表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第3章  精霊石 〈 Ⅰ -邂逅編〉
65/587

一件落着。そして・・・


 リューイの右手が動いて、そばに転がっている小石をさりげなくつかんでいた。そしてそのことに、ほかの三人も気付いた。


 気配はある所まで来ると、そこで息を潜めてじっとした。


 そう確信すると、レッドはやや声をあげて言った。

「じゃあ、今後の行き先を決めようか。カイル、地図を出してくれ。」


 カイルが機転がきかずにいると、ギルが調子を合わせた。


「俺たちのものを出そう。実は旅慣れていないもんで、少し値は張ったが、なかなかに詳しく書かれているものを購入してきた。」


「へえ、ちょっと見せてくれ。」


「ああ、いいとも。」


 気になるそこを目がけて、リューイは素早く振りかぶった。ななめ後ろだ。


「ぎゃっ。」という、獣じみた短い悲鳴が上がった。


「命中。」と、レッド。


 すると、やぶの陰から何かが急いで立ち去る物音が。


「あ、逃げた。」

 カイルが言った。


 その時にはもう、リューイの姿は無かった。空腹の野獣さながら、リューイは飛ぶように追いかけて行ったのである。そして、ものの数秒で戻ってきたリューイの右手には、中肉中背ちゅうにくちゅうぜいのやや老いた男が一人、引っかかっていた。ドラ猫のように捕まっているその男は、肩越しにおずおずとリューイを見上げている。


「この人!」と、カイルが今さら驚いたように言った。「マデラスランの王様につかえてる人だよ!」


 同じく、ギルもその男を知っている。


 立ち上がったレッドは、いよいよにらみをかせて男と向かい合った。ミーアをひどい目に遭わせたその男には、たっぷりと恨みがある。


「お前か、いろいろと妙な奴らを仕向けてくれたのは。危うく死なせるとこだったろうが。」


 そんなレッドの様子を見たカイルは、ハッとした。そして頭の中に三つの言葉が一度に浮かんだ。


 レッド、大地の神、砂嵐・・・。


「もしかしてっ。」

 急にカイルが大声を出した。


 どうしたのかと、一同カイルに注目。


「レッド・・・もしかして、あの時、砂嵐が起こる前に、何か強く思ったことない? 神に祈るとか願うとか。」


「祈るとか、願うとか?」


「そう、何か感情がこうカッとたかぶるような気持ちにならなかった?」


「ああ・・・文句なら言ったな。」


「文句?」


 レッドはミーアに目を向ける。

「こいつの命から先に奪うつもりかって。」


「それを神様に向かって言ったの? 心の中で。」


「思いっきりな。」


 恐れ多い発言ばかりのレッドに呆れながらも、この時カイルは、恐怖に駆られずにはいられなかった。


「レッドだよ・・・。あの砂嵐は、僕が起こしたものじゃない。その精霊石に潜んでいるのは、神々の使徒しと。一時的に目覚めたレッドの中の大地の神(グランディガ)の力が、きっとそれらを刺激して、僕の呪力に少し乗っかってきちゃったんだ。それで、強力な精霊がいっきに集まってきて、あの砂嵐を起こした・・・。」


 その場にいなかったギルとエミリオは知らない出来事だが、二人とも、これまでの話から推測すいそくはできた。


「ダメだ・・・僕じゃあ。とても使役しきれない・・・。」


 そんな独り言を漏らして、カイルはゆっくりと首を向けた。風の神(オルセイディウス)の血を受け継いだ者、神々の中心であるという、彼に。


 そのエミリオの耳に、今のかすかな独り言は届いていた。エミリオは、少年の〝おそれ〟る眼差しを、ただ黙って受け止めた。


 一方そのあいだ、ひと一人を引っげたままのリューイは、話が終わるのを待ちながらイライラしている。


「おいこら、こいつを忘れてやいないか⁉ どうする気もないなら、捨ててくるぞっ。」


「忘れてねえ。」

 レッドは男をまたにらみつけ、剣を引き抜くと、刃先を男のあごの下に当ててドスを利かせる。

「さあ、ただじゃあ済まさねえぞ。ちょっと痛い目に遭ってもらおうか。」


 ミーアがあわてたようにレッドの上着をつかんだ。

 レッドがわきを見下ろすと、ミーアはひどく不安そうに首を横に振っている。


 レッドは「本気じゃないよ。」というようにほおゆるめてみせ、少女の頭をでた。


 男の方はもはや声も出せず、歯をガチガチいわせている。


手強てごわい用心棒がもう二人増えたと報告しに帰れ。分かったな。」


 強くうなずいてみせた男は、ひどく情けのないその表情一つで命乞いのちごいをしていた。


 レッドが剣を引くと、今度はリューイも男ののどに左手を回して、「またやったら、首の骨へし折るぞ。」とおどしかけた。


 男は顔中に冷や汗を滲ませ、リューイの恐ろしい目かららしている視線を、べつのところへひたすら向けている。こんな状況でも、やはり・・・どうしても気になることがあって。今そこにいる・・・アルバドル帝国の皇太子・・・ギルベルト皇子にあまりにも似ている青年のことが。


「ギ、ギルベルト皇 ―― ?」


「お前が欲しいのは、俺でなくこっちだろ。」

 ギルはわざと粗野な口調で、カイルを指差しながら別人のふりをしてみせた。


 リューイは、男の尻を思いきり蹴飛ばした。男はまた獣じみた悲鳴を上げてしげみの中に転がり、あとはもう、ひいひい言いながら去って行った。


 その悲鳴は、あっと言う間に遠ざかっていく。


 レッドは胸の前に両腕を組んで、大きく息を吐き出した。

「一件落着かな・・・とりあえずは。」


 そこで、不意にギルが声をかけてきた。


「話を全く関係のないところへ戻して申し訳ないが・・・。」と。


 レッドが何かと思い首を向けた時、ギルの視線はミーアの顔に。


「その子は改名でもしたのか? 俺の記憶では確か・・・。」


 レッドの顔が、しまった・・・というふうになる。


 レッドはリューイと目を見合った。


 リューイは苦笑いを浮かべながらうなずきかけ、レッドも苦笑して頷き返した。彼らになら・・・。


 そうして、レッドは話し始めた。ミーアとの出会いから、その少女を失踪しっそいさせるに至った訳を。そんな真実を淡々と説明した。


 すると、ギルが声をたてて笑いだした。


「あんたも大胆だな、小公女をかっさらってくるとは。」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ