敵の部隊
驚いて、エミリオは彼の目を見た。
「そなたと・・・私が?」
「そうだ。」
「だが、そなたとは・・・。」
「俺のことは、ギルって呼んでくれたらいい。この顔の時は、そのあだ名で通ってたんだ。あんたのことは・・・エミリオでいいか。もしバレそうな塩梅になったら、笑い飛ばせば済むことだしな。思い切り別人らしく。俺はそうしてやってきた。」
エミリオがまだ何とも答えられないままにも、ギルは勝手に先走って言葉を連ね始めた。
「いや、しかし・・。」
エミリオは、ただただ戸惑うばかりだ。
ギルが急に顔色を変えた。
エミリオが返事に困っているその間のことだった。
ギルは、遠くを見透かすように目を凝らしている。
「あれは・・・。」
今まで見ていた風景の中に、別のものが加わっていることに気付いたのである。それは、ずいぶん起伏の激しい大きな岩のようにも見えた。だが、次第に大きくなっているようだ。
ギルは立ち上がった。
「いかがなされた。」
エミリオも怪訝そうに声をかけ、そして同じ方角をじっと見つめた。
ようやくそれが色彩を帯びだすと、ギルはいきなり切羽詰った声を上げた。
「フルザだ!」
赤地に二本の剣をあしらった抽象的な鳥の図柄、それが王国フルザの紋章だ。その軍旗を目にして言ったのである。
「まずいな。フルザといえば野心家の大王が君臨する好戦的な国家だ。エルファラムも、虎視眈々《こしたんたん》と狙われてると思うぞ。」
「確かなのか。」
「俺の視力はピカ一なんだ。くそ・・・ついてないな。とにかく隠れよう。」
ギルは、悠長にもまだ座ったままのエミリオ皇子を急かしながら、辺りを見渡して適当な場所を探した。そして共に、ちょうど体が収まりきれるくらいの岩陰に身を潜めた。
「幸か不幸か、軍隊にしてはやけに少人数だな。ただの偵察部隊か?それでもやらかす羽目になったら、二人じゃ多勢に無勢だけどな。」
ギルは、次第に近づいてくるそれらを、岩陰から肩越しに見て言った。総勢ざっと五十というところである。
「やらかす?」
話の流れから意味は推測できるが・・・と、エミリオは面食らった顔をした。
「あんたもだろうが捕虜になんてなってる場合じゃないから、その時は頼りにしてるぞ。」
ギルが軽口を叩いているその間にも、馬の蹄の音と、足並みをそろえてやってくる物音はどんどん大きくなっていた。
二人は息を殺して待った・・・。
ところが・・・である。やがてその気配と足音がすぐ背後にさしかかったかと思うと、それらは通り過ぎることなくピタリと止んでしまった。