偶然と運命
玄関を開ければそこは居間、という広々としたその一室で、彼らは、食事のあと話しをする時間をとった。
カイルがまだ、目的を果たせていないからだ。
彼女・・・シャナイアに、伝えないといけない大事なことがある。彼女は探しているアルタクティスの仲間の一人であり、別の言い方をすれば太陽神の成り代わりである。そして、救世主となる者にとって必要な存在。
赤い精霊石を身に着けていたシャナイアとは、そういう予感によって迂回路をとったことで出会えた。この村へは導かれて来たのだ・・・という運命を、カイルはますます感じた。
正直、ほかの者は、そのことをほとんど忘れていたが。なんせ、今日一日、いろいろあった・・・。
草色の絨毯の上には、木製の低いテーブル。そこに木綿のカバーで覆われた三人掛けのソファーが二脚置いてある。布地の色はベージュで、老夫婦の住まいらしい落ち着いた雰囲気がする内装だった。麻のカーテンをタッセルで留めている窓からは、鬱蒼と茂った森が見える。
レッドが絨毯に胡坐をかいたので、ほかの者はみな次々とソファに腰を下ろした。その時、エミリオがさりげなく気を利かせて、ミーアを隣に座らせていた。そして、その横にはギルが。よって向かいのソファには、自動的にシャナイアとカイル、そしてリューイが座っている。これで誰もが窮屈感なく寛げる。バランスがとれるだろうと、二人は配慮したのである。
ところで、ミーアの髪に関しては無理やり割り切るしかなく、レッドも、今はだいぶ冷静を取り戻している。だって、うろたえても伸びないものはしょうがない。
そのレッドの額は、この時、いつものように赤い布で隠されてはいなかった。カイルの血で汚れたそれは綺麗に洗濯され、今はベランダで夜風に吹かれている。
「ふうん・・・この宝石がねえ・・・。」
シャナイアは、左手首のブレスレットを目の前にかざして、そこに嵌め込まれている宝石を不思議そうに眺めた。そのワインレッドの精霊石には、太陽神アルスランサーの命により、使徒の精霊が宿ると説明されたばかりだ。それについて、今一緒にいる男たちが聞かされた話と同じ内容のことも。つまり、迫りくる大陸の終焉、そして、にわかには信じがたいアルタクティス伝説について。
するとシャナイアは、何の抵抗もなく、そんなカイルの話をあっさりと受け入れた。もともと疑うことも、深く考え込むことも悩むことも嫌いなので、言われたことは素直に真に受けるたちなのである。ただ、今回は実感が無いというのが、そうして平然としていられる理由の大半ではあった。
「でも太陽神って・・・確か男よね。女には女神がつきそうなものだと思うけど・・・さては惚れてくれたのかしら。」
冗談の口ぶりだ。
そんな彼女の気持ちを察した周りの男たちは、そりゃそうだろうと共感した。
「でもね、ギルは月の女神なんだよ。」
カイルがそう言って視線をふったところに、シャナイアも一緒に目を向けた。男でありながら色気を感じる彼ならばうなずける、と、シャナイアは思った。
「・・・なんだそうだ。」
一方のギルは、他人事のようにうなずいた。背凭れにどっぷりと寄りかかったまま。
「でもこれ、成り行きでたまたま助けたおばあさんが御礼にくれた物よ。」
「偶然と運命は紙一重だよ。あなたとそのお婆さんのめぐり合わせも、僕たちがこうして出会えたのも、運命なんだ。」
カイルは真剣な顔と力強い口調で、そう言った。