無気力な対戦者
「落とし前をつけさせてもらう。」と言われ、それに受けてたつという意味の返事をしたリューイは、ただ進行係に言われるままに動いて、競技の意図がいまいち呑み込めないままに、その力自慢大会の舞台に立っていた。
力自慢大会。それは、出された板や煉瓦を叩き割り、岩をくくりつけたバーベルを持ち上げてみせる競技。弓術や剣術より地味に見えても、それは祭りの最後を飾るトリでもある。だいぶ日が落ちて暗くなりかけている会場内には、いくつもの照明用のランプと、演出のためのかがり火がすでにセットされていた。
出場者を挟むように置いてあるかがり火の炎が、間に佇んでいるリューイの浮かない顔を照らし出している。
実は困ったことに、リューイは、出場する前から次第に虚しくなってきていた。そして今は、全く乗り気がしない。改めて考えてみれば、相手がつまらない男だから・・・。
そのつまらない男はリューイのすぐ隣に立っていたが、その男ブルグの面上には、面白くて仕方が無いといった不適な笑みが浮かんでいる。元気が無くうな垂れているようにも見える、対戦者の金髪青年に横目を向けながら。
だが、そんなリューイの心境とは裏腹に、集まった観衆はみな彼に期待していた。ただその期待は、覇者を打ち負かすかもしれないというものではなく、あの恐れ知らずな美青年がどこまで太刀打ちできるかというものだった。
その見物人のほとんどは、地元の村人だ。ほかの地域から競技に参加するためだけにやってきた者 ―― ことに剣術の競技目的で集まった戦士たち ―― の多くが、今夜の寝床を求めてすでに旅立っていたり、宿泊施設が多くある町の方へと去って行ったからである。
リューイは目立っていた。それは、場違いとも言えた。参加者のどの男も2メートル近いかそれ以上の大男で、どっしりとした大柄な ―― 太っている ―― 者ばかりが集まっている中、身長180センチに満たないリューイは、均整のとれた体つきで、ほかの出場者と比べて何よりも幅が無い。屈強の戦士であったブルグも、その頃の体形から大きな崩れはないものの2メートル以上ある大男だ。だが、ほかの出場者から見れば細身であるリューイのその身体には、実は贅肉というものがほとんどない。
高身長の男が三人と、それにシャナイアも並みの男性ほど背丈があるので、一行は後ろの観衆に気が引けるとは思いながらも、最前列にいた。カイルだけが見当たらない・・・。ミーアは、もろい硝子細工でも抱えるようにギルに抱っこされて、深い眠りに落ちている。この少女は誰の腕の中でも背中でも、所構わずよく眠った。いくら本人は大人びているつもりでも、所詮はまだ四歳の幼子。ミーアはいつでも遠慮なく誰かに甘えて、昼寝の時間を堪能した。
「カイルはどうした。」
ミーアをそっと持ち直しながら、ギルがふと気付いてきいた。
「ああ、あいつはすぐそこで診療所開いてるよ。」レッドが答えた。「さっきの剣術の試合で、負傷した奴らの治療を手伝ってたから、あいつが霊能力を持ってる医者であるのが知られてさ。子供の具合が良くないから診てくれって女性がやってきて、そのあと、ここぞとばかりに人が押しかけてきたんだ。あいつ、金取らないうえに腕はいいわ、触診ってヤツだけで簡単に診断できるわで、どんどん人が増えるんだよ。たぶんここの村の人、体調に気になるところがあるくせに、医者にかかるのしぶってたんだぜ。」
「へえ。いいヤツだな・・・。」
「ああ。あいつ普段はちょっと抜けてるけど、本物の名医だ。」
初めカイルのことが胡散臭くてならなかったレッドは、あとの部分をより強調してそう教えた。