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この世界には7人の主人公がいるらしい  作者: 藤峰男
2人目の主人公はポニーテールらしい
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 誰かいるのではないか、そう感じたのは、俺以外の生物はいないなはずの『四次元半』で、妙な視線を感じたからである。時刻は午後5時、放課後の校舎には夕日が差し、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。

 誰もいるはずはない。なぜならここは『四次元半』なのだから。他に誰かいるとすれば『リベレート』か、しかし周囲に魔族の姿はない。もしかすると、俺以外にも『四次元半』を利用した移動の裏技を実践している輩がいるのだろうか。卑怯なやつだ。


 感じる視線を気のせいだということで腑に落とし、俺は校舎を出た。玄関から校門までは直線で結ばれており、校門の目の前に停めた車がここからでも確認できる。よかった、何かの手違いで車が消えていたら、また説を練り直さなくてはならなかった。

 足早に校門へと向かう。車に乗り込もうと運転席側へ周り込んだとき、


「やあ、こんにちは」


 彼は車の陰からヌッと現れた。


 思わずビクリと体を震わせる。同じぐらいの背丈、歳は50代前後ぐらいか、ところどころ白髪の混じった髪をオールバックにまとめており、同じく白の混じった口ひげと顎ひげを蓄えた老人だった。特徴といえば、スーツの上からでもわかる、筋骨隆々の体躯だ。

 老人は極めて柔和な口調で言った。


「君はこの街の助太刀に来てくれた、海外勤務の方かい?」


 ややあって、老人の言葉に込められた意味を理解した。


「はい、シンガポールから来ました、本郷剛太郎です。よろしくお願いします」


 直ぐに適当な外国名、適当な名をあたかも自分の出身、氏名のように紹介してしまったことを後悔した。さて、とっさの嘘がばれた暁にはどのような結末が待っているのか、俺は老人の言葉を待った。しかし老人は特に指摘する様子もなく、ふむ、と唸った。


 そういえば、海外支部との連携がうまくいってなかった、と赤坂たちは言っていたな。


 『四次元半』にて行動しているところを、『リベレート』関係者に目撃されたことは迂闊だったが、不幸中の幸いなことに、ここは何とか乗り切れそうだ。

 老人は顎鬚を撫でつけながら、空いた右手を前に差し出す。


「よろしく、本郷君。わたしは『リベレート日本支部会長』大倉井重近だ。これから魔族討伐に励んでくれたまえ!」


「はい、こちらこそ……。えっと、なぜこの場所に」


 その筋肉質な手を握り返すと、俺は会長に問うた。


「散歩だよ。こうして、この空間の生まれ育った街を歩くのが好きなんだ。……本音を言うと、家に帰っても妻に雑用を押し付けられるだけだからね」


 そう言って、大倉井はガハハと笑った。

 俺は『リベレート』においての重要人物との接触に、後になって身を震わせた。




 上手いことを考えたね、と大倉井は俺の背中をバンと叩いた。ひりひりと痛む背中を擦りつつ、俺はへこへこと取り繕う。要するに、『四次元半』を移動に利用するのはこれきりにしろ、と暗に示しているのだろう。まさか練りに練った計画が一日でおじゃんになるとは、これも『マスターキー』によるものなのか。効果的な作戦は大抵失敗するものだ。


 大倉井はしばらくすると、そろそろ夕食の時間だ、と手を振った。俺は上司にするそれのように、深々と頭を下げた。まるで『リベレート』の一員になったような気分だ、強く首を振った。俺は普通だ、俺は普通だ、と数回唱える。


 やがて大倉井の姿が見えなくなると、俺は車に乗り込む。この帰路分くらいは許してくれるだろう。車帰宅の気分からでは、もう1分と歩いていられない。





 真面目に、徒歩電車徒歩と従来通りの通学方法を取ることにした俺は、やはりいつもどおりに目を覚まし、顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べ、歯を磨き(二度磨き)、登校の支度をする。準備が終わると、『左手』で扉を開けた。思えば、太陽の下を歩くのは1日ぶりだ。容赦なく照り付ける紫外線に、俺は項垂れながら足を進めた。

 普段と違うところといえば、登校中に声を掛けてくる生徒がいたことか。


「あ! 昨日の掃除用具入れの!」


 俺はその場を颯爽と立ち去っ……、失敗だ。袖を掴まれ、右手だけを置いていくまいと体が前につんのめり、止まった。掴まれる手を振り切って逃げてもよかったが、そういう暴力的な対応は俺のちんけなプライドが許さなかった。袖を掴まれた時点で俺の負けは決まっていたのだ。

 観念して、ゆっくりと振り向く。予想したとおりだ。文芸部の女子生徒の1人、青い髪をポニーテールに結んだ、星倉七美が爽やかな笑みを浮かべていた。

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