朗報 1 一一 ヴェネッサの町にて
カイルは外に出て、小鳥が巣を作りそうな郵便ポストから三通の封筒を取り出した。二つは占いの依頼らしかったが、明らかにほかとは違う最後の一つ、上等な封筒であるそれを見るなり、カイルは飛び出さんばかりに目をみはった。そして、まじまじと差出人を確かめ、それから慌てて中の手紙を引っ張り出した。
そこに書かれてある内容を知ったカイルは、さらに目を大きくした。そして、大声でこんな独り言を叫んだ。
「うそっ !? ほんとに結婚しちゃうんだあっ!あ、イヴのとこにも来てるはずだよね。連れてってもらわなきゃあ。レッドは帰ってんのかなあ。」
小さな紛争すらも聞かなくなった今、イヴと住む家をヴェネッサの町に構えたレッドは、エルティマ王国の各地を転々としながら、子供たちや兵士たちに剣術の指導をする仕事に就いていた。学校や孤児院ではボランティアで、そして、戦士の訓練所や軍の訓練施設では本格的にである。それに、今でもアイアスに憧れて試験を受けにやってくる者のために、これまでは戦士歴が足りずにできなかった試験官も初めて務めた。
そんな中、レッドは今の平和を嬉しく思う一方で、ふと腕が落ちてはいないかと不安になることもあり、エミリオやギルの鳥肌が立つほど華麗で卓越した剣捌きを思い出しては、いつかまた手合わせ願いたいものだと、時々考えることがあった。
そして、カイルのもとに招待状が届いたこの日、合格者が出ないままユダでのひと仕事を終えたレッドは、あちこちで走り回っている乗り合い式の幌馬車を次々と乗り継いで、予定よりも早く約二か月ぶりに、ちょうど我が家へ帰ってきたところ。
その夜、イヴと毛布に滑り込んだレッドは、いつものように少ししつこい(甘い)接吻と、彼女の躰を優しく愛でる〝互いの心が満たされるだけの愛撫〟を終えると、それなりに疲れている体をベッドに沈ませた。
レッドは腕枕で伸ばした手でイヴの滑らかな肩を抱き寄せながら目を閉じた。
ところが、そうしながらレッドが昂る欲情をやっとコントロールできたというのに、イヴの方がまだ興奮が冷めやらず、夜中だというのにやけに目が冴えていた。だがそれは、今、彼とこうしていられるという幸せとはまた別の意味でのこと。
人の気も知らずに、イヴはレッドの頬に軽くキスをして気を引くと、「ねえレッド、嬉しい知らせがあるわよ。」と、反応を楽しみにしながら囁きかけた。
「え・・・なに。」
レッドは参りながら、鼓動がまた激しくならないようそのままで答えた。
「目を開けて。嬉しい知らせなのよ。」
目を閉じて仰けになっているレッドは、眉間に怪訝そうな皺を寄せる。
「・・・まさか、できたなんて言うんじゃないだろうな。」
「バカ。」
「だよな。覚えがないから、俺はまた夢遊病かと思った。」
「もうっ。いいわじゃあ、あなたがぐっすりと眠ってから教えてあげる。後悔するから。」
イヴの機嫌を損ねてしまったレッドは、仕方なく薄目を向ける。
「いったいどうした。」
「エミリオとセシリアが結婚するわ。」
レッドは驚きのあまり、一瞬声が出てこなかった。数秒たってやっと「なんだって !? 」と跳ね起き、自分のことのように嬉しそうにしているイヴと見つめ合う。「本当に?」
「ええ。今朝、招待状が届いたの。見る?」
手を伸ばして灯りをつけたイヴは、サイドテーブルの引き出しから一通の封筒を取り出した。
それを受け取って中の文面を確かめたレッドは、手紙を見つめたまま、頬に笑みを浮かべてイヴを抱き寄せた。