表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
85/587

予想外・・・


「ねえ、これ最後は300キロ超えのバーベルですって。ま、そこまでやったことって、ないらしいけど・・・。」

 そばの人から聞いたらしく、シャナイアの口調は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりだ。

「できるわけないじゃないの、ねえ。」


「どうかな。」と、そんなシャナイアに、エミリオは意味深な微笑を向けた。今朝の事故を思い出し、負傷した足を見下ろして。


 出番の出場者以外は、ほかの者の実力もじゅうぶんに知ることができる、少し後ろで待機している。失格になると即退場なので、次第にその数は減っていく。


 ブルグが一歩動いてリューイに近づき、「どうやら逃げ出さなかったようだな。」と、頭の上からささやきかけた。


 リューイはため息をつくと、「あんたと約束したから。」と、そっけなく答えた。


 ブルグは鼻で笑った。そしてニヤニヤしながら元の位置に戻った。


 手始めに、ぶ厚い板が準備された。それは、両端だけを支える架台かだいの上に横たわっていた。また、会場の片隅には、ほかにこの競技に使われる岩や煉瓦れんがが並んでいる。そこには準備係の男も六人。どの男も出場すればいいのにと言ってあげたくもなる、腕っ節の強そうな顔つきと体格をしている。なんせ、のちに使われる岩石は、いちばん小さいものでもおよそ100キロの重量があるという。


 そして煉瓦れんがは、一般的には粘土ねんどを成形して焼き固めたり、日干しして作られる建築材料。それを競技用のサイズで特別に作られたものだ。それなりに腕やこぶしを鍛えて訓練していることが前提だが、実は、板も煉瓦もコツで割ることができる。ただ、成功した瞬間は見栄えがいい。何も知らない者、特に子供たちにとっては感動の瞬間となり、興奮を誘い、会場が盛り上がる。最初はそのための余興プログラムで、関係者や常連の出場者のあいだでは、本番は重量挙げからと認識されていた。


 それを当然知っているブルグは、初参戦であるはずのリューイの反応を楽しみにしていた。特に煉瓦は、未経験者にとっては、少しはおびえるほどの迫力はある。そう思っていた。


 すみやかに一人ずつ位置につき、分厚い板数枚を、全員が難なく叩き割った。最初はいつも、やはり全員が瞬く間に出番を終わらせてしまう。この時点で脱落した者などかつていない。


 しかし、ブルグにとっては少し予想外だった。リューもまた、これをずいぶん簡単に終わらせたことが。武術をやっている・・・というのは、どうやら趣味の範囲ではなく本格的にらしい。構えと腕の繰り出し方が見事にさまになっていたからだ。攻撃の仕方、対象を体で破壊する ―― 打ち負かす ―― 技を体得している、そういう動きだった。それに、ヤツの表情・・・。


 リューイはその時、異様に涼しげな顔をしていた。無理をしているようには見えないどころか、全く問題にしていないといったふうだった。


 実際、リューイの表情は一向に沈んだままである。


 それでブルグは、そんなリューイの横顔をまじまじと眺めているうち、すっかり平常心を取り戻した。


 ブルグはまたリューイに近寄り、「少しはできるようだな。」と声をかけた。


 リューイは相変わらずやる気のない様子で、ただ面倒臭めんどうくさそうな顔のそむけ方をした。むなしさはつのる一方だった。


 ブルグはふんと鼻を鳴らすと、「どこまでやれるか見ものだ。」と言いながら離れた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ