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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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太陽神に成り代わる者

「ギル、ここにいたのか。」


 今度は、安堵あんどともあきれともつかないため息混じりな声・・・エミリオだ。


 ギルは、聞き慣れたその声が右手から聞こえたとたん、武器屋の店主に気付いた時よりも苦い表情を浮かべた。


「すまん。」


 ギルが素直に謝りながら見てみると、やはり呆れ顔をそろえた仲間たちがそこにいた・・・と思ったのはつかの間で、レッドだけは、どうしたのか目を丸くしている。


 すると、ギルの隣で彼女が歓声を上げた。


「レッド、やだ久しぶり!」


 周りの者は驚いて、二人に注目。いきなり足をはずませた彼女が、ためらいもなくレッドに抱きついていったから。


「あっ⁉ ちがっ・・・!」


 彼女は首に両腕を回してきて、遠慮なくのしかかってくる。その体を、レッドはとっさに受け止めたままでいた。


「知り合い? 綺麗なお嬢さん。」


「まあね、ハンサムなお兄さん。」


「昔の恋人・・・とか?」


「いいえ、違うわ。」

 彼女は悪戯いたずらっぽく微笑んだ。

「面白いのよ、《《この子》》。こんなふうにからかうと。」


 レッドはうらめしそうに彼女をにらんだ。


 そんな視線も気にならない様子で、彼女はレッドの胸をこ突きながら囁きかける。

「ちょっと、この人たち知り合い? あなた以外みんな美形じゃない。」


 これにはレッドも同感だ。


「俺だけ場違いなんだよ。」


 一方、エミリオは、そんな彼女を見た瞬間から、内心胸を突かれていた。ふだん表情が少ないエミリオが至って冷静なままでいるので、そのことには誰も気付かなかった。しかしエミリオは、そのせいでしばらく我を忘れていたほどだ。


 なんと彼女は、全身にほのかな青白い光をまとっているのだから。


 霊能力があること、特別なオーラが見えることを、仲間たちにもう打ち開けていたエミリオは、カイルの頭の上からそっと言った。


「彼女だ・・・。」と。


「え・・・。」


「見える・・・。」


 その意味を、カイルは瞬時に理解した。


「せ、精霊石持ってるかな、見てくるっ。」


「驚かさないように。」

 エミリオは慌てて言った。


 だが、わざわざ近付かなくとも、目をらすだけでそれはすぐに確認できた。袖の下で見え隠れしている金のブレスレット。そこに嵌め込まれている情熱的なワインレッドの宝石が、まるでここだよと教えてくれているかのように、力強い光を放っている。


 そこに、太陽神アルスランサーがいた。


 カイルは満面の笑顔でレッドを見た。

「ねえ、彼女を紹介してよ。」


「ああ、こいつはシャナイア。」


 綺麗な名前だ・・・。ギルの目に、彼女はますます魅力的に映った。

「顔に似合う美しい名前だね。」


 ついレッドが横やりを入れる。

「中身は合ってないけどな。」と。そして、彼女が着ている軽やかな衣装を眺めながら、ぶっきらぼうに続けた。「こんな可愛らしい格好をしているが、戦士だ。おっかない女だ。」


 なんせ、彼女は大男をノックアウトした。レトラビア王国での任務中に。※


「ちょっと、少しはまともに紹介できないの⁉」


 思わず声をあらげてしまった彼女 一一 一一 シャナイアは、すぐさまおしとやかに振舞う。 


「シャナイア・セランです。踊り子で女戦士なの。でも、しばらく戦場には出ていないわ。《《この子》》たちとレトラビアの仕事を組んでからずっと。」


 ギルはおかしくて仕方がなかった。この凄腕すごうでの一流剣士が、さっきから完全に子供扱いされているとは。


「ところでシャナイア、お前、故郷はテラローズって言ってなかったか。わざわざここまで踊りにきたのか。」


「ここに親戚が住んでるの。このお祭りに合わせて遊びにきただけよ。」


「また・・・戦場に行く気はあるのか。」


「考えてるところなの。ちょっと・・・トラウマになっちゃって。」


 それをシャナイアは、伏し目で呟くように言った。


 なぜかを、レッドは知っている。レトラビアの戦場で、彼女の後輩が戦死したのである。彼女をかばったために。彼女は腕もよく精神的にもたくましい女性だが、その時はひどく取り乱した姿を、レッドは見ていた。彼女は、戦士には向いていない・・・と、レッドは思ったものだった。※


「似合うな、それ。」


 シャナイアは顔を上げ、なぐさめるような微笑みを浮かべているレッドを見た。


「戦闘服より。」


 「もう戦うなよ…。」と言われた気がした。なんの魂胆もなく、こういうことを言ったりやったりするのだ、このレドリー・カーフェイという男は。シャナイアはため息をついた。自身は、レッドにはっきりとした恋心を抱くまでには至らなかったが、後輩たちにはそういう意味でモテていたし、彼のそんな魅力にほかの隊員もすぐに気づいたようだった。※


 その時のことを思い出しながら、シャナイアは明るい笑顔を見せて言った。

「当然でしょ! 戦闘服の方が似合うなんて言ったら容赦しないわよ。ところで、スエヴィは?」


「あいつは故郷で休暇中。」


「そうだ、ジュリアスと、あのブルグも来てたわよ。ブルグったらえらそうに馬なんかに乗っちゃって、傍若ぼうじゃく無人にこの人込みの中を横断して行ったわ。なんでも貴族のお嬢様をものにしたんですって。どこの物好ものずきかしら。」


「ああ・・・あいつ。」


 そうして個人的な会話を交わし合った二人の脳裏に、レトラビア王国での任務の様相が浮かび上がった。その男がもたらした呆れ返る思い出と共に。※





 ※『アルタクティスzero』 ―― 「外伝3 レトラビアの傭兵」







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