つながる
ギルは、この川辺で着替えた時に脱いだタオルを腕に巻くと、慣れたように片手で指笛を吹いた。それはよく通る甲高い音で、空を裂くように響き渡った。
すると鷹が反応した。華麗に向きを変えて翼を水平にしたかと思うと、勢いよく空から駆け下りてくる。
その迫力にレッドは思わずミーアを引き寄せ、リューイも避けようとしたが、その鷹は、彼らの輪の前で急に速度を緩めた。体勢を整え、ギルがタオルで保護した腕を止まり木代わりに、そこへ舞い降りたのである。
若くて、立派な鷹だった。その中でも大型で、ワシとも呼ばれる猛禽類である。鋭い鉤爪を持ち、握力も強い。生まれて間もない赤ん坊ならば、空を舞い上がらせることもできそうなほど見事な体格で、力強さが漲っている。だから、本当なら、鷹をとまらせる部位に革製の籠手や腕貫、肩当てなどの防具を着ける。今はそれが無いので、ギルはタオルで代用したが、鷹の方はいつもとあまりに違う感じに落ち着かない様子。ただ、それをほとんど態度に出さないほど賢く、よく躾けられていて、しかもギルに懐いているばかりでなく、敬っていた。
その愛鷹の頭を軽く撫でてやりながら、防具を買わなきゃな・・・と、ギルは思った。
そしてその鷹は、確かに首輪をしている。鳥の首輪など珍しい。何かの拍子にスルリと抜け落ちてしまいそうだが、少し柔らかい素材でできていて、それにはホワイトオパールのような乳白色の宝石が上手く取り付けられてあった。特注品だろう。
その鷹を一目見るなり、エミリオは、ギルと再会したオリーブの木の下で聞いた、あの奇妙な話を思い出していた。夜遊びの手助けをしてくれる《《モノ》》がいるという、信じられないあの無断外出の話を。
「ギル、それが賢い相棒の・・・。」
エミリオにうなずいてみせたギルは、その一方、何か言いたそうに人の顔を遠慮なく見つめてくる少年が気になってならなかった。
鷹がギルの腕に舞い降りたその時、その瞬間に、首輪の宝石が神秘的な変化を見せたのを、カイルはしっかりと確認していた。
その勝ち誇ったような笑顔を見ただけで、ギルにはもうじゅうぶんだ。
「これがそうだって言いたいんだろ?」
「うん!」
「言っておくが、こいつの名前はフィクサーであって、月の女神じゃないぞ。こいつも雄だ。」
そんな冗談を言ってみせたギルだったが、カイルに何を言われる前にもう、自身もこの途方もない話に巻き込まれたのだと悟っていて、あとはただ無言でため息をついただけ。
そしてカイルは、エミリオとギルだけでなく、レッドとリューイにも改めてこう言った。
「よかったら・・・じゃなくて、無理にでもこれから一緒に旅してもらわないと困るんだけど・・・とりあえず、まずはおじいさんのところまで。」
「その話しぶりから、ほかにもまだ仲間がいるようだな。何人いるんだい、その・・・アルタクティスとやらは。」
ギルがきいた。
「十人。」
「それで、俺たちのほかにもいるのか? その・・・君に、だしぬけにそんなことを言われた者は。」
「一人だけ。ああでも、彼女は、僕たちが会いに行く前からもう自分のことを分かってたから・・・すごく驚かれたけどね。」
レッドはそれ以上を聞きたくないと思った・・・が、そんなレッドをよそに、カイルは続けて決定的なひと言を口にしたのである。
「彼女は修道女なんだ。ヴェネッサの町のミナルシア神殿の。」と。
「イヴ・・・フォレスト?」
レッドは、いよいよ参りながら確認した。
「なんだ、知り合い?」
「まあ・・・そんなところだ。」
「そういえば、レッドは前にもヴェネッサにいたんだっけ。」
もはやレッドは、カイルのそれには答える気力もなく、浮かない表情で黙り込んでしまった。