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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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実力の差


「くそう・・・。」

 ブルグはえ果てた腰に手をやりながら、よろよろと避難した。


 そこへ、観衆の輪の中から颯爽さっそうと進み出てきた若者がいた。ジュリアスである。


「よお、ブルグ。久しぶり。」と、すれ違いざまにジュリアスは軽い声で言った。


「ジュリアス・・・⁉」

 ブルグはバツの悪そうな目を向ける。


「とんだ醜態しゅうたいだな、ご愁傷しゅうしょうさま。」

 ジュリアスは面白くて仕方が無いというようにその言葉をかけたあと、レッドを見た。

「手はいらないか。」


「いや、殺すつもりはないから時間がかかる。おどしかけるのを手伝ってくれ。」


「了解、リーダー。」


 一方、観衆の中でこの様子を見守っているエミリオは、落ち着かずにいた。れている足に少し力を入れてみる。ズキ・・・と痛みが走った。エミリオはため息をついて、ギルを見た。


「加勢・・・しなくていいのか。」


 ギルは苦笑しながら、抱いているミーアの背中を軽く二度叩いてみせる。

「このお嬢ちゃんのおかげで、すでに乗り遅れちまった・・・。」 


 盗賊は十一人。うち一人は親分である。そのベクターは腕組みをして、後ろへ下がった。


 レッドとリューイは横目に注意を促し合い、互いの間隔をゆっくりと空けていく。


「あの坊やは無防備じゃないのか? 離れてたらマズいだろ。」

 ジュリアスがあわてて言った。


「あいつの取りは怪力だけじゃない。ヤツに近付けば怪我するぞ。」


 それを聞いたジュリアスは、怪訝けげんそうな目を向けながらもレッドの方についた。


 二人の剣士は背中合わせになった。


「リューイ、分かってるな。」と、レッドは声を張り上げる。もう通じるはずだ。できれば殺さないでくれ、ということ。


 すると、周囲をぐるりと見まわしたリューイは、仕方が無いな・・・と手を挙げて応じた。


「気をつけるよ。」

 うっかりしないように、ということ。


 一味いちみの方では、仲間うちで軽い相談がなされていた。そして、一見、丸腰に見えるリューイは四人に、そして、あとの六人にレッドとジュリアスは包囲された。


 見物しようという親分以外は、次々と武器を手に取った。レッドもジュリアスも片手剣の使い手なので、ほとんどが今は同じ長剣を握り締めている。


 場内は水をうったようになり、そこへ肌寒い一陣いちじんの風が吹き抜けた。


 ザッ・・・


っちまえ!」


 離れたところから親分の命令が下った。血の気の多い何人ものならず者が、一斉におどりかかる。


「ヤロウッ!」


 ぶつかり合う剣戟けんげきの音。耳の底まで響くようなその金属音は、レッドとジュリアスの方からだけ聞こえてくるものだ。武器といえば、リューイは左腕に小型のナイフしか忍ばせていない。それは護身用ですらない。普段は、果物の皮を剥くなどできるという利便性から持ち歩いているだけである。


 四方から次々と襲いくる。それをリューイは、右に左にやすやすと避けていた。時にはバク転で敵から離れ、広い場所へ誘いこんで、豪快な飛び蹴りや回し蹴りをしかける。全身がバネのように動く体は、非常に軽やかで素早く、しかも力強い。


 頭から振り下ろされた剣をサッとかわすと、前屈まえかがみになったその男に膝蹴ひざげりを食らわせた。間髪入れずに、次の襲撃。身をひるがえしながらけたリューイは、相手の顔面にそのままバックスピン・エルボを突き入れた。


「ぐあっ!」

「うっ!」


 リューイに襲いかかった二人は、どちらも激痛のせいでうずくまった。しばらくは、やられた部位を押さえて苦しそうにうめいていただけだったが、リューイがかなりの手加減をしているため、やがて二人共へなへなと立ち上がった。そして再び武器を構えた。今度はじゅうぶんに警戒しつつ、だ。


 その間にもリューイはほかを相手にしている。いち早く攻撃を察知して、またもバックスピンからのハイキック。相手の首にまで真っ直ぐに届いた足は、倒れていく体を追うようにして引っ込められた。頸椎けいついをも折りかねない強烈なりだが、これもじゅうぶんな手抜きをしている。


 リューイは、超人的な瞬発力と共に、いさぎよい即決力を持っている。相手の動きが手に取るように分かる。神経がえ渡り、意図いとせずとも手足が効率よく動く。感覚が機敏きびんに働く、敏感びんかんに反応する・・・。判断の的確さに欠けるだけで、戦いにおいては、リューイは身につけた力や技以上に才能にあふれていた。

 

「驚いたな。素手でありながら、なんて攻撃力。」


「バカ力に加えて、やはりとんでもない身体能力だぞ、あの男。」


 驚きを声にすることは滅多めったに無いエミリオと、ギルも思わずそう驚嘆きょうたんした。二人は、森の中で小刻こきざみに奮闘していたリューイしか知らなかったのだから。


 適当な間隔を置いて背中合わせになっているレッドとジュリアスは、どちらかが不意に飛び退いたとしても、抜群の反射神経で俊敏しゅんびんに対応することができる。絶妙の連携攻撃・・・ではなく、連携防御(ぼうぎょ)で、圧倒的な実力の差を見せつけている。それは、まるで背中にも目があるよう。


 一方、見ているだけの親分の表情は、みるみる苦虫を噛み潰したような、しかめっ面になっていった。全く本気を出していないレッドだが、最初その言葉をあなどったと後悔したのを始めに、リューイとジュリアスの強さをも思い知らされた、今・・・。


 ベクターは、対策を練り始めた。






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