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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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その夜

 一行はその夜、村の片隅にあるシャナイアの親戚しんせきの家に招かれた。石材と木材で造られた二階建てで、裏手のすぐそこには、南へと広がる広大な森への小道がのびている。


 息子が巣立ち、娘がとついだために、この家には老夫婦が二人きりで住んでいた。そしてこの滞在期間中は、空いた長女の部屋をシャナイアが使っている。


 重量挙げの競技の時も、そのあとの騒動の時も眠っていたミーアは、ここへ来てからは、その部屋のベッドに寝かされていた。


 歓声にも悲鳴にも起こされなかったミーアに、昼下がりまでお手伝いをしてくれていたので、そのせいかしら・・・とシャナイアは考えたが、思い出されるのは、少しも疲れた様子など見せず、楽しそうに愛嬌あいきょうを振り撒いている姿ばかりだった。


 一方、とっくに目覚めているミーアの方は、起きて早速さっそく見つけてしまったドレッサーの前に座っていた。そして、あることを思いついて、鏡に映っている自分と真剣ににらめっこ。そうしながら、両手で掻き上げたり束ねたりと髪をいじっているところに、ドアが開く音がして、鏡の中にシャナイアが現れた。


「どうしたの?色気づいちゃって。」シャナイアは目を細めてからかった。「レッドに恋でもしちゃった?」


 するとミーアは、鏡の中のシャナイアに言った。

「髪を切りたいの。」と。


「え? 切るって・・・どれくらい?」


「ばっさり。男の子みたいに。」

 ミーアは振り返って、シャナイアをじっと見つめる。

「ねえシャーナ、切ってくれない?」


 まだ幼いミーアはシャナイアと上手く発音できず、いきなりシャーナと呼んでいた。それがとても可愛らしいので、自分の名前を気に入っているシャナイアでも、ミーアにそう呼ばれる時は思わず口元がゆるんでしまう。


「怒られるわよお。」

「誰に?」

「レッドによ。」

「なんで?」

「なぜって・・・。」


 シャナイアは、つい先ほど真実を聞いてきたばかりだった。ミーアの素性と、今に至った訳云々(うんぬん)の。カイルからシャナイアが仲間だと知らされたレッドが、あとでややこしいことになる前にと、もう半分どうでもよくなって打ち明けたのだ。それにレッドは、シャナイアのことをいい加減な女だと思っているわけではない。むしろ本心では、彼女の内面を高く評価している。


 しかし、それとこれとは別問題。シャナイアは小声でうなりながら少し考えたものの、結局は、ちょっとした悪戯いたずら心の方が勝ってしまった。


 シャナイアは、レッドの顔を思い浮かべてクスリと笑った。


「いいわ、切ってあげる。」


 ドレッサーに近づいたシャナイアは、ミーアの両肩に手を置いた。そして、嬉しそうに鏡に向き直ったミーアに、鏡を通してにっこりとほほ笑みかけた。







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