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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第3章  精霊石 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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精霊石



「たちって・・・大陸名だろ、それ。」と、ギル。

「違います。とにかく、あなたは神々の中心なんですっ。」


 レッドは絶句。


 アルタクティス・・・。今と同じように違うと言ったイヴの言葉が、また脳裏をよぎったからだ。レッドの頭の中で今、まさかと思い、なんとなく考えていたことが確かなものになった。そうすると、この自分から見てもうっとりしてしまうような美しい男を、彼女は待っているということになる。言葉を失うのも無理はなかった。


「それで精霊石は何色⁉ 紫色だよね!」

「精霊石?」と、エミリオ。

「精霊石?」と、ギル。

「そう精霊石っ?どこっ?何色っ?」


 カイルはすっかり興奮しきって、ついには、いきなりエミリオのボディーチェックを始めだした。とはいえ、上半身は見れば分かる。探すといっても、彼のズボンのポケットに手を突っ込みながら、荷物はどこかときょろきょろしているだけ。


「え・・・君・・・その・・・。」


 されるがままのエミリオは、自分の周りをうろうろしている少年を見下ろして、がらにもなく動揺どうようしていた。初対面の者に「さがしていた。」などと告げられて、唐突とうとつなセリフを早口で浴びせかけられているのだから。


 そこへいきなり握り拳が飛んできて、短い悲鳴を上げたカイルは後頭部を押さえながら我に返った。振り向いてみると、軽いげんこつで冷静に戻してくれたレッドが、呆れた顔でこう言った。


「思いきり困惑してるだろ、分からないのか。」


 落ち着いてゆっくりと向き直ったカイルは、改めてその青年を眺めた。


 神々の中心・・・この人が。


 男の人なのに、見れば見るほど本当に綺麗な顔立ちで、たくましい体つきと刃渡はわたりの長い大きな剣を手にしていても、全身から圧倒されるほどの気品があふれている。何か奇妙な感じだった。伝説では、正気を失ったあらゆる精霊を神のごとく導いた者。呪術に関して無知の者という可能性も祖父の頭にはあったようだが、まさかこんな若い美貌びぼうの戦士だとは。


「さがしてた・・・って、どういうことだい。」と、ぎこちない、困ったような笑みを浮かべて、エミリオは問うた。 


「あの、ゆっくり説明させてもらう前にまず、精霊石っていう、あなたが持っているはずの宝石みたいな石を確認したいんだけど・・・何か、そういうのに心当たりはないですか?」


「今、身近にあるそのようなものは・・・確かに、一つだけあるが。」


 そう穏やかな声で答えてみせたエミリオだったが、内心驚かずにはいられなかった。なぜなら、心当たりのあるそれは、少年の言う通り、確かにあわい紫色をしているからだ。


「見せてもらえますか。」


 エミリオは、驚いたように目を向けてきたギルを見た。

 だが言葉は何も交さず、黙って今握っている剣を左手に持ち変えると、剣のつばに巻きつけてある布を、右手でためらいがちにスルスルとほどき始めた。


 間もなくそれはあらわになった。エミリオの大剣の布で覆われていたその部分には、見事な浮き彫りの装飾よりも目を引くものがあった。素晴らしい色艶いろつやの宝石。まさに淡い紫色のそれが顔を現したのである。見た目は一級品のアメシストのようだが、そうではないこと。それが生まれた原理をカイルは知っている。


 カイルの瞳がきらめいた。


風の神(オルセイディウス)!ああやっぱり!」


 カイルは感激のあまり、エミリオの前にひざまずいた。


 そうされることにれているエミリオであっても、さすがにこの時ばかりは冷静ではいられなかった。


 それを見たギルは、「お前の家来か?」と冗談を言い、エミリオは真面目まじめに首を振った。


 この時、カイルは同時に思い出した。反応を表した精霊石同士の位置関係を。それによって勢いよく立ち上がったカイルは、今度はギルに向かってこうわめいたのである。


「じゃあ、もしかしてあなたは月の女神(スピラシャウア)!」


「俺はそんな、たいそうな名前じゃない。」

 ギルはあきれたように続けた。

「しかも、それは神の名前だろう、月の女神の。俺は見ての通り人間で、男・・・だろ?」


「そうじゃなくて、えっと・・・とにかく、あなたも何か心当たりはないですか? こんな宝石に。持ってない?」


「あいにくだが、俺はそういうガラス玉すら持っていない。剣の装飾も、この通り浮き彫り模様もようばかりだ。悪いな。」


「じゃあ、もしかして・・・レッドかリューイ?」


「なんで、いきなり話がこっちに来るんだ。」と、答えたレッドだったが、ふと気付いて思わず顔を強張こわばらせていた。


 そしてそのことを、カイルは見逃さなかった。


「持ってるの?」


 カイルは、まじまじとレッドの目をのぞきこむ。


 そこでレッドは、厄介やっかいなことに巻き込まれそうな嫌な予感を覚えたものの、とぼけるという気が回らず、あからさまに動揺してしまった。


「・・・いや・・・俺は・・・でも、違うだろ。」

「でも?」

「いや、これは・・・だな、何でもない。だいたいそんな話・・・。」

「持ってるんだね! 見せて!」


 カイルはいきなり、レッドのボディーチェックを始めだした。


 レッドは大あわてで身を引いた。


「これは俺のめちゃくちゃ大事なもので、絶対に関係ない!」


 レッドにとって、それに心当たりのあるものは一つ。テリーが御守りにとくれた、形見の宝石。それが今、意味も分からずカイルに奪われようとしているのだ。


「ちょうだいなんて言わないから見せてよ! ねえ!」


「取られそうな勢いなんだよ、落ち着けよじゃあっ。」


 レッドは、体中をいやらしくさわってくるカイルのその手を引きがすことに、懸命になった。レッドは片腕にミーアを抱いているので、おかげでずり落ちそうになるのを何度か持ち直しながら。そしてようやく、興奮が冷めやらぬカイルをおとなしくさせると、ズボンのポケットに手を突っ込んで、つかみ出した布包みを、そのまましぶしぶ差し出した。








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