旅は道連れ
一方のカイルは、今や使命感に燃える引き締まった表情で立ち上がると、「歴史は繰り返されているんだ。それなら、必ずやり遂げなければいけない。この大陸を守れるのは、僕たちだけなんだ。」と、熱弁をふるった。
その少年の話の大部分が次元の違うことのような気がして、エミリオはあまり、そしてギルはまるっきり深刻になどなれはしなかったが、少年は決してふざけているわけではなく、その熱意には感動すら覚えるほどだ。大陸の一大事についても、根拠が不明確な誰かの妄想や狂言でもないことも、いちおう理解できた。
ここに、しばらく沈黙が落ちた。
「よし、まとめよう。」とギル。「つまり結論としては、君は俺たちに、とにかく一緒に来てもらおうかと、そう言いたいわけだな。」
「そんなところ・・・です。僕のこの話だけじゃあ、今は信じてもらえないだろうけど・・・いや?」
ほかの一人一人にも向けられるカイルの瞳が、なんだか断りにくい哀れを催すものになる。
するとギルは、「ああいや、信じられないだけ・・・。」と答えて、エミリオと目を見合った。そして、エミリオが何か言いたそうな顔をしたことに気付いたが、あえて無視するとこう言った。「まあ・・・いいか。どうせ、あても目的もない気楽な旅だったからな。悪いが、今の俺には、その使命感とか自覚とかはまるで無いんだが、それでもよければ。」
「ギル・・・。」
「旅は道連れだ。」
エミリオが何を心配しているかは分かっている。だがギルは、だからこそ二人でいるよりもいいと思った。考え方を変えれば、彼らの存在はカムフラージュになる。何より、自分にもエミリオにも仲間がもっと必要だと、そう思ったのだ。
歓声を上げたカイルは、満面の笑みをそのままレッドとリューイに向けた。
「二人も、あてのない旅だって確か言ってたよね。」
「ああいや、それは・・・。」
レッドは、バツの悪そうな顔で口籠った。
「どうするんだ、レッド。俺はお前に合わせるよ。けど、よく分からねえけど、仲間を探すって楽しそうじゃないか? 俺はわくわくするけどな。」
「うん、楽しそう! ねえレッド、皆で一緒に旅しようよ、ねえねえっ。」
人の気も知らないで、リューイとミーアがそう暢気でいるのを横目に、レッドは頭を抱えた。
レッドにとってのあてのない旅は、本当のところは、一時的なものでしかない。恩を返さなければという思いから、つい安請け合いしてしまったレッドは、その期間を、カイルのお供をする間にあてていただけに過ぎなかった。レッドは、カイルをヴェネッサへ送り届けたあとは、もう町へは入らず、また別の行路でトルクメイ公国へ向かい、ミーアを返すと勝手に予定を立てていたのだ。
それが、このような思いもよらない展開を迎えることになろうとは・・・。
レッドは弱り果てた。なにしろ、問題はミーアのことばかりではない。テリーへの誓いもある。彼の分まで戦うと誓ったレッドは、いつまでも気楽な旅をのうのうと続けるわけにもいかなかった。
さらに困ったことには、この話の流れからいくと、避けていたイヴとの再会を余儀なくされるに違いない。ひどく気まずいことになる。少なくとも、自分は・・・だが。彼女がまだ本当に待ってくれているとしたら・・・喜ぶだろうか。そうなれば、また裏切るような形で傷つけてしまう。
だが、すでにこの話を承知したギルとエミリオ、それに、リューイのどう返事をするのかと窺っている眼差し、ミーアの期待いっぱいのキラキラした笑顔、そして、それ以上にカイルのすがるような瞳には敵わず・・・。
結局・・・一つ派手なため息をついてから、レッドはこう答えた。
「・・・分かった。一緒に旅をしながら考えるよ。」