう、俺はたまらず車道側に顔を逸らした。次いで星倉はねだるように俺を見つめた。


「それだけじゃないんだ……。部活、入ってないよね?」


 そう言って表情に影をおとす。俺はその言葉の真意を考えた。まさかとは思うが、文芸部への入部を頼まれたりはしないだろうか。もしくは星倉が文芸部と兼部しているという陸上部への誘いか。前者はまず入部する理由がない、後者も運動にそれほどの自信を持たない俺が、うんと頷くはずもないが。

 果たして、星倉は満を持して口を開いた。


「えっと、野球に興味ない?」


 思わず拍子抜けた。星倉の口から出てきた単語は、文芸でも陸上でもなく野球だったのだ。素人を集めて甲子園でも目指すつもりか? ワンフォーオールを掲げて土と汗にまみれるのか?

 俺は星倉に説明を求めた。


「わたしのお父さんが商店街チームの副キャプテンをやってるんだけど……、チームメイトの引越しで人数が足りなくなっちゃったの。だから学校で、『休みの日に文句も言わず参加してくれる』男子生徒を探して誘ってくれないか? って」


 つまり俺は『休みの日に文句も言わず参加してくれる』男子生徒に見えたわけか。何1つ間違ってはいないが、認めてしまうのも実に哀しい。そもそも俺を誘わなくたって、学校にはその条件にあった生徒はごまんといる。加えて、依頼主は星倉七美、彼女の容姿を持ってすれば、下心を丸出しに請け負ってくれる男ばかりだろう。

 その旨を伝えると、星倉は首を横に振った。


「昨日見たとき、この人しかいない、って思ったんだ」


 一体俺のどこに彼女の心を揺さぶる要素があったのか定かではないが、その情熱的な瞳を見続けていると不思議とその誘いに乗ってもよさそうな気がして、慌てて目を逸らした。そもそも今の俺にそんな暇はない。『主人公』の特定に追われる日々をふと思い出した。


 渋々諦めた雰囲気を醸す星倉は、けれども明らかに諦めてはいなかった。きっと彼女はしばらくこうして俺に付き纏うだろうと思うと、憂鬱の中に不思議と照れ臭さがあった。まずいな、あと2回でもエンカウントしたら、俺の休日の全てを捧げてしまいそうだ……。




 もう少し歩けば駅に着く辺りで、そうだ! と手を打った星倉は、通学バッグの中から何かを取出し俺に手渡した。受け取ると、額から鼻までを覆う形状の仮面だった。南国テイストのそれは、装着者を一瞬でカーニバルの舞踏者に変えてしまう。まさかリオへ飛んでいけということか? 使用の用途を尋ねると、星倉は胸を張って答える。


「2週間後の今日、夕の誕生日パーティーを開くんだ!みんな仮装してくるから、そのお面を被って来なよ!」


「お、俺が?」


 断じてお断りだ。

 夕、と聞いてすぐにその人物が思い浮かばなかったが、栗色ロングヘアーの生徒、早沢夕のことか。俺はあいつが苦手だ。明らかに『暴力系』じゃないか。それにみんなって誰だ? 文芸部4人以外にも俺の知らない輩が来るのか? そもそもほとんど初対面の男子生徒(更に不審者というステータス付加+因縁の相手)に祝われる誕生日などあってなるものか。そんなものは呪いだ。逆の立場なら思わずホロリと涙を流すだろう。

 愛想笑いで話を逸らすと、仮面をポケットに押し込んだ。


 さて、こうずっと彼女のターンでは、他愛のない世間話をしている間に学校へとついてしまう。電車に乗り、しばらく雑談に興じ、降りる。そして駅から学校までの道はずっと俺のターンだ。

 聞きたいことは1つ。千々寺についてだ。本人の性格から幼少の記録、趣味趣向に好きな食べ物、現在の恋愛事情から過去の恋愛事情までを根掘り葉掘り聞くつもりだった。


 しかし、千々寺の名前を出したとたん、星倉は、ははーん、と口角を上げ、ポケットからスマートフォンを取り出した。そして、嘲るように言った。


「そんなに気になるなら、舞の連絡先を教えてあげる!」


 かくして俺は、星倉と千々寺2人の連絡先を手に入れた。





 物語が急速に動き出したのは放課後のことだった。何気なしに校内を散策していた俺は、部室棟で赤坂と津川の怪しげな取引現場を目撃した……。取引に夢中になっていた俺は(自主規制)


 とにかく、2人して秘密の談合を行っていた赤坂と津川だったが、次の瞬間魔方陣が2人を中心に浮かび上がった、例によって魔方陣が消えたとき、そこに2人の姿はなかった。


 やれやれ、『マスターキー』が重要な現場にたまたま居合わさせてくれたのか、赤坂たちの人払いが未熟だったのか、いずれにせよ、目の前で消えられては追いかけずにはいられないだろう。


 俺はすぐさま走りだし、本校舎と部室棟を結ぶ扉を開け放って、『四次元半』へと移動した。誰もいない、誰の気配もない『四次元半』の校舎を俺は走る。『リベレート』である二人が『四次元半』へと移動したということは、魔族がどこかに現れたに違いない。

 そう思った直後、廊下の窓が一斉に割れた。本校舎の廊下側の窓は校庭に面している。意外と近かったな……。割れた窓の外、校庭を覗き込むようにして見ると、校庭には6つの影があった。


 赤坂と、津川と、魔族と魔族と魔族と魔族だ。


 無理ゲーじゃないすか! やだーーー!

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