ありえない・・・
リューイは、形見の石を小さな巾着袋に入れると、ズボンのベルト通しにくくりつけてから、ポケットにしまった。アクロバティックな動きばかりするので、落とさないようにと、ロブが作ってやったものである。
レッドが下を通り過ぎたところで、リューイは声をかけた。
「ミーアは寝たのか。」
驚いて立ち止まったレッドは、反射的に見上げた。
さも慣れた様子で、リューイが大木の太い枝に腰掛けている。
「ああ、やっとな。カイルが頼まれてくれてる。」
レッドがそう答えている間に、リューイは何の躊躇もなく、そこからパッと飛び降りてみせた。無事に着地するには驚くほどの高さがあったが、ものの見事に。レッドはぎょっとしたが、リューイの方では日常茶飯事なのだろう。まるで猿だ。
「あんな所で何してたんだ。」
「ああ・・・いろいろ考えてた。カイルが言ってたこととか。お前、どう思う。」
「まるで実感が無いな。この大陸が近いうちに滅びるなんて。」
「だよな・・・。」
リューイは少し笑った。
「あの二人のことも・・・俺は、エミリオとギルのことを、カイルの言うアルタクティスとしての仲間ではなく、単純に気に入ったから旅仲間として受け入れた。今の俺にそれ以上の意識は無い。」
歩きだしながらそう答えたレッドは、すぐに肩を並べたリューイにこう問うた。
「なあ・・・そのギルの鷹がしていた首輪だが、妙だと思わないか。」
「どういうことだ?」
「宝石のような高価そうなものを鳥の首輪にしちまうヤツなんて、庶民にいるか? 貴族・・・いや、あの二人・・・案外、本当に皇子だったりして・・・。」
自分でも馬鹿げている・・・と感じながら、レッドはそう答えた。
「ええっと・・・どこのだっけ?」
「アルバドルとエルファラムのさ。」
「そのへんよく分からないんだけど、そんなに凄いことなのか?」
レッドがぴたりと足を止めると、リューイも立ち止まった。
「いいか、アルバドルとエルファラムと言えば、大陸屈指の強国。その二つの国には、それぞれ英雄と呼ばれている皇子がいる。あの二人が酷似のな。彼らはそうと呼ばれるだけあって、驚異的な剣の使い手だ。そして、あの二人も凄腕だった。それも恐ろしく。顔も名前も腕前も同じ別人なんて・・・いるか?」
「じゃあ、本人かも。」
「バカ、ありえねえよ。」
「お前がそう言ったんだろ。」
なんなんだ、と、リューイは呆れた。
「まだ続きがあるんだ。数年前、その二つの国は大戦争を起こしている。それがヘルクトロイの戦い (※2)だ。その合戦に二人の皇子も参戦したんだが、そこで彼らは母国の平和をかけて対決したらしい。多くの兵士が入り乱れる大合戦の最中でありながら、そこだけ違う戦いが起こっていたようだった、と聞いたことがある。」
ひと呼吸おいてから、レッドは強調してこう続けた。
「本気で殺し合いをした仲なんだよ。」と。
「じゃあ・・・二人が友達なんて。」
「ありえないよな。」
レッドとリューイは目を見合ったまま、しばらくそこに佇んだ。
(※2)『アルタクティスzero』 ― 「外伝4 運命のヘルクトロイ」