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並行世界で何やってんだ、俺  作者: s_stein
第四章 イヨ編
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いざ、出陣!

 翌日の午後、学校で壮行会のポスターの張り替え作業が行われていた。

 剥がされていない方を見ると以下の四名の名前があった。


  歪名画ミイ

  品華野ミキ

  品華野ミル

  身賀西イヨ


 イヨ以外は見たことがあるような気がする名前だが、どこでその名前を見たのか覚えていない。

 新しく張られる方を見ると以下の四名の名前があった。


  歪名画ミイ

  品華野ミキ

  品華野ミル

  鬼棘マモル


(いよいよ、か)

 俺はポスターを手でパンパンと叩いた。壮行会は明日である。


 当日の朝になった。

 妹は笑顔で送り出してくれた。

 悲しみを(こら)えているのは痛いほど分かる。

 任期は2ヶ月。それが妹にとって倍以上の長い時間に感じることも分かる。

 敬礼の真似でもしようかと思ったが、普段通りに「行ってきます」と言って玄関を出た。

 荷物は着替え等最低限である。妹はその荷物が入ったバッグに新しく買った中古の携帯電話を入れてくれた。電話帳登録は妹任せである。

 1ヶ月経つと3日の休暇が出るので、その時に連絡して、と妹は言う。

 ちなみに、赴任先では携帯電話のような電子機器は一時預かり名目で没収され、休暇と任期満了の際に返される。


 一時限目の授業を潰して、講堂に全校生徒と全職員が集められた。

 壮行会の始まりである。

 舞台の袖に俺達四名が集合した。他の三名は俺と目を合わさない。

 孤立している感じが半端なかった。


 女教頭が舞台の右側で司会進行をする。

 名前を呼ばれたので、俺達四名が袖から舞台の中央に出た。

 ライトが(まぶ)しくて熱い。

 俺が登場すると講堂内がザワザワしていた。


 全員一礼すると、舞台の左側に立つように言われた。

 お互いにどのくらい距離を置いてよいのか分からない。

 三人は、くっつかんばかりに距離を縮めて立った。俺は二人分の距離を置いて立った。

 痛い視線を感じた。全生徒がこちらを見ているようだ。

(それより、なんで俺達、椅子がないんだ? あいつら座っているのに)

 一番手前の奴なんか、足を広げてくつろいでいる。貧乏揺すりしている奴もいる。ガムか何か食っているのか、口をモグモグさせている奴もいる。扇子で扇いでいる奴もいる。自由な奴らだ。


 校長の長い話は退屈だった。

 激励の言葉は有り難いが、話はどんどん脱線するので何が言いたいのか分からず、眠くなる。

 それは講堂内の連中も同じだった。あくび、居眠り、おしゃべり、何でもありだ。

 それを見ているのも飽きたので、斜め上の天井をボーッと見て時間が過ぎるのを待っていた。


 次は生徒代表の挨拶だった。

 最初名前が紹介されたとき眠かったので何という名前かは聞き損ねたが、舞台の袖から大きな人形を手にした背の低い女生徒が出てきたのには心底驚いた。

(あの<小学生>が全校生徒代表!?)

 こういう場でも人形を持ち歩いて教師からお咎めなしとは恐れ入る。

 壇上ではさすがに人形を持ちながら話は出来ないだろうと思ったら、持ったまま話を始めた。

「全校生徒より贈る言葉!」

 全文暗記しているらしい。

 アニメの少女の声で淀みなく贈る言葉を読み上げる。ただただ呆気にとられるしかなかった。


 苦行のような壮行会がお開きになると、軍服なのかよく分からない濃い緑の服に着替えさせられた。

 あてがわれたヘルメットの裏側を見ると、丸い紐とヘルメットの内面との間に写真を挟めそうな隙間があったので、そこにマユリの写真を挟み込んだ。しっかり、テープで留めた。

 それから荷物を持って昇降口に向かった。後の三人は先に昇降口にいた。ここでも彼女らは目を合わせなかった。顔色がほんのり赤いような気もする。

(俺、何かしたっけ?)

 全く身に覚えがなく、先行きが不安である。


 校庭では、幌のかかった軍用トラック1台と小さな軍用車両が2台止まっていた。

 兵士も何人か立っている。

 今からこの軍用トラックに乗り込むのだ。

 近くまで教師達が見送りに来てくれた。それ以外、生徒の見送りも家族の見送りもない。

 荷台に足をかけようとすると後ろから、「よっ、君か。久しぶり」と聞き覚えのある女の低い声がして肩を叩かれた。

 声の方を振り向くと、軍服姿が決まったサイトウ軍曹だった。

 久しぶりの再会である。

 どこかの歌劇団の男役にいそうなキリッとした姿は健在だ。ただ、ちょっと左手を怪我しているらしく、包帯が巻かれていた。

 横にいる小柄な女兵士は、今までチラッと見ただけで今回初めて正面からジックリと見たが、甲高い声のカトウのはずだ。


 サイトウ軍曹は拳で俺の肩をグイッと押す。

「何やらかした?」

「いいえ、何も」

 彼女はニヤッと笑った。

「好き好んでこれに志願する奴はいないが」

「いいえ、志願しました」

「ほほう、それは頼もしい」

 カトウが甲高い声を上げる。

「軍曹! 出発の時間です!」

(この声、懐かしい~)

「よし!」

 そう言ってサイトウ軍曹は、トラックの後ろに待機していた軍用車両の助手席に颯爽と乗り込むと、「行くぞ!!」と号令をかけた。

 全車両のエンジンが唸る。

 俺は慌ててトラックの荷台に滑り込んだ。


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