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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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イメージチェンジ


 その頃。


 二階でのそんな出来事などつゆ知らず、レッドとリューイ、そしてカイルは、食堂で仲間がそろうのを待っていた。大人数分の料理が並ぶそのテーブルについているのは、この三人だけである。寝台が二つある老夫婦の寝室を割り当てられたエミリオとギルは、シャナイアが呼びにくるまで、その部屋にいて静かにくつろいでいた。


 夫婦の部屋が空く理由は、これから会館で催される決まって夜通しの打ち上げがあるためだ。


 その夫人の方は、シャナイアと二人で客人・・・つまり一行のための御馳走を用意したあとは、すぐに出掛けてしまった。主人の姿は、一行がよばれた時にはすでになかった。しかし、それはもう打ち上げに行ってしまったという訳ではないらしい。夫人の話では、夫は、迎えに来た仲間と共に森へ向かったのだという。松明たいまつと、そして武器を手に取って。


「遅いな。あいつ呼びに行って、そのまま夢中になってやしないだろうな。」


 シャナイアは今、エミリオとギルの所に違いない・・・と踏んで、レッドはそう言った。それをカイルは〝話に〟という意味にとったが、レッドの方では〝二人に〟という意味。


 やがて、階段を ―― 一段ずつドタドタと ―― 下りてくる子供の足音が。段差の障害をゆっくりと突破してくるこの音は・・・と思っていると、それは軽やかなスキップに変わってやって来た。


「あ、来たみたいだよ。」

 カイルが言った。


 その気配に誰であるかは分かったので、レッドもリューイも「珍しく目覚めがいいな・・・。」と思いつつ、この食堂の入り口に目を向けていた。


 そして、間もなく現れたのは、底抜けに明るい笑顔の小柄こがらな・・・少年。


「ねえ、見て見て、ほらっ!」


 楽しそうにクルッと回ってみせた少年は、はじかれたように席を立ったレッドに飛びついた。


 レッドは顔面蒼白(そうはく)になった。少年ではない! これはミーアだ。悪夢だ ・・・!?


「なんてことに!」

「うわあ、可愛い。」


 心からそう言ったカイルの声が、悲鳴を上げたレッドの声と対照的に響いた。


 そこへ、あとから悠長に下りてきたシャナイアの登場となり、取り乱さずにはいられないレッドの矛先ほこさきは、たちまちシャナイアに向けられた。おおよそ察しはついていた。


「シャーッ! きさま、バカヤロウ!」


「ちょっと、シャーッて何よ⁉」


「おまっ、分かってんのか!」


「いいじゃない髪くらい。」


「くらいだあ ⁉ いいか、国の高位貴族のお嬢様にとって・・・髪型ってのは・・・たぶん・・・きっと、すごく重要なことなんだ(と思う)! それを勝手にこんな・・・こんなに短く・・・。」


「だって、まだ()()気ないんでしょ。」


「だからって・・・!」


 肩の下まであった髪はばっさりと無くなり、ミーアはいきなりショートヘアーになっていたのである。だが、横の髪がふわりと耳にかかるよう少し残して、顔に対して大きな両耳がそこからのぞいているのが愛くるしい。ミーアは男の子みたいにと頼んだが、シャナイアが女の子らしさをそこなわないよう気を使ったのだ。レッドもこれなら可愛さにやられて許すだろうと。


「何てこった・・・何て・・・。」


 レッドは力無くつぶやいて、呆然とした。元通りになるまで、いったい何日かかるだろう。こうなっては、選択の余地なく、いよいよ連れて帰れやしなくなっちまった・・・。


「いいじゃないか、レッド。ほら、可愛いし。」


 そんなレッドをいい加減になだめたリューイの手は、その怒鳴り声に、急にしゅんとなったミーアの手を引き寄せている。そもそもリューイには、レッドのその慌てふためきようの訳がさっぱりだ。


「なんだ、ずいぶん仲がいい・・・。」

 この騒ぎを茶化しに下りてきたギルは、開けっ放しの入り口を潜るなり、後ろにいるエミリオを面白そうに振り返った。

「あは、驚いた。見てみろよ、可愛い坊やがいるぜ。」


「ミーアなのか、これは本当に愛らしいな。」


 エミリオまでもがそう暢気のんき相好そうごうを崩したのを見ると、瞬間、レッドは眩暈めまいを引き起こしそうになった。


 レッドは、リューイのそばで悲しそうに見上げてくるミーアの目を見た。


 レッドに恋しちゃった・・・わけではないものの、今のレッドは、ミーアにとって兄や父親のような存在。ミーアの方では、髪を切れば正体を誤魔化ごまかせるし、「なかなかイイ感じじゃない。」と気に入っていたので、無邪気に何かめ言葉をかけてくれるものと、楽しみにしていたのである。 


 それを、レッドも分かっていた。


「いや・・・可愛い・・・けど・・・。」


 困る! と、最後にはっきりそう言えず、口籠くちごもったレッドは、やがて観念したように深々と息を吐き出した。

 

「ああ、よく似合ってる・・・。」







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