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並行世界で何やってんだ、俺  作者: s_stein
第九章 決戦・完結編
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雨中の決戦 その1

 カワカミはトラックの荷台に収容された。

 彼女の治療はアンドウ隊長が行った。俺も手伝った。

 一応トラックには医薬品を積んでいたので助かった。

 彼女がたまたま左胸のポケットにおやつ代わりに忍ばせた肉の燻製数枚の上からナイフが刺さっていた。そのおやつのおかげで深い傷ではなく、二、三日で回復するだろうとのことだった。

 捕虜となった女は、プイッと横を向いたまま言葉を発しなかった。


 女の襲撃の後は、目の前の敵に動きはない。

 副隊長の悪戯心が、意図せず敵のバイク部隊の全滅に繋がったのだが、出鼻をくじかれた敵は極度に警戒しているに違いない。

 タブレット上では、マークの数だけで見ると圧倒的不利な状況は続いている。

 味方の援護はない。

 この状況を敵が見たら今すぐにでも攻めてきそうなのだが、何故だか奇妙な睨み合いが続いていた。


 午後4時。昼過ぎまでは天気が良かったのだが、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

 このため、陽は落ちていないのだが、薄暗くなった。

 タブレットの画面は依然『待機』のままだ。

 俺は(しび)れを切らしてミカミに進言する。

「班長。いつまでもここにいるのは、敵の餌食です。身を隠せる場所まで後退しませんか?」

 彼女は疲れた表情で言う。

「でも、指示はここで待機なの」

「いや、おかしいですって。敵の大群が目の前にいるんですよ。夜になればきっと動きます。ここじゃ俺達は訓練所の的と同じです」

 ルイが加勢する。

「どう考えてもおかしいですわ。このシステムを設計した人、人間をロボットだと思っていません? 生身の体は鉄砲の弾をはじけませんわ」


 ミイが何か思い出したらしく、助言する。

「さ、さっき、て、適当なトイレの場所探しに行った時に穴があった」

「穴?」

「蛸壺ですの?」

「い、いや。よ、横に長い穴」

「それって、塹壕かも」

 ミイに案内されて穴の場所へ行くと、幅が3メートル、長さが20メートルほどの塹壕が3列あった。

 古い塹壕らしく、一部は崩れて土砂が埋まっている。

「ナイス、ミイさん」

「あ、ありがとう」

 二人でハイタッチをした。


 戻ってからミカミ班長とアンドウ隊長に進言すると、直ぐに許可が下りて、古い塹壕の方へトラックを移動した。

 敵に近い方の塹壕に俺達高校組六名、班長と副班長と他校二名の計四名はその後ろの塹壕、アンドウ隊長を含めた運転手達は一番後ろの塹壕に入った。

 カワカミはトラックの荷台の長椅子をベッド代わりにし、捕虜を見張っていた。

 彼女は時折捕虜の国の言葉で話しかけたりジョークを言っていたらしいが、一切口をきかなかったそうだ。


 午後5時。厚い雲のせいで薄暗くなった。

 俺は頭を出して後ろを振り返る。

「班長。敵はどうなっています?」

 ミカミが塹壕から顔を出す。

「何か動いているわよ」

 アンドウも塹壕から顔を出す。

「敵が近づいてきた! アンドロイド達の出動命令が出た! 準備するからまだ動かないで!」

 二人は頭を引っ込めた。

 俺は向き直って前方を見た。まだ敵は見えない。


 途中から雨が降り出した。

 コートを持ってきていなかったので、雨具はヘルメットだけである。

 寒くなってきた。不安も募った。

 そろそろアンドロイド達が全員トラックから降りる頃、遠くの方で紺色の人影が多数、地面から湧き出て来る。

 坂を上ってきたのだ。

 中腰の姿勢でユックリこちらに近づいている。

 ざっと五十人はいる。横一杯に広がっているらしい。

 もしアンドロイド達が間に合わなかったら、とてもじゃないけれど、あの人数相手の戦闘は絶望的だ。

 膝がガクガクする。拳銃を持つ手も震えが止まらない。

(アンドロイド急げ!)


 後ろでミカミが根を上げたような声で言う。

「ねえ、この意味分かんないんだけど」

「タブレットですか?」

「そう。変なのよ」

「はいはい、今行きますよ」

 体をねじって塹壕を出ようとすると、それまで肩を寄せ合うように左側にいたミキが俺の右腕をガシッと(つか)む。

「お願い! 行かないで!」

 俺は彼女の手を振り払って、「ちょっと見てくるだけ」と言って塹壕から身を乗り出す。


 後ろで複数の銃声がした。

 その途端、背中の真ん中が何かで抉られたような激痛が走り、背中から胸に向かってその何かが通り抜けたような感じがする。

(え???)

 息が止まった。

 ドスッと前のめりに倒れた。

 これは俺の意思ではない。

 胸と地面に挟まれた右手に温かい物がドクドクと流れる。

 悲鳴のような声が耳を叩くが、意識が遠のく。

 何を言っているか分からない。

「……」

 (うめ)き声すら出ない。

 電池が切れそうなロボットの如く力が抜けていく。

(ミキ……誰かが……死ぬって……俺?)

 瞼を閉じてもいないのに目の前がスウッと暗くなる。


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