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並行世界で何やってんだ、俺  作者: s_stein
第一章 プロローグ
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未来人、再び接触す

 翌日、頭が痛いので学校を休むことにした。

 妹が、学校に連絡してくれるという。

 妹が学校に出かけると、スッカラカンになっている自分の部屋にもう一度布団を広げ、ゴロリと横になった。

 未来人のこと、車にはねられたこと、病院のこと、サイトウ軍曹のこと、学校のこと。妹のこと。

 いろいろ考え事をしていると、突然、左手中指の指輪がブルブルと震えだした。

 俺はブルブルという振動から、なぜか指輪に向かって「はい! もしもし!」と叫んでしまった。

「電話かよ、おいおい」と一人突っ込みをしていると、指輪の向こうから「そうヨ、電話ヨこれ」という声がする。

 聞き覚えのある、未来人のオネエの声。

 思わず「はい! こちらマモル!」と叫んで立ち上がってしまった。


「やーネ。これ全部は壊れていないじゃないノ。通信機能が動いてよかったワ」

 こうして、指輪兼電話を通じて向こうの世界にいるオネエ声の未来人との交信が始まった。

 未来人は早口でしかも、一方的に難しい話やら近況をまくし立てる。

 黙って聞くしかなかったが、ほとんどの話が右から左に抜けた。


 いい加減飽きたので、指輪に口を近づけて話を遮った。

「あのー、状況がつかめないのですが」

 未来人はプンプン声で言う。

「だーかーらー、さっきも行ったように、あんたは並行世界に飛ばされたノ。分かる?」

「それは、全部ではないにしても、なんとか分かるんですが」

 未来人は、またもや早口でまくし立てる。

「複素平面の話は無視していいわヨ。どーせ、たとえ話で、本当の理屈じゃないんだから。だけど、ゴメンネ~。てか、ジュリちゃん、あんた謝んなさいヨ! あのネ~、肝心の装置がジュリちゃんの鉄拳で壊れちゃてネ~。痛っ! 何すんノ!……このようにお互い通信はできるんだけど、元の世界に戻れないノ。直るまでしばらくそこにいてネ。お願い! あ、電池がない! じゃあネ!!」


 一方的に電話を切られたので、そのまま立ちすくんでいた。

 でも、未来人の話から、ジュリもケンジも元の世界で元気でいること、この世界に飛ばされたのは俺だけであること、どんな装置か分からないがそれが修理できれば元に戻れることを聞いて安心し、座り込んだ。

 でも、よく考えると不安な要素がある。

 俺と交代した偽の俺を捕まえて、握手しながら装置を使わないと交代できない、つまり、俺が元の世界に戻れない。

 どうやら偽の俺は、警察の目をかいくぐって逃げ回っているらしい。これをどうすればよいか?

 うんうん唸って考えてもこちらから手を出せないので、諦めて眠ることにした。


 学校に復帰して7日目になった。

 確か学校に復帰したのは1日だったと思うから、今日は7日になる。

 未来人からの連絡はない。

 まだ修理に時間がかかっているのか、偽の俺が捕まらないのか。

 未来人からの連絡が待ち遠しい日々が続いていた。


 教室では、俺に対するイジメはなくなり、当たり障りのない会話で過ごしていた。

 まだまだ友達はいなかったが、敵対する相手もいなかった。

「何であそこで匍匐前進をしているんだ?」

 自習の時間に教室の窓の外をのぞきながら尋ねると、後ろの席にいた女生徒が「うちら、卒業すると軍隊に配属されるの。だから、今から訓練。在学中に後方支援部隊への協力もあるよ。結構きついよ」と教えてくれる。

「ふ~ん」

 そう言って、校庭に低く張られたネットの下で土埃の中を訓練する生徒達をまた眺めた。


 今度は「敵はどこまで攻めて来ているんだ?」と尋ねると、前の席にいた女生徒が「それは機密事項だけど、市内でテロがたまにあるくらいで、平和よ」と教えてくれる。

「ふ~ん」

 戦争もテロも身近で起きたことがないので実感はないが、それでも平和という意味が理解できなかった。

 俺は、はるか遠くの方で幾筋も煙が立ち上っているのを見ながら言った。

「あれで平和なんだ」

 あれはゴミを燃やす煙ではない。ゴミを燃やす時に爆発音はしないからだ。


 廊下を歩いていると、喧嘩が多い。

 血の気が多い奴らがたくさんいるのだろう。

 たまに面白い奴らもいる。

(コスプレか?)

 赤とか黄色とか緑とか、俺の世界よりカラフルに髪の毛を染めている女生徒がいる。

(似ていない双子か?)

 顔はあまり似ていないが、髪型や髪飾りが全く同じで背格好も同じな二人が腕を組みながら歩いている。

(本の虫か?)

 廊下のいつも決まった場所で本を立ち読みしていて、授業が始まっても動かない。

(小学生か?)

 130~140センチくらいの低い背で、その体の半分くらいの大きな人形を手に持ちながらチョコチョコと歩いている。

(お嬢様か?)

 縦ロールの髪型で扇子を手に4~5人引き連れて練り歩いている。こういう具合で、廊下での観察には飽きが来ない。


 だいたい状況が(つか)めてきたが、未来人が装置を修理して偽の俺が捕まれば、こんな世界ともおさらばだ。

 早く帰りたいという気持ちはもちろんあるが、慣れてくるとこの並行世界も少々名残惜しくなってきていた。


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