四歳の救世主
「なに?」
カイルが怪訝そうな顔をする。
「いや、やっぱりどうってことない。」
「やっぱりって、なに。だめだよ、ちゃんと診せて。」
「いや、いい、大丈夫だ。」
「レッド、痛いよ。」
「ほら。放っておいたら大変なことになるかも・・・。」
半ば強引にレッドを押し退けてミーアの腕を診たカイルは、それから胸を突かれたような顔でレッドを振り返った。
「うそ・・・光の神だ。」
レッドはたちまち気が気ではなくなり、「お前、ミーアもそうだって言うんじゃないだろうなっ。まだ四歳だぞ! こんな子供に何ができるっ。」と、わめき散らした。
「だって、この輝きは、本来持つべき者の手にある時にだけ見せるんだ。確かだよ。霊能力を持たないと分かりにくいかもしれないけど、僕たちのような能力者には、はっきりとその中に特別なものが見えるんだ。」
「救世主にこんなガキを選ぶわけないだろう! 神は血迷ったのか ⁉」
「ちょっとレッド、言葉を謹んでよっ。その子だってきっとアルタクティスの生まれ変わりなんだから、二人は出会うべくして知り合った。運命によって仕組まれたようなものだよ。」
「胡散臭いにも程があるぞっ。」
「それに伝説によると、最終的に全ての神の力を操ってその脅威と戦うことができるのはオルセイディウスだけだから、今は僕たちの中に分散されてるその力を、オルセイディウスに託す何らかの方法があるはずなんだ。だから・・・その力を秘めるだけなら、その子にも可能だよ。その子は、光の神の力を持ってる。」
「何らかの方法って?」
問い質すような強い口調で、レッドはカイルを睨んだ。
「それを今、おじいさんが調べてるところなんだ。」
ギルが口を挟んだ。
「一ついいか。つまり、結局はエミリオ一人がその重荷を背負うことになるってわけか?それを信じる信じないは別として、そんな勝手な話が ―― 」
「でも、彼にはそれだけのことができる力が備わってるんだ。方法を知らないだけ。」
ギルは、無言でただエミリオと目を見合った。その時、向かい ―― カイル ―― から、また何か未練がましい視線を感じた。
今ここに六人いて、うち五人がそれだという共通のものを持っている。今となっては一人だけ当てはまらないことが、カイルの予感をますます強くした。
「やれやれ・・・俺は本当に知らないって。」
食い入るように見つめられて、ギルは大きく息を吐き出しながら答えた。
「私も・・・一ついいかな。」
視線をカイルに向け直すと、エミリオが言った。
「君はもしかして・・・医者なのかい?」
「よく信じられないとか言われるけど、こう見えても正真正銘の医者でもあります。」
カイルは胸を張って答えた。
「いや、疑うつもりはないが・・・この話を進める前に、その子の腕を診てあげた方がいいんじゃないかな。」
カイルがハッと気付いて見てみると、ふくれっ面で手当てを待っているミーアがいる。
謝りながら、例によって医療バッグの中身を広げたカイルは、テキパキと適切な処置を施した。
その慣れた手つきと手際の良さに、ギルとエミリオは感心しながら「意外。」という表情。
レッドが横から、「腕は確かだ。」と、ささやきかけた。
その間、リューイは一人、頭上の空を仰いでいた。少し前に偶然目にとめてからというもの、それが気になってならず、ずっとそうして空に目を凝らしていたのである。
リューイがそうして見つめているのは、同じ場所を行ったり来たりと、まるで指示を待つように旋回を続ける大きな鷹だった。それは川の流れの上の、視界が開けている場所にいてよく目についた。
だが、リューイが気になっているのはその鷹自体ではなく、その鷹が首に何かを付けているように見えることだ。
「あの鷹・・・。」
リューイの声に、レッドも空を見上げてすぐに気付いた。
「首輪?・・・飼い鷹か?」
エミリオも肩越しに振り向いたが、ギルの方は驚いたように腰を捻っていた。そして背後の空に目を向けるや、その口から、「あいつ・・・付けてきてたのか。」という、何か親しみ深い声が漏れた・・・と同時に、今思い出したことが一つ。
ギルはその鷹に視線を定めたままで、こうきいた。
「なあカイル・・・スピラシャウアの精霊石ってのは・・・何色だ?」
「白だよ。乳白色っていうのかな。」
速やか、かつ滑らかにカイルは答えた。まさに全てを見通すような声の調子が、少し不気味にも感じられる。
それというのも・・・。
「嘘だろ・・・。」
今思い出した、ギルに心当たりのあるものといえば、その鷹がしている首輪の宝石・・・乳白色の。
また当てた・・・と、ギルは内心驚愕した。