祭りの日
その村は、町の繁華街のような賑わいをみせていた。イオという村である。確かに森のそばにある緑豊かな土地で、高層住宅は見受けられず、一軒家ばかりというのどかな景観だが、民家から離れた広々とした場所は、どういうわけか多種多様の人々でごった返していた。喧噪に包まれているそこは、立ち並ぶ露店によって囲いがされてある大きな会場となっていた。
今日は、この村にとって由緒ある祭りの日だったのだ。
一行は、第一会場と書かれてある華やかに飾られたゲートを通る時、この大祭の入場料を払わされてしまった。また、露店を出せば桁違いの出店料が必要になるという。だが、ひと儲けできる見込みはじゅうぶんにあるとの話だった。聞けば、別の第二会場で催される競技の賞金になるのだとか。それで各地から様々なタイプの人間が集まってきていたのかと納得した。
一行は興味本位で料金を払い、露店が立ち並ぶお祭り騒ぎのこの村の中を、買い物がてら見て回ることにした。消耗した旅の必需品も手に入るかもしれない。
妙に足元を気にしながら歩くエミリオの歩調が、やや不自然だった。その右足首は包帯でしっかりと固定されてある。
実は、峡谷を抜ける矢先のこと。一行は不運にも落石に出くわしてきたのである。しかし、実際にその的になっていたのは、先を歩いていたカイルとミーアだった。そして、あとの四人が気付いて一斉にスタートダッシュした結果、レッドがミーアを、そしてエミリオがカイルを助けることになった。
一方、リューイは、はなからその二人を避難させることを考えてはいなかった。リューイの頭には、ミーアでもカイルでもなく、勢いを増して向かってくる落石を受け止めることしかなかったのである。
それを見たギルは仰天して、リューイに馬鹿なことを止めさせようとした。だが、そんな暇は無かった。全てが一瞬の出来事だった。レッドがミーアを抱えて逃れ、エミリオがカイルに飛びつき、そして・・・あわやというところで、リューイがその落石を食い止めたのだ。そして勢いに押されたリューイは、すくい上げるようにして、その巨石の軌道を変えた。後ろにはエミリオとカイルがいたから。
ところが、ギルが気付いた時、カイルを庇ったエミリオは、右足首をつかんで辛そうに顔をしかめていた。リューイのおかげで大岩の下敷きは免れたものの、それが転がり落ちてくるあいだに跳ね飛ばした小石の大きいものが、足首にまともに命中したということだった。
「足の方は大丈夫か。」
レッドが心配してきいた。
「ああ。カイルのおかげでずいぶん楽になった。」
エミリオは、曖昧にも思える微笑で答えた。
ここへ来るまでの途中で休憩をとった時、具合を診直しているカイルのそばでレッドが見た患部の変色は、本当に骨に異常はないのかと、眉根を寄せるほどだったのである。今はさらに腫れているだろう。
「あんまり無理すると悪化する一方だから、エミリオはどこかで休んで・・・」
そう言いながら振り返るなり、カイルはいきなり視線をきょろきょろさせた。
「あれ?ギルは?」
言われて、レッドも背後を見た。すると、あとからついて来ていると思い込んでいたその姿がない。
「変だな、さっきまでは居たんだが。」
行き交う大勢の気配に取り巻かれていて、まったく気づかなかった。迷子になったとは思えないから、恐らく、自分から離れたのだろう。理由は、周りにある興味をひかれる様々なもの。出店だ。
高身長のエミリオやレッドはそれに気づいて、人々の頭の上から目探りした。そんなギルに半分呆れながら。
一方ギルはというと、そのとおり、一人勝手に出店の方へ向かっていた。ギルは不意に、自分が得意とする長弓を売っている店を発見したのである。つまり武器屋のテントを目にとめてしまい、つい子供がそうなるように引き寄せられていた。
ところが、その店にたどり着く一歩手前で、ギルはクルリッと踵を返した。客の対応を終えて振り向いたその店主の顔を、知っていたからだ。