どこでも、きっと・・・
リューイとメイリンは、生々しい戦闘の爪痕が洗い流された塔の上に、二人で上ってきていた。大砲が設置されてあった近くに腰を下ろし、そこから見渡せる山の尾根を眺め、共に少し感傷的になりながらしばらく口を閉ざしていた。
その思いとは裏腹に、頭上には澄みきった快晴の青空が広がり、時折さわやかな そよ風も吹いた。
それに心を和ませることができるようになると、やがてメイリンは気を引き締めて、リューイの方を向いた。
「ねえリューイ・・・私、決めたわ。」
メイリンは躊躇いがちに、だが固い意志をもってやっと言った。
「どこでもきっとやっていける・・・あなたとなら。」
「メイリン・・・それって・・・。」
驚いたようにメイリンの目を見つめ返したリューイだが、その意図はすぐに悟ることができた。こうして全てが終わった時から、リューイもそのことばかりが気になっていたのだから。つまり、メイリンは人里離れた、しかも自分にとっては危険極まりない秘境の地アースリーヴェの密林で、リューイと共に —— ついでに彼のお友達とも一緒に ―— 暮らす覚悟を決めたと言うのである。
「私を・・・守ってね。」
そう言ってやや躊躇しながら迫ったメイリンは、思いきってキスをした・・・唇に。
ところが、リューイは理解できずにきょとんとしている。
ミーアが仲間たち、ことにレッドや自分に向けて唇を突き出し頬にブチュッとしてきたり、逆にエミリオやギルがミーアの額にチュッとするのを見ることはよくあるが、何か違う気がした。
「え・・・なに?」
「なにって・・・何が?」
メイリンの方こそ、そんな彼が分からずただ顔を赤らめるしかない。
「だから・・・なんで?さっきの・・・。」
「なんでって・・・。」
リューイの顔から恥ずかしそうに視線を逸らしたメイリンは、そうして彼の目を見られないまま答えた。
「好きだから・・・。あなたが、好きだから。」と。
するとリューイは、急にどういうつもりか子供のような明るい笑顔。
「そっか!」
そっか・・・?と、メイリンが顔を上げたその時、いきなり彼の顔が近付いてきて・・・!?
「痛いっ。」
「ごめん、いててて・・・・。」
「もう、バカねっ。そのままやったら、そうなるに決まってるじゃないっ。分かるでしょっ?」
「邪魔だと思った・・・。」
メイリンは両手で、リューイは片手で自分の鼻尖を押さえながらそう言った。
そんな冗談でない言動に、メイリンは開いた口がふさがらない。
でも・・・そういえば・・・。と、メイリンの目にここで不意に浮かんだのは、リューイと初めて出会った夜のこと。
あの時も彼はこんな感じで・・・ああ、そうだった。私が好きになった彼は、こういう人だったわ。
「ふ・・・ふふ・・・あははは。」
「あはは・・・。」
リューイもつられて笑った。
「ほんとに、おもしろい人。」
メイリンは涙が出るほど笑いながら、だが懐かしそうに、あの日と同じことを口にした。
実は、そんな二人の様子を、やや離れた物陰からそっと見守っている者がいた。なにも悪趣味でこそこそとつけてきたわけではなく、昼食が出来上がったので二人を探しにきたのである。そして城壁の通路を普通に渡っていると、やがて二人を発見。声をかけようとしたが何か良い雰囲気だったので、思わず隠れて遠目からうかがっていた。
そして、たまたま目撃したのがこの・・・たぶんキスシーン。
「どこの子供のお遊戯だ・・・。」
ムードをぶち壊すカウンターアタック。もはや喜劇の一場面でしかない・・・と、顔に手をやってギルは思う。
「いくら何でもアレはないだろ・・・。あいつら、あんな調子で大丈夫か。」
レッドのその口調も、恥ずかしい・・・と言わんばかりだ。
「メイリンも先が思いやられ・・・」
ギルは言いかけて、口をつぐんだ。呆れ返っていたはずのその表情も急変している。
「レッド・・・大丈夫さ、きっと。ほら・・・。」と、ギルは目を細めた。
そう促されて、レッドもまた視線を二人の方へ。
すると、メイリンの頭に優しく手を回したリューイが、少し首をかたむけて、上手くごく自然な感じで接吻をやり直しているところが見えた。