前世は・・・
カイルには強い確信があった。風の神の近くには、ずっと月の女神がいたのである。その実際の距離間がどうであるかは定かではなかったが、思えば、ここにいる者たちはみな、こうしてオルセイディウスと出会っているわけなのだから、とにかく、カイルには無性に、この中に月の女神がいるように思えてならなかった。
カイルは、期待に胸を膨らませてそれを受け取った。そして、その布包みを丁寧に開いていきながら、「・・・違う。」と、つぶやいた。
「だろ?」
レッドは、ほっと胸を撫で下ろした・・・が、それも束の間、カイルはそのあと続いて、「でも・・・大地の神だ。」と、言ったのである。
「は?」
「レッド、もう一度これを僕に見せるように持ってみて。」
カイルは、その宝石をつまみ上げてレッドに手渡そうとした。
レッドの胸の内は、今や様々な事情が絡み合って、混沌としていた。だが気付けば、そんな複雑な心境のままで、されるままにそれを受け取っていた。
その瞬間、飴色の宝石は神秘的な光を放ち、カイルの目は大きく見開かれた。
「レッド、大地の神だよ!」
そのカイルの歓声にも、レッドは滅入るばかりである。
「なあ、こんな石を持ってたらどうだってんだよ。」
ずっと黙って様子を見ていただけのリューイが、ここで初めてそう声をかけてきた。
「だから、それはあとで・・・こんな?」と、リューイを振り返ったカイルは、言葉を失った。
彼は青い宝石・・・海の神の精霊石を手のひらで転がしているのだから。
「リューイ、それ!」
興奮しっ放しのカイルは声を上擦らせた。
「海の神!」
言葉が何も出てこないままに、困惑するやら驚くやら、同じような表情を見合わせる周りの男たち。
「なんだ、どうして教えてくれなかったのさ、二人ともっ。ずっと探してたのにっ。」
「知るかよ。て言うか、だから何なんだっ。」と、リューイ。
「君たちは事情も知らずに一緒にいたのか。」
ギルがすっかり呆れてきいた。
「俺たちは、こいつに助けてもらった礼でお供してただけさ。話は少し聞いてたけど、さっぱりだったし。なあ、レッド。」
「え、あ、ああ・・・。」
この展開に加えて、さらにイヴが大事にしていたペンダントの宝石のことなどを考えていたレッドは、そう相槌をうつしかできなかったが、ここでようやく気を取り直して、リューイやカイルに目を向けた。これが何を意味するのかまだ分からないうちから、動揺すべきではないと。
「風の神に、大地の神に、海の神。ああどうしよう、突然すぎて・・・。」
「こっちのセリフだよ。」
ギルがそう呟いた時、カイルがまた勢いよくギルに向き直った。
「じゃあ、やっぱり、あなた月の女神だ! 絶対持ってるはずだよ、ちゃんと説明するから、ねえっ。」
「そこの少年、頼むから落ち着いて聞いてくれ。俺は本当に、そういうものは何一つ持っちゃいない。君がさっきから口走っているのは、全て神の名前だろう? 君は一体何者なんだい? とりあえず、それだけでも今教えてくれ。」
ギルは至って冷静を崩さずにきいた。
カイルは一つ深呼吸をすると、またつい早口にならないよう気をつけながら、こう明かした。
「僕は、過去にこの大陸を滅亡の危機から救ったアルタクティスの一人、闇の神ラグナザウロンの力を受け継いだ人の生まれ変わりです。そして、その僕に使命が与えられたんです。それは、ほかのアルタクティスの仲間を探し、再び大陸を救うこと。その歴史が・・・繰り返されようとしているから。」
言われた方は、ただただ呆気にとられた。
そして、また、無言で視線を交わし合った。