予想外・・・
「ねえ、これ最後は300キロ超えのバーベルですって。ま、そこまでやったことって、ないらしいけど・・・。」
そばの人から聞いたらしく、シャナイアの口調は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりだ。
「できるわけないじゃないの、ねえ。」
「どうかな。」と、そんなシャナイアに、エミリオは意味深な微笑を向けた。今朝の事故を思い出し、負傷した足を見下ろして。
出番の出場者以外は、ほかの者の実力もじゅうぶんに知ることができる、少し後ろで待機している。失格になると即退場なので、次第にその数は減っていく。
ブルグが一歩動いてリューイに近づき、「どうやら逃げ出さなかったようだな。」と、頭の上から囁きかけた。
リューイはため息をつくと、「あんたと約束したから。」と、そっけなく答えた。
ブルグは鼻で笑った。そしてニヤニヤしながら元の位置に戻った。
手始めに、ぶ厚い板が準備された。それは、両端だけを支える架台の上に横たわっていた。また、会場の片隅には、ほかにこの競技に使われる岩や煉瓦が並んでいる。そこには準備係の男も六人。どの男も出場すればいいのにと言ってあげたくもなる、腕っ節の強そうな顔つきと体格をしている。なんせ、のちに使われる岩石は、いちばん小さいものでもおよそ100キロの重量があるという。
そして煉瓦は、一般的には粘土を成形して焼き固めたり、日干しして作られる建築材料。それを競技用のサイズで特別に作られたものだ。それなりに腕や拳を鍛えて訓練していることが前提だが、実は、板も煉瓦もコツで割ることができる。ただ、成功した瞬間は見栄えがいい。何も知らない者、特に子供たちにとっては感動の瞬間となり、興奮を誘い、会場が盛り上がる。最初はそのための余興プログラムで、関係者や常連の出場者のあいだでは、本番は重量挙げからと認識されていた。
それを当然知っているブルグは、初参戦であるはずのリューイの反応を楽しみにしていた。特に煉瓦は、未経験者にとっては、少しは怯えるほどの迫力はある。そう思っていた。
速やかに一人ずつ位置につき、分厚い板数枚を、全員が難なく叩き割った。最初はいつも、やはり全員が瞬く間に出番を終わらせてしまう。この時点で脱落した者などかつていない。
しかし、ブルグにとっては少し予想外だった。リューもまた、これをずいぶん簡単に終わらせたことが。武術をやっている・・・というのは、どうやら趣味の範囲ではなく本格的にらしい。構えと腕の繰り出し方が見事にさまになっていたからだ。攻撃の仕方、対象を体で破壊する ―― 打ち負かす ―― 技を体得している、そういう動きだった。それに、ヤツの表情・・・。
リューイはその時、異様に涼しげな顔をしていた。無理をしているようには見えないどころか、全く問題にしていないといったふうだった。
実際、リューイの表情は一向に沈んだままである。
それでブルグは、そんなリューイの横顔をまじまじと眺めているうち、すっかり平常心を取り戻した。
ブルグはまたリューイに近寄り、「少しはできるようだな。」と声をかけた。
リューイは相変わらずやる気のない様子で、ただ面倒臭そうな顔の背け方をした。虚しさは募る一方だった。
ブルグはふんと鼻を鳴らすと、「どこまでやれるか見ものだ。」と言いながら離れた。