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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第3章  精霊石 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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運命の旅の仲間


 しかしあまりに現実味のない話に、ギルは思わず、エミリオの目を胡散臭うさんくさそうにのぞき込んだが、この生真面目きまじめな男が、真剣そのものの顔で、そんな嘘や冗談を言う方が信じられない。


「確かに、何もかも偶然にしては・・・妙だな。」


「だが・・・精霊を操るなど考えられない。」


「俺も想像つかないよ。いわば超常現象みたいなものを起こせるってことだろう? そんなものは噂に聞いたことがあるくらいで、俺にとってはおとぎ話だった。だが、この話の流れからいくと、いずれお前はそういう方法を教え込まれることになるんじゃないか。恐らく、あの坊やのじいさんって人に。」


「霊やそのオーラが見えるくらいで、今までそんな力を感じたことなどないのに・・・私にできるとは思えない。」


「あの坊やは、本気でお前を救世主だと信じきってるがな。」


 そのあとエミリオは、ひどく困惑している様子で黙り込んでしまった。


「なあ、エミリオ・・・。俺たちが聞いたのは、この世が果てるって話じゃなく、それを救えるって話だった。お前がやらなきゃならないことだとしても、す術がないと言われるよりは、ありがたいじゃないか。それどころか、あの坊やはできるとはっきり言い切ったんだ。いずれにしろ逃げようの無いことなら、やってみて損はないと思うぞ。それに、俺はまだ、そうなるとは限らないって思ってるしな。」


 ギルが力強い口調でそうはげましても、エミリオはまだ浮かない様子である。


 ギルは、今度は静かな声で続けた。

「あの坊やの言った通りになっても、ならなくても、とにかく俺たちにも、思いがけず道ができた。仲間もだ。このまま成り行きに任せてみても、今の俺たちには何の困ることもない。」


「・・・確かに。」

 エミリオは気弱な笑みでそれに応えた。


 ギルもそっとほほ笑み返した。

「きっと、楽しい旅になるぞ。なにしろ、凄腕すごうでの剣士と、武術の達人と、精霊使いと、それから・・・愛らしい小公女。みんな普通じゃない。彼らは、俺たちに足りないものをきっと持ってる。彼らから学べることが多くあるだろう。俺たちにも喜びや・・・」


 そこで一瞬、声をつまらせたが、ギルは思い切ったように続けた。


「そして・・・悲しみを分かち合える友ができたんだ。きっと親友になれる。だから、何よりもそのことを喜ぼう。」


 エミリオは微笑して、小さくうなずいた。


「その愛らしい小公女だが・・・まさにその人だったとは驚いた。」


「まったくだ。俺たちも、いつバレるか分かったものじゃないな。」


「人聞きの悪い言い方だ。」と、エミリオは苦笑した。


「ああ、済まん。これじゃあ、まるで悪党だな。」と、ギルも笑った。


「だが、君が飼っているという、あのたかの首輪は・・・。」


「まずかったかな・・・やはり。」

 ギルは肩をすくめる。


「いやそれに・・・この剣も。」


 二人は、自分の剣に視線を落とした。今は暗くてよく見えないが、共にオーダーメイドのその大剣には、武器を知る者になら分かるだろう、高価な素材が使われているのである。


「さすがの俺でも隠しようもなくなって、俺たちの正体を知ったら・・・どう思うだろうな。」


「ひどく驚くだろうね・・・とりあえず。」


「そりゃあ、酒場で会った時に、違うって言ってもあれだけ驚かれたからな。それはそうだろうが、それでも受け入れてくれるかな・・・って。」


「しかしギル、まさに、いつかは知られてしまうことになるだろう。そういう事態が起こるような気がする。」


「まあけど・・・大丈夫さ。こんな軽い男を皇子だなんて、誰も思わないって。どんなに顔が似ててもな。」


 ギルは少年のようににんまりと笑ってみせた。こういう表情の時には、彼は皇子の顔とは全くの別人になる。共にいると安心できる頼もしさと同時に、無垢むくな子供のようにもなれるそんな彼を、エミリオはうらやましくさえ思った。


「だがギル、そういう事態というのは・・・」


「お前と再会した日の、フルザの軍隊のようなか。」

 ギルも途端とたんに真顔になる。


「あの子たちを、危険な目に遭わせてしまうことになる。」


 それは、エミリオがカイルの要求に対して、何よりもギルに言いたかったことだった。自分がアルタクティスの中心であるとか、大陸の運命を握っている、などという受け入れ難い話を拒否するよりも、何より、関係のない彼らまでも、自分たちのいろいろと厄介で危険な問題に巻き込んでしまうかもしれない・・・そう危惧きぐしていたのである。


 すると、ギルも深刻な顔で黙り込んだ。


「試させてくれないか。」と、やがてギルは言った。「お前の心配は分かる。その思いはもちろん俺にもある。だから、俺たちが皇子だったことで戦いになるなら、その時は、また二人に戻って旅をしよう。だが、それまでは待ってくれ。俺は、彼らと旅をしてみたい。対等に付き合えるかどうか、試してみたいんだ。」


 エミリオは、そう言ったギルの真剣な目を見つめ返していた。


「私は・・・心配しすぎかな。」と、やがてエミリオは硬い表情を崩した。


 ギルもほほ笑み返した。

「それに俺たちのことを、あのおめでたい指揮官のように、すぐさま確信する奴はそういないだろう。彼らが一緒ならば尚更なおさらだ。」


「・・・そうかな。」


「そうさ。さ、そろそろ、その仲間たちのところへ戻ろう。」


 ギルは立ち上がって、エミリオの背中を軽く叩いた。


 エミリオもおもむろに腰を上げた。


 そして共に、夜のひんやりとした冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 今夜はもう、余計なことは考えずにゆっくりと休もう。また新たな一歩を、新たな仲間と踏み出すことになるのだから。












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